第11話 見捨てられた者はとんでもないことをやらかしたのでは
狂暴な貧乏精霊さんにひっぱたかれて頭があらぬ方向に曲がった。
そして、たまたま向いた視線の先には、先ほど転がした例の石が鎮座していた窪みの中心部分があった。
そのまま目を凝らしていると、石を退けたことで出来た窪みからは綺麗な水が湧き出していた。
その水は石が残した窪みから溢れ出て、周りの枯草が敷き詰められた地面に広がって来ていた。
俺がきれいな水が湧き出る様子をあらぬ方向に曲がった首のまま眺めていると、貧乏な精霊様が視界に入ってきた。
そして、しみじみと語った。
「見えているわよね、溢れ出る清らかな水が。
これが霊泉よ。
綺麗でしょ。
私の力の源。
私の心のように澄んだ水。」
「えっ。」
「なんか文句あるの、怒」
「力の源と言うところはわからないけど、ちんけな怨霊様の心がこの澄んだ泉と言うところが・・・・・ぶづぶつ・・・・・
あっ、そういうことか。」
「えっ、どいうこと? 」
空中に浮かんだまま、可愛く首を傾げる貧祖な精霊さん。
俺は首を戻して、湧き始めた泉の側に行く。
そして、しゃがんで、かき回した。
湧き出た泉と周りの土が混ざって、どろどろに。
「なにすんだぁ、貴様ぁ。
せっかく湧き出てきた私の命の源、澄んだ霊泉がどろどろになったじゃないのぉ。
どうしてくれんだ。」
「あっ、ちんけな怨霊様の心を表しているっていうから。
よりリアルに表現してみました。」
ばちぃぃぃぃぃん。
結局、またぶたれた。
「なんていうことをすんの。
まぁ、良いけど。」
えっ、良いんだ。
そうだよな。
あんな澄んだ泉がちんけな怨霊様の心だなんて。
ちょっとはずくなったか。
"もう一発いっとく?
ほっぺに紅葉。"
「あっ、いや。春先に紅葉は合わないでしょ。
季節が逆戻りでしょ。」
「ふんっ、命拾いしたわね、今が春で。
今日はドロドロでもいいのよ。
まずはこの泉を綺麗にしたいから。
泉の中に200年の間に溜まった葉っぱや土を退けたいから。
もったいないけどそれらを霊泉で浮かして、この泉の外に掻き出すから。
結局は今から泉の中がドロドロになるのよね。」
なんだぁ、そうなんだ。
じゃぁ、俺は今、貧乏な精霊さんのお手伝いをしたわけなんだ。
何の問題もないよな。
「少しは感謝しろよな。」
ばちぃぃぃぃん。
「何すんだよぉ。」
「お前のその上から目線が気に入らないの。」
「じゃぁ、もう手伝いはしなくていいんだよな。
用はもうないよね。
村に帰っても良いかな。」
そう言ったら貧乏な精霊さんがすっと、浮きながら俺の方に寄ってきた。
「今日はありがとうね。」
へっ。
ちんけな怨霊様が俺に礼を言うなんて。
何か良からぬ大きな事変の前触れじゃぁ。
このまま霊泉、いや怨水となった泥水が怒涛の如く膨れて洪水のように溢れ出て、麓の俺の村を土砂で押し流すつもりじゃぁ。
こっ、これが200年ぶりに力が戻った怨霊様の祟りじゃぁ。
あっ、また目が逆三角形だ。
「祟りってなによ。
怨念じゃないって、何度言ったら。
また、ぶつわよ。
ほっぺが真っ赤な紅葉で溢れかえるわよ。
あっ、もうほっぺは紅葉だらけだから、今度は背中かケツが良いかな。」
「あっ、いや、それは・・・・・。」
でも、俺がもみじまみれになることで怨霊様の200年間、いやもっとか、数百年間に溜まった怨念が静まるというのなら、俺の村が救われるなら。
役に立たない俺が村の皆を救うことが出来るのなら。
怨霊様にぶたれるぐらいはなんでもないかも・・・・・
「その潔さ、気に入ったぁ。
よし、その潔い決心が鈍らない内にシャツを捲って背中を見せな。
背中がいやだったらズボンとパンツを下げて、ケツ出しな。
私の手形を張り付けてやるから。」
「えっ、マジで紅葉が背中で満開になるの。
ケツだったらおサルさんになるの。」
「弩阿呆、紅葉は咲くんじゃなくて、色付くもんでしょうか。
私の紅葉を君の背中に刻み込んでやるから。
石を退けてくれたお礼に、紅葉のプレゼント。
水の大精霊である私からの直接のプレゼントなんて、もう何百年も人間が受け取ったことがないんだから。
覚悟しなぁ。」
あぁぁ、200年どころか数百年溜まりに溜まった怨霊様の怨念が俺の体に刻み込まれようとしているのかぁ。
終ったぁぁ、人として、善良な村人として、終わったぁぁぁ。
でも、それで村が助かるのなら。
村の人々が怨霊様のお怒りに曝されないというのなら。
「わかった、喜んで?・・・・・、いや、粛々と?・・・・違うなぁ。
そうだ、涙を飲んでもらってやろうじゃないか、怨霊様の手形を。
村を救うために。
俺がすべての怨念を引き受けてやるぞぉ。」
「そんなに気張らなくてもいいのに。」
「数百年の怨念を自分の背中に受けようというのに、軽い気持ちで何か引き受けらんないよ。」
俺の真摯な態度に心を動かされたのか復活した怨霊様はにやっと笑った。
「そうそう、それで良いのよ。
私のプレゼント、水の大精霊の祝福なんだから心して受けるが良いわ。
背中の祝福の印が消える日まで私を敬い奉るのよ。」
えっ、紅葉が一時的に背中に色付くんじゃないの。
背中に呪いの印が刻まれるの。
「ちなみにその印を消すのはどうしたらいいんですか、怨霊様。」
「だから、怨霊じゃなくて水の大精霊よ。
そんな大精霊が数百年ぶりに付けた祝福の印を消したいというの、お前は、ええぇっ。」
目をまたまた逆三角にしながら顔を俺に近づける貧乏な精霊さん。
激おこですか、怨霊様。
でも、数百年間に積り積もった恨みの印を背中に付けられて、それが一生消えないなんてはっきり言って超怖いです。
消せるなら消したいです。
"むっりぃぃぃぃ。"
「一度付けたら、君が土にかえるまで、或いは私が飽きるまで消えないから。」
「えっ、俺が死ぬか数百年の恨みが消え去るまで怨印は消えないと言うことですか。
あっ、確かに消すなんて無理ですね。」
「そういうこと。
一生の超短い人間が私、水の大精霊の祝福を受けるということは一生涯その恩恵受け続けると言うことなのよ。」
はぁぁ、俺は一生涯呪われ続けるということか。
まぁ、それも仕方ないかぁ。
何もできない俺が怨霊様の呪いから村や村の人たちを守れるなら、それも致し方ない。
しっかし、山菜取りに来ただけなのになぁ。
山菜は見つかんないは、怨霊様に憑りつかれるは、数百年分の呪いを背負わされるは、全くついてない。
「ついていないなんてことはないわよ。
むしろ人類史上まれに見るラッキーな人よ、君は。
水の大精霊の祝福よ。
一生涯、その祝福の恩恵に与れるのよ。」
「その祝福という名の呪いをどうして俺に、たまたま山菜取りに来た俺に授ける気になったんですか、貧乏な精霊さん。
これまでも、ここ10年ぐらいで考えても、延べ数百人は下らない山菜取りの村人がこの森に入っていますよね。」
「んっ、もちろんそれはあの邪魔な石を退けてくれたから。
水の大精霊の私でもどうにもできなかった、私の力の源の霊泉が湧き出すのを邪魔をしていた石を退けてくれたからよ。
だから、さっきもありがとうって言ったでしょ。
本当にこのまま霊泉を塞がれたままだったらもう直ぐ私の命の火が消えそうだったんだから。
だから、お礼よ♡。」
ちょっと待ったぁ。
もしかして、俺ってとんでもない事をしでかしたんじゃぁ。
数百年溜まりに溜まった怨念を抱ええたままもう直ぐ消え去ろうとしていた怨念様を復活させたたんじゃぁ。
200年前に当時の聖人様が怨念様の力の元を封印した石をどかしてしまったんじゃぁ。
ああああああっ、何と言うことを俺はしてしまったんだぁ。
「お前、今更後悔しても遅いから。
さぁ、背中を出せやぁ。
ご褒美の祝福の証をその体に刻み込んでやるぜぇ。
ガハハハハハッ。」
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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