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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第六話

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目覚める娘(12)

 治療を受けたビント・フルグは再生促進剤を服用し、保護パッドで右手と右肩を固め、更に右肩は固定された姿で車列を眺めていた。


(あの地獄(エイグニル)の女どもめ。僕が左利きだから良かったものの、もし左手を撃たれて何らかの支障が生じてたら人類の損失なんだぞ)

 ドナと名乗った女の顔を思い浮かべる。

(捕らえたら思う存分いたぶってやるから覚えていろ)

 恨みは忘れない。


「ビント君、どうだね、見事な魚たちだろう?」

「ええ、これほどとは思いませんでしたよ、ご当主殿」


 連なる大型車の荷台の中には数多くの()が収められている。しかしながら、その()には銃口や砲口が付いていたり、巨大な人型をしていたりした。

 彼を勧誘したホビオ・ライナックは養殖魚の輸出と称して兵器輸出を行っている。しかも、この輸出される兵器群は警察で押収した品々だというのだ。


「ですが、これほどまでに派手に輸送したのでは警察の目に留まりませんか?」

 車列は西6番宇宙ポートへと向かっている。

「あれらには何もできんよ。わしが売り捌いてやった魚の代金の一部を受け取っておるのだからな。下手に突つけば自分に跳ね返ってくる」

「そういう話でしたか」


 そんな裏事情があって、この欲まみれの男が大手を振って犯罪行為に手を染めているらしい。初めて裏社会に触れたビントは醜さに心の中で見下す。


(しかも、輸送にまで立ち会うんだから、どれだけ金儲けに執着してるって言うんだよ。僕なら誰かに汚れ役を任せるね)

 気が知れない。


「しかし、せっかくの見事な魚も買い手が調理法を知らんとなれば無駄になる」

 自慢げに続けている。

「後で不良品扱いされてクレームを付けられても堪らんからな。君のような技術に通じた人間が監修した、幼児でも分かるような調理法を添えて売ってやらねばならん。わしのサービス精神を助けてくれると信じているぞ」

「ご期待に添えるよう努力いたしますよ」


 これらの兵器も使用法や整備方法が分からなければ張子の虎と化してしまう。防止策としてビントのような技術者を引き込み、添付資料を充実させる事で需要の拡大を目論んでいるのだ。


(やれやれ、熱心な事だ。せいぜい資産を増やすのに地道を上げてくれ)

 彼はほくそ笑む。


「壮観ですわね、お父様」

 外を眺めていた娘がやってくる。今回初めて同行しているという。

「我が家の無駄のない社会運営に市民は感謝しているでしょう」

「これぞ社会貢献というものだ」

「なるほど」

 ものは言い様である。

「その一助となるのだから光栄と思いなさいな、ビント」

「ええ、心得ておりますよ、ユリーヤお嬢様」


(こんな小娘まで腹の中身は真っ黒ときてる)

 笑えてくる。


「わたくしも半年もすればホアジェン音楽学校を卒業ですわ。そうしたらもっとお父様をお助けできます。社交界では歌声で人々を魅了し、こちらも取り仕切って見せればごゆっくりしていただけるでしょう」

 そうそうに家業(・・)を憶えるつもりのようだ。

「うむ、頼もしい事だな」

「期待に副う働きをしてみせますわ」


(このユリーヤとかいう娘なんて、僕のテクニックに掛かれば良い声で鳴くだけの生き物に変えられる。女なんてそんなもんだ)

 ビントは好色な目でユリーヤを見つめている。

(そうすれば傍流とはいえライナックの家の一つを僕の思うがままに動かすのも可能。ドナのような美形を集めて僕専用のハーレムを作るのもいいだろう)

 当主の影で好き放題できるというもの。


 乗っ取りを画策しているビントは再び長い車列に目をやる。それは彼の夢を実現する道行きを辿っているかの如くだ。


 ところが、その車列の後尾、彼方から明滅する赤色の灯火が接近してきている。一瞬、犯罪が発覚してしまったのかとも思ったがどうにも様子がおかしい。


(何事だ?)


 ビントは目を凝らした。


   ◇      ◇      ◇


「あの車列だー。見つけたよん」

 専用回線からトリスの声が聞こえる。アームドスキン輸送艇(クラフター)、ベリゴールの操縦室でニーチェもそれを認める。


 潜伏中も次々と入ってくる情報。それはホビオに一矢報いる方針を決定したマーニへのサポートであるかのようだった。

 総帥ケイオスランデルなる人物は、確実にリーダーの性格を把握している。そのうえで彼女がどう決断するかを予想して、調査情報を随時送ってきているのだと思われる。彼女が大胆な決断をして実行に移しているのは魔王を信頼しているからであろう。


「仕掛けなさい。ちゃんと中身が見えるようにするのよ」

 マーニの指示が飛ぶ。

「了解だよん」

「抜かりないぜ」

「順に破壊していくわよ。続きなさい」


 ドナを先頭に三機のサナルフィが飛行する。そして、彼らを追う形で警察機が追尾している。遠方でアームドスキンを放出したベリゴールが騒ぎを起こして引っ張ってきたのだ。

 そして、この大捕り物を中継すべく各放送メディアの小型クラフターも追随してきている。目的はそれだ。


「出番よ、ニーチェ」

「了解」

 彼女の良く通る声に期待が寄せられている。ニーチェは息を吸い、外部スピーカーのスイッチを入れた。


『我らは地獄(エイグニル)の使徒である。これより驕奢(きょうしゃ)に溺れる者へ滅びを与える。市民よ、その様を眺め、自らの罪と向き合いなさい』


 ベリゴールから響く音声は、メディアのクラフターを経てポレオン中へと送り出された。

次回 「自由に動けるのはあたしだけだし!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……始末の時間だ!(脳内BGMは?某・仕事人) ・ ・ ・ いや、寧ろ[ブ○イガー]かも!?
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