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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第十七話

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208/225

終焉の魔王(5)

 マッチアップは重要だとジュスティーヌも考えている。血の誓い(ブラッドバウ)が剣王リューンのワンマン部隊だというのは間違いないだろうし、地獄(エイグニル)も飛び抜けているのは魔王と(くれない)の堕天使に限られると思う。

 要となるパイロットの駆る機体を撃破できれば総崩れとなるのは予想できる。抑えこむだけでも相応の効果がある。


 打撃艦隊とて彼女のワンマン部隊なのは否めない。彼らに対抗できるとすればジュスティーヌ本人とプリシラくらいであろう。

 手駒が二枚しかないのであれば、相手の三枚にどう当てるかで戦局は変わってくると考えられる。彼女も、二機を相手に同等以上に渡り合えるなどと驕ってはいない。


「プリシー、魔王は一人では抑えきれないと感じた?」

 一対一で対戦した感想は重要。

「デュープランでは難しいと感じます。だからと言って総司令ならば可能だとは思えません」

「大胆ね。わたくしでは役者不足だと?」

「意味合いが異なります。魔王は驚異的な洞察力と構成力によって戦闘を組み上げます。流れに組みこまれてしまえば、見えていてさえ躱せない一撃を放ってくるのです」

 それだけ読みとれるプリシラは戦闘中でも冷静なのだろう。

「あれは戦気眼(せんきがん)持ちの天敵です。ましてや普通のパイロットが一対一で挑むなど無謀のひと言でしょう」

「へぇ、そんなタイプなのね。興味は湧くけど我儘は言わないわ。そんな局面ではないもの」

「ただし、大型機体ケイオスランデルが脅威なのはあの大口径ビーム砲を放てる点だけ。脅威度を下げるのは困難ではありません」

 頷いた副官は意外な意見を述べてきた。

「わたくしでも抑えきれないと言わなかった?」

「ええ、一対一では。逆に多数を当てれば大口径砲を放つ機会を奪えるのです」


 プリシラ曰く、大口径ビームのカノンインターバルはそれに見合うものなのだそうだ。戦闘後に気付いた彼女がガンカメラ映像を分析したところ、一射目から二射目の間は三十秒開いていたそうだ。すぐさま発射したほうが間違いなく効果的な局面でそれだけの時間を空けたのはインターバルだと推察されると主張する。


「三十秒のカノンインターバル。更に発射まで予備動作が必要となれば、周囲に多数の敵を抱えた状態での不用意な発射は難しいでしょう」

 彼女はそう結論づけた。

「つまり多数で対応すれば脅威を排除するのが可能です。それでも対する部隊は損害を免れえないと思いますけど」

「それで抑えきれるのだとしたら結果の見込める投資になるかしらね。人選させる価値は十分よ」

「悪くない方策。うちの部隊が得意であるかと?」

 マフダレーナが具申してくる。

「うん、守りに秀でたあなたのところが最適かも。人選任せるからお願い」

「了解いたしました」


 トップエース級が複数で周囲を固めて大口径砲のインターバルを稼ぐ可能性も提示された。しかし、それも多数で対処すれば逆に同士討ち(フレンドリーファイア)が枷になるという結論に至る。

 これで魔王対策は立っただろう。だが、相手にはあと二枚残っている。ジュスティーヌもここのマッチアップが勝負の綾になりそうな気がした。


「確実を期するならば、剣王か紅の堕天使、どちらか一方にお二人で当たられたほうが良いかとも思うのですが」

 レーバが堅実な意見を打診してくる。

「もう一機にも多数で当たればいいと思うわけ?」

「…………」

 沈黙が続く。それぞれがどちらなら多数で押さえられるかと考えているのだろう。

「剣王は論外です。戦歴を見れば明白。どれだけ多数で当たろうとも彼は確実に斬り崩してきます。投入する戦力に見あう結果は得られないでしょう」

「確かに剣王は無理ね。でも、紅の堕天使だって厳しいわよ。あの機動砲架、欠点が無い訳じゃないけれど、もしかしたら対多数のほうがよほど威力を発揮するような気がしてならないの」

「そうですよね。要するにレギューム搭載機と同じ設計思想で建造されているといえます」

 デュープランの専属であるプリシラの主張は誰も否定できない。


 再びの沈黙。どこを捻ってもジュスティーヌとプリシラが分かれて対処するしか打つ手は無さそうである。誰の顔にもそう書いてあった。


「私がルージベルニと対します。同じ機動砲架を有する機体同士。非搭載機よりは幾分有効ではないかと思いますので」

 確認の視線を送ってくる。

「じゃ、わたくしが剣王の相手をするのね。なんだか順当というか、予定調和な気がしてきたわ。やっぱり、どちらが伝説の後継者なのか白黒つけなきゃ駄目よね?」

「……相性で言えば五分と思います」

「遠慮なんか要らないわ、プリシー。どっちがライナックとして上か、勝負すべき時がやってきたのよ」


 戦気眼持ち同士、能力の高さを競う訳だ。そこにパイロット適性の高さまで加味すれば自ずと結果が出るだろう。

 若い頃は繰り返し苦汁を舐めさせられた剣王とはいえ、パイロットとして円熟味を増してきた今、劣っているとは思っていない。そこに遺跡技術を惜しみなく投入したエオリオンが加われば勝負になると考えている。


「これで基本戦術は完成。参謀部に詰めさせてから周知するわ」

「了解」

 全員が起立して敬礼する。


(さあ、楽しませてちょうだいね、剣王)


 返礼を取りつつジュスティーヌは心の中で舌なめずりをした。

次回 『美人に褒められると悪い気はせんわ』

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 ある意味順当な(?)因縁のマッチアップ。
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