南極帰りのリケジョの助手は彼氏としてデレを見たい
「しばらくの間、研究よろしくね」
エリカはそう言い残して帰省していった。エリカと同室で暮らす彼氏のサチは、空港で彼女を見送ったあと、大学へ戻った。
サチはエリカと同じ学部の別ラボに所属している。しかし、自分の研究を進めるより、彼女の助手のような日々を続けている。彼女の研究は、南極に生息する新種の菌を発見すること。研究費はかなり投入され、下手なミスは許されない。そんな研究にサチは培養した菌糸の長さを日々記録するという作業を依頼されている。
「これは、新種の菌だわ!」
1週間の帰省から大学に戻ったエリカは、学会発表のためのポスター作成を始めた。その日からエリカはラボに夜遅くまで缶詰めで、食事を外ですませて帰ってくるようになった。
数日後の夕方に「19時ぐらいに帰れる」とショートメールが届いた。サチは久々に一緒に夕飯にしようと思ったのに、20時を過ぎても帰ってくる気配がまったくない。
「さすがに新種の学会発表って大変なんだろうな」とサチは独り言ちて深いため息を吐いた。
「起きた?」と高い声が降ってきた。
気づくと、サチの頭はいつもより柔らかい枕の上に乗っている。
―あれ、クッションの上? あっ、エリカを待ってるうちに寝てた!
サチは頭を起こそうするが、冷たい手が頭を押さえている。そして幾度嗅いでもドキドキする香り。それに頭の感触からすると、エリカの膝枕だとわかった。サチは起きあがるか、起きてない素振りをするか、頭の中はその二択で激しく揺れ動いてる。
「起きてる?」エリカは再び穏やかな声でサチに問う。
だが、やはり答えられなくて寝たふりを続けた。
「起きててもいいんだけど、さ」と、また彼女は小さく呟いた。それから無言が続いた。サチに得も言われぬ不安が襲いかかる。次に何を言われるのかと息を呑む。
「さっくん。いつもありがとう。食事、洗濯、掃除とか。私、さっくんに何もできてないね」
鼻をすする音が聞こえてきた。サチは急に何を言い出すのかと、困惑するばかりである。
「でも、私が他の誰よりもさっくんが好きなの。他の女の子はダメ。考えたくない。絶対に嫌」
エリカは何にもできないわけではないことをサチは知っている。そして変にプライドが高いところも。
―そういえば、今日はウチのラボの後輩の女の子と話してたのを見て不安になったのか。仕方ないな。
「うーん」とサチはわざとらしくうなって腕を伸ばし、エリカの身を自分に引き寄せた。