2 探索
ランゲール王国王城の地下。そこの床には直径十メートル程の魔法陣が刻まれ、光を放っていた。
英雄召喚の魔法。それは、異界からとてつもない力を持つ人間を召喚すると言う、ランゲール王国王家に代々伝わる魔法である。
(長かった…けど、もうすぐ終わる。これで、帝国との戦争に終止符が)
丸一日かかった英雄召喚の魔法は、今終わりを迎えようとしていた。しかし、その魔法に異常が発生した。
(妨害魔法⁉︎一体誰が?いや、それよりも今は魔法を安定させなければ)
魔力を込め魔法の安定を試みるも、一度乱れた魔法を再び安定させるのは難しい。魔法陣が点滅し、魔法が崩壊しようとしていた。
(こうなったら……残りの全魔力を)
必死になって魔力を込めると、魔法陣がこれまで以上に眩い光を放った。光が消えると、そこに四人の人影があった。かなり危なかったがなんとか成功したようだ。
「何だここは?私は会社に居たはずだ。それにこの子達は……」
「ん〜もう食べられないよ〜」
「すやぁ〜」
「ぐうぐう……」
魔法陣の上で周りを見渡し困惑している男性が一人、寝言を言いながら寝ている女性が三人。それが、召喚された英雄の方々らしい。
「お願い致します‼︎我が国をお救いください‼︎」
◇◇◇
ゴルバン帝国玉座の間にて
「どうだ?うまくいったか」
「ハイ、召喚自体を阻止する事はできませんでしたが、妨害には成功しましたぞ」
「どうなったのだ」
「……召喚魔法はとても高度な魔法です。少しでも乱れれば望むものは得られませぬ。ましてや、異界からの召喚がどのような結果になるか私にもわかりませぬ」
「どうなるかわからぬか。まあ良いよくやった。奴らも一度妨害されれば英雄召喚の魔法に対して慎重にならざるを得ないだろう。それは実質次以降の召喚を封じたと言える」
「先程の魔力干渉で召喚者の魔力を覚えました。次以降は始まりと同時に察知し、完全に阻止してみせます」
「一度の接触で相手の魔力を覚えたか。流石は我が帝国一の魔法使いよ」
「もったいなきお言葉です」
「うむ、ではアルダンよ至急残り三人の四将を召集せよ。英雄への対応を決める軍議を行う」
「はっ」
◇◇◇
九郎が目を覚ますと、いつも見る部屋の天井はなかった。
「え?」
慌てて上半身を起こし周りを見渡すと、そこが五十メートル四方程の空間である事が分かった。
「ここはどこだ?何でこんなところに?………拉致かっ⁉︎いやでも何で???」
九郎の家庭は貧乏ではないが裕福と言うわけでもなく、身代金目的なら他をあたった方がいいはずであった。拉致の線は薄いだろうと結論づけて、寝る前に何があったか思い出そうとした。
「えーっと俺は確かいつも通りゲームをして、ガチャで当たりを引いてそのあと寝ようとして……そうだっ画面が急に光って…」
電源を入れてないのに動いていたPCのところまで思い出したが、それと自分がこんなところにいる理由に結びつける事ができず、ますます自分が今置かれている状況がわからなくなった。
「うーん、あれこれ考えたってどうにもならないしここの探索でもするか」
そう言って九郎は動きだした。改めて周囲を探索すると、焚き火の跡とそれを囲むように置かれた石を複数見つけた。
「焚き火の跡?ここに人がいたのか?」
焚き火の跡の向こうには、下に続く階段があった。そして、更なる探索の結果下に続く階段の逆の位置に上に続く階段も発見した。九郎は一度、焚き火の跡の石に座ってどうするか考えることにした。
(ここはおそらく地下だろう。だったら脱出を目指して上に向かうか…それとも、この焚き火の跡を残した人達が下に向かったと仮定して助けを求めに俺も下に向かうか…いや、この焚き火の跡がかなり前の物だった場合、もうその人達はここには居ないだろう。だったら上に向かうか?……よし、そうしよう)
上に向かうことにした九郎は、階段を上り始めて、ふと既視感を感じた。
(何だコレは、この階段、それにさっきの空間…来たことがあるはずないのにすごい見覚えのあるような気がする)
九郎は頭を手で押さえながら階段を上っていった。