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第12話 見捨てられた者は不幸の味を知る

「と言うことで、恐れ多くも水の大精霊である私の祝福をタダであげるからね。

ありがたく受け取りな。

さっ、シャツを捲り上げて背中を見せろ。」


裸になれと。

あぁっ、やっぱり俺は黒ミサで怨霊様の生贄にされるんだぁ。

そして、その怨印を体に刻み込まれて。

傀儡として良い様に弄ばれるんだ、主にカ・ラ・ダが。


「てめぇ、人聞きの悪いことをめかすんじゃねぇよ。

誰がお前の体なんかをほしがるか。

いいから、早くシャツを捲れ・・・・・・・。

あっ、ちょっ、ちょっと待ってよ。

何で真っ先にズボンを脱ごうとするかなぁ。

裸になれなんて言ってないから。

背中がちょっと見えるぐらいシャツを捲ってくれればで良いんだけど。

あぁっ、だからズボンは脱がないで良いと言ってんだろ、聞いてんのかお前はぁ。

なぜ、下半身を露出したがる。

さてはお前、あれだろ、露出狂の変態だろ。」


だからぁ、ズボンを緩めないとシャツを捲り上げ難いんですけど。

それが何で下半身の露出狂に繋がるんだ。

脱いでもいないのにズボンを降ろすことに拘るんだ・・・・・

あっ、200年間の欲求不満が溜まって・・・・・・


「うっさぁぁぁぁぁぃ。」


身に着けているさわやかな水色のドレスとは真逆に、顔を真っ赤にして迫りくる貧乏な精霊さん。

そして、腕を振り上げて。


バチンッ。


強制的にシャツを捲り上げられて、背中に紅葉を作られてしまいました。

痛いです。

ほっぺの紅葉よりも痛いです。


「これで良し。

祝福をあげるのに変態扱いされるとはな、全く。

こんな露出狂に祝福をあげることになるとはな。

本当は背中に手のひらを当てて、念じるだけで祝福とその印を授けられるんだけどなぁ。

お前が変な事を考えて、脱ごう・・・・いや、抵抗しようとするから仕方なくだな。」


背中の痛みと貧乏な精霊さんの興奮した顔から今の状況を整理した。


あぁ、いま俺は確実に貧乏な精霊さんに襲われましたよね。

物理的に襲い掛かられましたよね。

そして、貧乏な精霊さんに手を付けられた。


・・・・・・・・・


もう、お婿に行けない。

責任取ってくれ。


「わかった。

責任を取って一生憑りついてやるそうじゃないか。」


遂に怨霊としての本性を現したな。


「もう遅いから。

手を付けちゃったから。

この祝福からは逃れられないから。」


この怨印からは逃れられないと・・・・・


「ちなみにこの逃れられない怨印が着くとどうなりますか。」

「だから、怨印ちゃうから、水の大精霊からの祝福を受けた見印だから。」


怨印を付けたまま俺が村に戻るとそこに込められた怨念が即刻発動。

村が洪水に襲われる、村人が川に落ちて溺れる、毎日雨が降り続いて不作で飢饉に・・・・・・


やばいじゃないか。

関係のない村の人を巻き込んじゃう。


いや、ちょっと待て俺。

呪われたのは俺だからな、村じゃないからな。


怨印を付けたまま俺が村に戻ると怨念が即刻発動。

俺んちだけが洪水に流される、俺が川でおぼれる、うちの畑だけが毎日雨で食べ物が取れずに飢え死に・・・・・


「何を考えているんだお前は、全く。

水の大精霊の祝福だぞ、わかっているのか。

お前が今閃いたような不幸というか、自然災害に巻き込まれたり、死にそうな目に会うはずがないだろうがぁ。

水の大精霊の祝福を受けた者には幸運が、幸せが訪れるんだよ。」


俺は逃れられない怨印があるはずの部分をさすりながら悪魔のような甘い囁きを投げかけてくる貧乏な精霊さんの方を見た。

きっと今の俺はもうそれは死んだ魚のような目を、人生が終わったような顔をしていたに違いない。


「幸福なんてとんでもない。

死にそうな目に会う場面しか思いつかないんだけど。」


俺の言葉にハッとしたような怨霊様はまじめな顔になり、右手の人差し指を顎に当てて何か考えているような顔付きに変わった。

ちなみに今は空中で胡坐をかいている。


怨霊様、早速悪巧みですか。

どうやって、俺をいたぶろうか思案中ですか。

それとも傀儡化した俺にどうやって村で悪さをさせるか考えているんですか。


「お前、どうも私の祝福の力を信じていないようだよな。

これ以上生きていても幸せになんて決してなれないと、人生をあきらめた境地に至ってしまったような死んだ目をしやがって。」


200年分、いや数百年分の怨念を植え付けられたんですよ。

もう、幸せなんて何だったか想像もできない境地ですって。


「じゃぁ、よし、これならどうだ。」


顎を支えていた指を枯れた泥池の淵にある例の祠の方に向けて、エイッ、と気合の入った言葉を発した貧乏な精霊さん。

俺はその指さした祠の方に目を向けると、祠のそばに立っていた糖柑の樹に黄色い実が6個。

さっきは1個だったのにいつの間にか5個も増えている。


「これはいったい。」

「どうよ、私の実力に恐れ入ったか。

水の精霊は生きるものに活力を与えられるのよ。

この様に眠っている樹に活力を与えて実をつけさせることなんて簡単な事なのよ。

恐れ入ったか、参ったか。」


「こっ、これはいったいどうしたということだ。」

「ふっ、ふ~ん。どうよ私の力は。

水の大精霊の力をもってすればもっとすごいことも可能なのよ。」


腰に手を当てて貧相な例の部分を思いっきり突き出す、貧乏な精霊さん。

そんなに反り返ったら貧相なことがばれますって。

せっかく出したんなら糖柑で貧相な部分の補強を・・・・・・


バチコ~~ッン。


今日一番の強烈な一撃がほっぺたにもたらされた。


「いってぇぇぇぇ、何すんだ。

しかもパ~じゃなくて、ぐ~っじゃないか。」

「お前を正気に戻すにはパ~なんて生易しいものじゃダメだと言うことを学習したんだよ。

これからはグ~で行くからな、わかったな。」


それでは、貧乏な精霊さんがこの季節に糖柑、いや呪いの実を実らせたことに驚くところから再び始めます。


"なんか言い方が微妙な気がするが、お前にそんな機敏さを期待しても意味のないことはわかったから、それでいいから続けろ。"


それでは続けさせていただきます、貧相・・・・・


ぎろっと俺を睨み、拳を固めた怨霊様。


貧乏な精霊様続けますね。


"良いぞ。"


貧相が一番のNGワードか・・・・


「すげぇぇぇ、200年の溜まりに溜まった呪いが糖柑の樹を支配して呪いの実を付けさせただとぉ。

何ということだ。

これでもうあの木からは糖柑は取れないな。

それだけならまだしも呪いの実を付けるとは。

糖柑と間違えて食べたら呪われてゾンビになるんだぁ。」


「てめぇ、誰が呪いの実を付けさせただってぇ。

あれは本物の糖柑だぁぁぁ、目をほじくり出してあの実に目を近づけて良く見てみろ。

納得がいったらとにかく食ってみろよ。」


そう言うと貧祖・・・・、貧乏な精霊様は右手を目の高さまで上げて伸ばして、さらに人差し指をクイックッと曲げ伸ばした。

その動きで樹に生っていた糖柑の実の一つがふわふわとこちらの方に飛んできて、貧乏な精霊さんの手に収まった。

あ~ぁ、風船のように飛んで来るなんて中が空洞な皮だけの実ですね。


"おまえの頭の中と一緒にするな。"


「それ食ってみろ。

ほれ、ほれ。」


貧乏な精霊様が呪いの実をぐいぐいと俺の唇に押し付けてくる。


まぁ、もう既に怨印も付けられたし、ここで呪いの実を一つや二つ食ったからといってこれ以上不幸にはならんだろ。


俺は意を決して呪い実の皮をむく。

あっ、中身は確かに糖柑の実だ。

臭いもそうだ。


「だから本物の糖柑だと何度言ったら。

まぁ、良い。

兎に角、食ってみろ。

これまで喰ったことがないほど甘くて、みずみずしくてうまいはずだ。」


俺は皮をむいた糖柑を半分に割り、そこからさらにひと房にしてつまんだ。

これを食えばさらに呪いが深まる。

これを食えばきっともう人には戻れない。

糖柑を持つ手が震える。


「いいからとっとと食え。」


そう言って、貧乏な精霊さんは半分に割った糖柑を俺の手から奪い取り、丸ごと俺の口に突っ込んできた。


まって、まってくれぇぇ、いきなりにこんなに呪いの塊を突っ込まれたら・・・・

ふがふがっ。


呪いで逝ってしまうんじゃなくて、呪いの実が喉につかえて窒息死するじゃないか。

そして、遅れて口の中で呪いが発動しゾンビ誕生コースに進むということですね。


「良く味わって食えよ。」


俺はなくとか口を動かして呪いの実を咀嚼。

あっ、甘い。

うまい。


「そうだろう、そうだろう。

私の、水の大精霊が自ら育てた糖柑はうまいだろ。」


呪いの実のこの甘さは・・・・・、他人の不幸は蜜の味ってやつ?


ばこ~んっ。


「自分の不幸に酔ってんじゃねぇ。」




活動報告に次回のタイトルを記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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