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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第十七話

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終焉の魔王(15)

(あー、これはマズいかもねー)

 レミージョ・ニリアンは思いを溜息に変えて吐き出す。


 観測士(ウォッチ)という立場なので戦況は手に取るように分かる。シャウテン隊は突破されて、一部の地獄(エイグニル)部隊が艦隊のほうを目指してきていた。

 つまり艦隊首脳部が採用した作戦は破綻したのである。本人が向かってきているのならば、またもや魔王に出し抜かれたのだろう。


 艦長の怒声が飛び、直掩の部隊が防衛線を築こうとしている。全艦の艦砲が防衛線の崩壊を警戒して指向し、拡散ビーム砲も全砲門が閉塞磁場を発生させて発射準備を整えた。

 しかし、どれほどの意味があろう。相手は常に前線で戦い抜いてきた反政府組織。しかもトップエース級がずらりと並んでいるのだ。


(責任感じちゃってるんでしょうねー)


 シャウテン、スビサレタ両艦隊が前面へと進みでている。彼の乗る旗艦オデロ・セレナを死守する構えだ。


(あっちゃー、瞬殺じゃんか)


 接敵は一瞬だった。三百はいた直掩のアームドスキンが同数の敵機に蹂躙される。幾つもの火球が打撃艦隊乗員の死へのカウントダウンを数え、絶望の淵へと追いやっていく。


(戦闘空母じゃアームドスキンの的にしかならないもんなー)


 先ほどとは比較にならない爆炎が花開き始めている。その光の中で失われる命も比較にならない。レミージョもその一員に加わる覚悟をしなくてはならなかった。


(どこから間違ってたかなんて今さら論じても仕方ないんだけど、協定者を敵に回した時点で詰んでたのかもなぁー)

 一番の要因に思える。

(リューン・バレルが終焉の序章を爪弾き、滅びの魔王が地獄へと誘う。そんなふうに言われちゃうんだろうし)

 のちにそう評されることだろう。


 好き勝手してきたのだから、この辺りで帳尻を合わせるしかない。ライナックを支持しつづけた人間は命であがなわねばならないらしい。


 前方の戦闘空母が対消滅炉に直撃を受けて内から膨らんでいく。オデロ・セレナの防御磁場は熱波や電磁波こそ防いでくれるが衝撃波で大きく揺らいだ。

 レミージョはアームレストにしがみ付いて顔を伏せる。振動が収まって窓外を見れば宇宙とは異なる漆黒が占めていた。赤いスリットセンサーが不気味に輝いている。


(うへぇ、女帝(エンプレス)やプリシラ様たちはこんなとんでもないのと戦場で対峙してたのか。後方でのんびりやってたぼくたちに責める権利なんて欠片もないよなぁ)

 胸を圧する恐怖に呼吸さえ乱れる。


「ケイオスランデルぅ!」

「私自ら死を授けるのを光栄に思うがいい」

「貴様ぁー!」


 錯乱した艦長が腰のハンドレーザーを大型アームドスキンへと向ける。追い込まれた人間は何と無意味な行動に出てしまうのだろうと彼は思った。


「すんません、ジュスティーヌ様」

 即座に覚悟を決めて、彼女を気持ち良く送り出してやれなかったのを悔やむ。


 艦橋(ブリッジ)が光芒に飲み込まれ、レミージョの意識も掻き消えた。


   ◇      ◇      ◇


 百七十隻のうち半数以上を撃沈させられた打撃艦隊は既にろくな抵抗もできない状態だった。魔王は随伴した三百機に戦闘停止を命じる。もう手遅れの感は否めないが、あまり追い込みすぎると思わぬ反撃を誘ってしまうかもしれない。


「マーニ戦闘隊長、編成を整えよ。戦列からこちらを窺う気配がある」

 大した規模ではないが救援に向かってくる集団を確認している。

「了解。ドナ、集合かけなさい」

「はい、隊長」

「ケイオスランデル、次はどこへ?」

 編成後の行き先だろう。

「無理せずオーウェンと合流しろ」

「合流しろ? あなたは?」

「私は最後の滅びを与えに行く。一人で構わん」


 沈黙が支配する。マーニはそう言い出すのを予想していたのかもしれない。「諸々頼む」と言い残すと何も言わずに頷いた。


「閣下、せめて私だけでもお供に」

 ドナが懇願してくる。

「前にも話した。君には娘のことを頼みたい」

「あの娘は貴方が思っているよりずっと強いです。心配ないかと?」

「まるで私のほうが弱いみたいだな。一人では行けんと思っているか?」

 苦笑交じりに返す。

「いえ、決してそのような。申し訳ございません。ただ、置いていかれるのが寂しいと感じているだけなのです」

「忘れろ。苦しみを煽って長引かせた男のことなど」

「忘れません。こんなに覇気に満ちた時間はもう二度と来ないと思いますから」


 ドナの声が震えている。昔の恋人よりずっと強いであろうと思われた彼女もやはり情には弱い部分があったようだ。思わず本音を話してしまったのを後悔する。


「魔王様ー! 次はどうするのー?」

 飛んできたヴァイオラのクラウゼンが腕を掴んでクルリと回転する。

「マーニに従え」

「お姉さまに? 魔王様は?」

「私にはすべきことがある。一緒には行けん」

 頬を膨らませる彼女の顔が浮かぶ。

「いやっ! わたしは魔王様と行く」

「許さん。命令に従いなさい」

「でもー!」


 何かを察しているらしい。こんな駄々のこね方をしはじめると普通の説得には応じないだろうと思う。


「君とマシューには未来を頼みたい」

「え? オレたちに?」

「第二のライナックが生まれんとも限らん。その時は君たちが力を合わせて阻んでくれ、マシュー。その力があるからこそ頼みたい、ヴァイオラよ」

 拒まれた彼女は涙声で「でもぉ……」と続ける。

「それは魔王様だってできるもん! なんだったら仮面がなくてもできることだもん!」

「役目があるのだ。私は皆の罪を清算してくる。それが許されるのは私だけなのだ。誰にも譲れん」

「それくらいになさい、ヴァイオラ。いいから行って、ケイオスランデル」


 マーニが彼女を制止するのを見て魔王は転進する。向かうはゼムナ本星だ。

次回 「分かってねえからお前は呆けてるんだろうが!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ライナックも魔王様も清算の時が……。
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