襲撃
「クソ……間に合わなかったか……」
オルクが憎々しげに前の黒いものをにらみつける
「ふーん…俺らに抗うつもりなんだ…」
フードをかぶっているようで顔はよくわからなかったが声を聞いた感じ若い男性のようだった
男は長いローブのようなものをまとっており、隙間からは何か分厚い本のようなものが見える
「何が目的だ?和解を破る気なのか?」
オルクが静かに男に問いかける。
男はフッと口元を緩ませると
「和解ねえ…こりゃあとんでもないこと吹き込まれてんなあ…まあ仕方ないといえば仕方ないか…」
と納得したように話した
「今すぐに去れ、さもなければ…」
「戦うの?なーんだ…見逃してあげても良かったのに……そっちがその気なら別にいいよ」
「オ、オルクだめだよ……風属性に攻撃を通せるのは風属性の魔法使いのみなんだよ?知ってるでしょ?」
オルクは強い。そんなことはわかってる。
もう10年以上彼が誰かと戦うところを見てきたから彼の強さは十分知っている
幼いとき5歳年上からケンカを売られたときでさえ、彼は負けなかった。
………でもこれは相手が悪すぎる
「わかってる…だけどこのままコイツが黙って引き下がるとは思えない、ここでオレがなんとかしないと…」
「ふーん……ずいぶん威勢がいいねえ…そういやそっちの魔女さん?からはほっとんど魔力が感じられないねえ…もしかして魔力持ってないの?」
「………………」
「おい!やめろ!」
……ただうつむくしかできない
だって本当のことだから「ねえ…この世界で魔力がないのってどんな感じなの?大変でしょ、悲しいでしょ?魔法を持たないものなんて今この世界ではのけものさ」
………そうだよ…
ずっと考えていた
家族も、友達もみんな魔法が使えた
両親は「レイにしかできないことがある」
とよく慰めてくれたけど、そんな言葉の効果は数年前に消え失せた
それどころかだんだん心をえぐるようになっていった
もしも魔法が使えたら…
何度そんな理想の世界を頭に描いたかわからない
歳を重ねるごとに、自分のことを面と向かってバカにする人は減ったけど、今度は見えない恐怖が襲いかかってきた
自分は……どう思われているのだろうか?
この世界で必要なんだろうか…黙れ!レイをバカにするな!」
オルクが叫ぶと男は笑い出した
「君はほーんとに何も知らないんだね、この国の方針がすべてだと思っている、この国にいればみんなが救われる、正しいと信じている……絶対後悔するよ」
そう言うと男は魔導書を広げ、宙に浮かせた
「くるぞ……レイ、下がってろ」
「お、オルク……まさかほんとに戦うつもりなの?」
どこまでコイツは変人なんだと思ったが流石にこれは止めなければまずい…
「わかってる…ちょっと足止めするレベルだ、なんとかなるだろう」
「逃げおくれたお友だちのために自分の命をかける時点でだいぶバカだと思ってたけど、やっぱりバカだったね…こんな魔力のまの字もない人……あーちょっとはあるみたいだけど…のためにここまでやるとはね」
男がパチリと指を弾くと浮いていた魔導書がひかりだし、私とオルクの間に結界の壁が作られた
「コイツは気にいらないけど、君をどうにかする気はないから安心してねー」
「レイ………できる限り下がってろ」
「ダメ!オルク!」
オルクの足元に魔法陣が描かれる
炎の魔法陣だ
…………こうなったらもう止められない
「お、宣戦布告?じゃあ俺も」
男はそう言うと魔導書にサッと手をかざし、何やら呪文を唱えた
……聞いたことのない言語だ…何語だろう…
魔導書から魔法陣が浮かび上がる
どの教科書にもない魔法陣だった
……あんなの見たことない
「遠慮はなしだよ……」