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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第三話

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地獄の住人たち(8)

 ケイオスランデルはヴァイオラを腕にぶら下げたままで整備区画内を移動する。振り払われるでもなく、自然に腰に手を当てて持ち上げるように運ばれていた。低重力だからそれも可能。


「魔王様、クラウゼンの量産化計画があるって本当?」

 行きついた先は彼の乗機の前である。

「聞いたか。メンテナンス性の問題でこれのコピーとはいかないだろうが、量産機として調整中だ」

「やったー! 同じ機体に乗れるー!」

「サナルフィでは不満かね? 以前は私も乗っていたし、そう悪い機体ではなかったと思うが」


 量産機として一線を担うベルナーゼがずらりと並んだ横に彼女のサナルフィが佇んでいる。現状、指揮官とエース級パイロットに預けられている機体は威圧的な装飾も施されたアームドスキンである。武骨な雰囲気が強い。

 EGAS04の型式が表すようにベルナーゼには三機の試作機が存在する。実戦投入されなかったが全て総帥自身がテストしたとヴァイオラは聞いていた。その上位互換がEGAS05サナルフィである。当然悪い機体ではない。


「不満ってわけじゃないけど、サナルフィはちょっと怖ろしさが足りないかも」

 デザイン的には威圧感より機能美が目立つと感じる。

「わたしたち、地獄(エイグニル)の住人にはもっと怖さが必要?」

「結果で示すのが肝要だが、印象操作も意味はあろうな」

「でしょー?」

 その点でクラウゼンは勝っていると彼女は思う。


 大型の球形ショルダーユニットから生えた刺々しい腕。骨太でずっしりとした印象のヒップモジュール。大胆に太い下肢。底棲魚類を思わせる兜のような頭部には顔は無く、上向きの三叉を象る細い紡錘形のセンサースリットが刻まれているだけ。

 それらが黒光りする装甲で形作られている。内から染み出るような禍々しさや、前に立つだけで感じられる圧迫感の類は半端ではない。


「ただ、クラウゼンは女性受けの悪いアームドスキンではないかね?」

 暴力的な印象しかないのは事実で、普通は敬遠するかもしれない。

「わたしは好き。重そうなのに機動性が高くてパワーがあるのも良い。背中の大砲みたいな推進機(ラウンダーテール)も格好良い」

「実際にテールカノンも装備されている。慣れれば使い勝手も悪くないだろう。問題はクリアできそうだぞ?」

「良かったです」

 後半は飛び上がってきた整備士長のウォーレンに向けられていた。

「ご要望は反映されているはずです。メンテナンスに関わる提案も上げておきました」

「うむ」


 いつまでもささやかな逢瀬を楽しんでもいられないようだ。彼がこうしてゆったりとしているということは何らかの作戦が近いのを意味している。


 ヴァイオラは少しの時間も惜しむように魔王の腕を引いた。


   ◇      ◇      ◇


「エボニート1番機より各機、警戒厳のまま侵攻せよ」

 反政府組織『地獄(エイグニル)』の本拠地の情報がもたらされた地点への移動を続ける。

「隊長、こいつは本命なんです?」

「内通者からの情報らしい。偵察機もそれらしい棘を確認したって言ったろ?」

「そうですけどね……」


 ガルドワが無償公表した広域重力場レーダー技術は、戦術に大きな変革をもたらした。それまで有効とされていた10lms(リムズ)(3000km)の探知範囲を、倍の20lms(光ミリ秒)まで跳ね上げている。

 ターナ(ミスト)を用いた隠密航行をしていても相手に勘付かれずに接近できるのは20lms(リムズ)(6000km)にまでなってしまった。奇襲はより困難になっている。


 ゼムナ環礁ほど広範囲な小惑星帯ともなると全域は探知の限界を超えるが、ピンポイントの探査は可能になった。小惑星の中の金属構造物も反応として現れ、一時は反政府組織の拠点も軒並み掃討されたものの一部は生き残っている。

 そのうちの一つ、地獄(エイグニル)の拠点は判明していなかった。が、この度はかなり綿密な調査と分析が行われたようである。


「これまで尻尾を掴ませなかったエイグニルの本拠地が見つかるもんですか?」

 4番機のパイロットには不審に思えてしまう。

「馬鹿な連中だ。欲をかいてライナックを本気で怒らせやがったのさ。その結果がこれだ」

「そう言えばそうなんでしょうけど」

「奴らだって飯も食えば武器も要る。独自開発技術を持っているんだから猶更だろ? 神話の魔の住人みたいに無から有が生み出せる魔法なんてどこにもない。どこかに協力者がいて掘り起こされただけに過ぎんだろう」

 理路整然とはしている。

「ですが、隊長。諜報部隊が無理をして薬まで使って捕虜をしゃべらせたってのに、一貫して独自の補給線が有ってどこの企業や国も関与してないって言い張ったんですぜ? それがちょっとライナックの逆鱗に触れたからって簡単に出てくるもんかって……」

「それがライナックの怖ろしさだと思っておけ。衰えたとはいえ、まだ技術的最先端の席は譲り渡してないってことだ」

「そう願いたいもんです。これが罠じゃないって首脳部が保証してくれるんなら安心なんですけど」

 一番の懸念を口にする。

「無論、罠の可能性は捨ててはいないぞ。だから直接全面攻撃に入らず包囲戦に持ち込もうとしているんだろう?」


 艦隊はそのままゼムナ環礁内へと侵攻せず、アームドスキンを展開しつつ包囲の輪を形成しようとしている。経路にトラップが仕掛けられているのを警戒しているのだ。軌道艦隊の参謀部も一応は罠の可能性を頭に入れているらしい。


(ここが連中の庭じゃなけりゃ俺もこんなに怖れたりしないんだけどさ)


 彼は嫌な予感を振り切れない。それくらいに地獄(エイグニル)に翻弄された経験があった。

次回 (反政府組織の連中のほうが独自開発の良い機体に乗ってるって何なんだよ)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 個人や組織を象徴する機体ですね? そして、次回は遂に戦闘開始!?
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