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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第五話

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54/225

さようなら、ニーチェ(5)

 軌道上の任務に就いてから三週間、通常は待機状態で二日から三日に一度ほど臨検任務が回ってくる。マクナガル課長率いる第三市警機動三課は外務庁や軍情報部から出される命令で該当船舶の臨検を行っていた。

 一度は軍事スパイと思しき数名を取り押さえる過程で戦闘になったものの、その他の案件は物品の押収と船員の捕縛が行われた程度である。出動頻度そのものは上がっていても、内容的には地上の職務と大差はない。


「まだなんすかねぇ」

 シートで身体を揺らしながらシュギルが言う。

(はな)から最低一ヶ月は掛かるって言われてんだろ? もう少し辛抱しろよ」

「人員の補充が或る程度できたら解除されるっすよね? 新任の艦もパラパラ見えるっす」

「確かに五隻くらいは上がってきたな。それでも元通りには足りないんだろ」

 五隻でも戦力的には自分たちの十倍だとシュギルは言いたいのだろう。

「ここしばらくは静かでも、痛い目に遭わされた地獄(エイグニル)や、血の誓い(ブラッドバウ)みたいなとんでもない敵が現れるかもしれないしな」

「そんなん来たらオレたちなんて一蹴されるっす!」

「そういった相手の対処中も軌道上を空きにできないから呼ばれたんですよ。基本、大規模戦闘に動員されることはない筈ですから」

 後輩捜査官を諫める。

「ジェイル先輩だって帰りたいっすよね? 娘さんの出る発表会ってすぐじゃないっすか?」

「五日後ですね。今頃頑張っていることでしょう」


 頻繁なやり取りは難しいが、日に一度はニーチェからメッセージがくる。その日の出来事が綴られたメッセージに返信するのがジェイルの日課になっていた。


「すまんな、ジェイル」

 課長が申し訳なさそうに言ってくる。

「最初から諦めるよう言ってありますのでご心配なく。それに彼女はもう一人前ですよ」

「でもな、あの娘はお前さんへの恩返しに頑張っているようなものじゃないか。それなのに頑張りの元を取り上げてしまっては不憫でならんよ。戻ったらメシを奢らせてくれ」

「お気持ちだけでも充分ですが、ニーチェも喜ぶでしょう」

 フレメン自身も家族を置いてきているのだから他人の心配をしている場合でもないだろうと思う。

「会ったのは一度だけだが良い娘じゃないか」

「娘さんってこれっすよね、ジェイル先輩? 『紅の歌姫』」

「なんだ? 俺にも見せろよ」

 シュギルが拾ってきたニュースページを開いている。


 キーチャンネルで扱われるニュースほどではないが、音楽では最高学府とされるホアジェン音楽学校の代表となればネットニュースくらいにはなる。しかも話題をさらった二回生代表はしっかりと画像付きで紹介されていた。


「ほー、こいつか。元気そうな娘じゃないか、ジェイル」

 初見のグレッグは画像に見入る。

「見ての通りのじゃじゃ馬ですよ。とても面白い子です」

「この娘がな、良く懐いていて年の離れた兄妹か本当の親子みたいなんだ」

「なるほどね。しかし、上手くいけば有名になりそうだ。俺にも紹介してくれよ」

 ジェイルは「機会があったら」と言っておく。

「でも、あんまり有名になるとジェイル先輩との関係も取り沙汰されるかもしれないっすね?」

「もし、そんな事になるようだったら伏せさせなくてはならないかもしれませんね」

「今のうちにサインもらっちゃいたいっす」

 シュギルは皮算用している。


 帰還後に家族ぐるみのお疲れ様食事会を提案する彼にマクナガル課長も乗っかる。休憩上がりのシャノンまで加わって一号艇の操縦席は盛り上がっていた。


   ◇      ◇      ◇


 ここは大型戦艦ベネルドメランの艦橋(ブリッジ)。司令官席のリクライニングシートに座った人物は、惑星ゼムナ周辺の動向を表示させた2D投映パネルを睨み付けていた。


「ちっ、嘗めてやがるな」

 リューン・バレルは舌を鳴らす。

「第一から第三までの打撃艦隊は宙軍要塞に留まってんじゃねえか。半減した軌道艦隊で俺様を押さえられるとでも思ってんのか?」

「動きが読めないな。罠っぽいから仕掛けにくいじゃん」

 傍らのオリバー・J・ファーウェルも頭を掻く。

「良いんじゃない? 撃滅してくださいって言ってるならやっちゃえば」

「やめてよ、ネイツェ。そんな簡単な話ではない筈だもん。ねえ、ガラントさん?」

「うむ、この前の捕虜返還には普通に応じていた」

 フィーナ・バレルの問いに副将のガラント・ジームが答える。

「こちらが軌道戦力の半減を把握しているのは向こうも重々承知している。それなのに打撃戦力で軌道防衛に入らないのは或る種の罠のように思えるな」

「でしょ? 見ろよ」

 オリバーは同じくパイロットのネイツェを肘で突く。


 解決を依頼された各地の紛争処理後の監視に四十隻の艦を割り当てて残している。それでも国際軍事組織『血の誓い(ブラッドバウ)』は半分の四十隻を率いてフェシュ星系まで進出してきていた。

 軌道艦隊も増員を急いで五十隻近くまでは戻してはいても、反政府活動を行うリューン率いる艦隊とまともにぶつかるには心許ないと感じているはず。


「なに企んでやがんだろうな?」

 面白なさげに腕組みをする。

「しゃーねえ。探りがてらひと当てしてみっか」

「じゃあ、宙軍要塞向けの偵察艇部隊の編成するね、リューン」

 フィーナは夫となった彼のオペレータを続けると同時に、人員調整関連を始めとした戦闘以外の副官を兼任している。

「密に連絡を寄越させるようにしろ。どうも胡散臭ぇ」

「あなたが気に掛けるほどではないと思うけど?」

「俺はお前ほど物事が見えてねえんだよ、エルシ」


 一番頼りになる相棒は意味深な笑いを送ってきていた。

次回 (ライナックの正義を実現する贄となるのだから光栄に思うがいい)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 おぉ? 新旧ヒーローが出会うのか!?
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