第10話 見捨てられた者は精霊さんの願いを叶えた
怒った貧祖な精霊さんはその細い腰に手を当てて俺を睨むようにして、口を開いた。
「兎に角、石をどけてよ。
早くして。
どけるまで村には返さないからね。」
まじかぁ、このまま憑り付かれて永遠にこの森を彷徨うのかぁ。
「そして、あこがれの怨霊さんに成るのよね。」
「くっ、じゃぁ、俺の呪うのは貴様だぁぁぁぁ。」
俺は貧祖な精霊さんを指差した。
「これが巷で言うところの呪い返しってやつかぁ。
ふんっ、できるものならやってみなさい。
でも、まずはその前に石を退けて。」
どんだけ石に拘るんだ。
俺に執着して憑りつくんじゃなくて、その石に憑りつけば良いのに。
石の上にちょこんと立って居ればいいんだから。
と思ったら、貧祖な精霊さんはふわりふわりと窪地の中心部の方に飛んで行った。
そして、そこにあった大人の頭ぐらいある石の上に降り立った。
「これよ、これ。
見えてるでしょ、この石をどかしなさい。
もたもたすんなよ。」
まぁ、あの位の大きさの石なら転がせば動かせそうだ。
しょうがない、ここは不本意ながらどけてやるか。
そうしないと貧祖な精霊さんに、貧乏神のようにいつまでも憑りつかれても困るし。
「誰が貧乏神じゃ、怒。
幸福を呼ぶ水の大精霊をつかまえて。
もうっ、つべこべ言ってないで。
どける気になったんだったら早くして。」
「へい、へい、やりますよ。」
俺は呪い返しでこの場を納めるのを諦めて、せめて今後は憑りつかれないために貧祖な精霊さんが今立っている? 石を退けることにした。
「もうっ、そのぐらいの石だったらそのまま蹴飛ばせば簡単に動くんじゃないのか。
ビンタして俺の顔が腫れるほどのバカ力を持ってるだろ。」
「こんかなか弱い可憐な精霊をつかまえて、バカ力があるだなんて。
なんてこと言うんだ、お前は。
私にそんな力があるかどうか見ててごらんなさいよ。」
そう言うとバカ力を隠し持った一部分の見た目が貧祖な精霊さんは片足でガシガシと足元の石を蹴り始めた。
まぁ、確かに何度蹴っても微動だにしないな、その石。
貧祖な精霊さんが手を抜いているような感じもないし。
俺は枯れた草の上を歩いて窪地の中央部分にある、体の一部分が貧乏な精霊さんが乗っかっている石の所に歩いて行った。
「さっ、早く。
これを退けて。」
今からどかそうとしている俺に対して、更に催促してくる貧乏な精霊さんに一つため息をついてから、しゃがんで両手を石に付けた。
「よし、いっちゃぇぇぇぇ。」
貧乏な精霊さんの掛け声に、不本意ながら合わせるように気合を入れて石を押す。
「えいっ。
ムムムムムムムッ。
ぶはぁ。」
ちっとも動かない。
「どうした。気合だけか。
全く動いていないぞ。」
「重たいのが石に乗ってるからじゃないのか。」
俺は貧乏な精霊さんの嫌味にむっとして反撃した。
それに激反応した貧乏な精霊さんは顔を真っ赤にして。
「私、石に乗ってないもん。
浮いているんだもん。
空に浮けるぐらい軽いもん。
第一こんな可憐で清楚な美少女に体の重さのことを指摘するなんて、超失礼じゃない。
それって、あのゴブリン並みに失礼よ。」
貧乏な精霊さんはゴブリンに失礼なことをされたらしい。
何をされたんだ、いったい。
「されてないもん。
言われただけだもん。」
「何を言われたんだ。
その前にゴブリンの言葉なんてよくわかったな。
あっ、貧乏な精霊さんは生前ゴブリンだったんですね。
ゴブリン仲間に意地悪されて、それに耐えきれず逝っちゃって、それでちんけな怨霊様になり果てたと。」
ばちぃぃぃん
俺のほっぺがさらに腫れあがりました
「私はゴブリンなんて魔物の成れの果てじゃないし。
生まれた時から精霊だし。
修行を重ねて大精霊になったんだし。
いいからお前は余計な事を考えてばかりいないで、この石をどかす方法を考えなよ。」
この森で修行を重ねている内にお金が無くなり、貧乏に。
成長期に食料を買えなくて、洗濯板で成長が固定。
最後は飢え死にして、この世に未練と恨みを残して森を徘徊する怨霊様へ。
「貧乏な精霊さんの一生が3行で収まりましたね。
・・・・・はぁっ、3行かぁ。
・・・・・う~んっ、3行ねぇ。
・・・・・幼稚園児の日記以下だな、ボソ。
これってまさしく"やっすい"人生と言うヤツですね、ちんけな怨霊様。」
ばちぃぃぃん
「やっすい、貧乏言うなぁ。
泣くぞ。
さっきのお前のように泣くぞ。
薄幸の美少女を泣かしたら一生の心の傷になるぞ。」
「ちなみに薄いのはム・・・・・・」
ばちぃぃぃん
顔が腫れて目が開けられません。
「兎に角、石をどけろ。
そうすれば私は力を取り戻して。」
「ちなみにちんけな怨霊様が力を取り戻したら、まずは何をしたいのですか。」
「そんなの決まっている。
まずはさんざんコケにしてくれたお前を地獄に送る・・・・・
いや、うそ。
今のなし。
嘘だから。
そうねぇ、力を取り戻したらまずは君を幸福にしてあげる。」
そんな見え見えの。
やっぱりこのまま村に帰ろう。
ちんけな怨霊様のままでいてもらった方が世の中の為だな。
下手に力を取り戻したら何するかわからんもんな。
うん、そうしよう。
「おい、ちょっと待て。
石をとげろよ。
帰ろうとすんなよ。
約束が違うだろ。」
約束なんてしたか。
「うあぁぁぁ、泣いてやる。
殴ってやる。
一生涯呪ってやる、憑りついてやる。」
う~ん、夜な夜なベッドの脇ですすり泣かれるのも鬱陶しいな。
「わかった、石を何とか退けてやるから、ちんけな怨霊様も俺に憑りつくのはなしな。
いいな。
約束だからな。
約束を違えたら一生涯呪ってやるからな。
よし、約束したぞ。
もうちょっと待ってろ。」
俺の言葉に涙を目に溜めながら嬉しそうな表情をして静かに頷く貧乏な精霊さん。
うぁぁぁっ、その頷き方は反則だろ。
外見は可愛すぎ。
本性がちんけな怨霊様さんじゃなきゃ、毎晩ベッドの脇ですすり泣かれても良いだけどなぁ。
"ご希望通り、毎晩ベッドの脇で呪いの言葉を夜通し吐き続けても良いぞ。"
いらん。
ともかく俺は石をどかすことにした。
押しても動かないなら転がすしかないな。
俺は石の上の方を両手で押すことにした。
うっうっう~ん。
動かんなぁ。
ちんけな怨霊さんは貧乏なム・・・、体の前で両手を合わせて祈るようにしながら俺が石をどかすのを真剣な眼差しで見つめていた。
「少し足でゆすってみるか。」
俺は足で石をゆすってみた。
いろいろな方向から足で石を踏みつけているとわずかに動く気配があった。
この方向に石を蹴り続ければどうだ。
俺は石を蹴り続けた。
そして、石の一か所が浮き始めたのを確認できたので、一気に蹴り込んだ。
ごと、ごと、ごと。
石が3回転した。
「はぁ、はぁ。
貧乏な精霊さん、この石はどこまで転がせばいいんだ。
はぁ、はぁ。」
石を何度も蹴って動かしたため、石が転がったことに驚いた顔をしているいちんけな怨霊様に俺は息切れしながらも問いかけた。
「このぐらい転がれば問題ないわよ。
ありがと。」
反則級に可愛い笑顔を俺に向けてくる貧乏な精霊さん。
「あっ、いや、別に大したことじゃないよ。」
俺はその笑顔で顔が熱く・・・・・、いや、これは何度もひっぱたかれたからだな、うん、そうだな。
決して、その笑顔にやられたわけではない。
俺は恥ずかしさから貧乏な精霊さんの顔を見ていられずに貧祖なム〇で冷静になろうと視線を下に移した。
んっ、それがまずかった。
ばちぃぃぃぃぃん。
死角から手の平が飛んできた。
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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