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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第十六話

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善悪の向こう側(7)

 アリョーナ・スビサレタは未だ司令官席にいる。

 先の戦闘で旗艦ファランドラが撃沈され、タドリー・ライナックとイポリート・ブノワが戦死し、指揮系統は破壊された。現在は元の第三打撃艦隊に吸収再編されて艦列をなしている。


「こんな境遇になろうとはね」

 通信パネルの向こうのマフダレーナ・シャウテンに愚痴る。

「そうばかりとは言えないのではないか?」

「言えるわよ。艦列でも隅に置かれているの。実績を積み上げていかないとまともには扱わないって女帝(エンプレス)に宣言されたようなものじゃない」

「失脚したロマーノに比べたら遥かにマシだと思えるが」


 同列の分隊司令だったロマーノ・アキモフは打撃艦隊にはいない。直近数戦の戦闘記録からジュスティーヌに無能の烙印を押されて遠ざけられている。


「あのお馬鹿と比べてもね。ジュスティーヌ様麾下の現打撃艦隊は、直属の人間が幅を利かせているじゃない?」

 アリョーナは上げた手をひらひらと振って憂鬱を示す。

「実力主義者の女帝に選ばれたのは自分たちで、お前らは仕方なく入れてやってると言わんばかりでしょ」

「確かに不満の声は私の耳にも入ってきている」

「上のわたくしたちには露骨な態度は見せなくても、下の者には結構厳しいみたいなのよね」

 彼女は配下に今は耐えるよう命じている。

「まだ良いと思うしかない。拾われたという事は、女帝に実力を評価されているという事だ。取り返す目はあると思え」

「まあね。やってみせるしかないし、部下にもそう言い聞かせてる。でも、司令官閣下のお耳に届くくらいの成果を出すには、わたくしたちが発奮するしかないのよね」

「そのほうが前向きだな」


 相手がパイロットでもある以上、戦闘中の用兵を見せつけるのは不可能。戦闘記録映像は残されていても、見る気にさせるには相応の戦果を挙げて見せねばならない。数値としての結果が必要。


「剣王軍はまだ良いわ。機体性能とパイロットの質の差は用兵で補えなくもない。問題は魔王軍よね?」

 彼女は頭を悩ませる。

「パイロットの質という意味では少し劣る。が、機体性能は同等。用兵では上回られているとしか思えないな」

「それなら用兵の部分を潰していきたいところ。魔王に下がられると厳しくなるわ」

「魔王も前に出ざるを得ないのではないか? 登録情報を見ただろう?」

 マフダレーナが目顔で訊いてくる。


 登録情報にはジュスティーヌ専用機として『エオリオン』が加わっている。女帝は当然のように出撃するだろう。


「プリシラ様もいらっしゃる。デュープランも健在ならば、剣王一人で相手取るのは難しいと思っているが」

 戦友はそう読んでいるらしい。

「魔王が出てくると計算するには少し足りなくない? トップエース級で対処する手もあるから」

「対処できなくすればいい。そこから剣王を引き算すればケイオスランデルは外せなくなる」

「あら、マフダレーナ。あなた、やる気?」

 いつになく熱さを感じる。

「やって見せねばならんと思う。いつまでも配下に冷遇に耐えろとは言いたくない」


 マフダレーナは冷徹な指揮官に見えて情に篤い。ともすればアリョーナより部下の待遇に心を痛めているかもしれない。


「あれを試す。アリョーナ、協力してほしい」

 真摯な瞳が本気度を窺わせる。

「協力するのはやぶさかではないわ。でも、賭けになってよ?」

「それでも構わない。手を伸ばさないと何も掴めない」

「そう。貴女がそこまで言うのなら異論はないわ。わたくしもこのまま引き下がる気はないもの」

 口元が笑みに変わる。

「試してみましょう、血の誓い(ブラッドバウ)の弱点を突く作戦を」

「必ず成功させる」


 女性司令官の戦友二人は熱く見交わした。


   ◇      ◇      ◇


(無邪気ね。戦闘に際してはそう在りたいものだけれど、そうも言っていられない立場になってしまったわ)

 マーニ・フレニー戦闘隊長は目を細める。


 ニーチェとヴァイオラは笑いさざめきながら駆け抜け、続いてマシューも自分の機体に向かう。倍近いと言っていい敵軍といつにない大規模な戦闘になるのに緊張感は無さそうだ。自信と魔王への信頼感がそうさせるのだろう。


(ゼムナ軍は後がない。逆にいえば我々も退くに退けないところまで来てる。もう負けていられないけど、勝利だけを信じて駆け抜ける若さがないのよね)

 心の内に浮かんだ皮肉に溜息が出た。


「指揮官がそんな様子では困る」

 気付けば後ろにケイオスランデルが立っていた。

「肩書が重荷か? それとも私への不安か?」

「どっちでもないわ。いうなれば自分への不安ね」

「ならば無用だ。人選に誤ったとは欠片も感じていない」

 彼女より少しだけ背の高い男を流しみる。

「そうやって自信を取り戻そうとさせてくれていると分かってしまう年齢になってしまったの」

「衰えてはいない。少なくとも美貌はな」

 珍しい軽口に「あら、ありがとう」と応じる。


 ニーチェから見えなくなったのを確認してケイオスランデルと腕を組む。そうする事で女としての自信はすぐに取り戻せそうだ。


「作戦書は既に機体にダウンロードされている。従えばいい」

「無策ではないと?」

「状況による。前回の戦闘で女帝の駆るデュープランは剣王に弱点を看破されている。必ず何か対策を打ってくるはず」

 対処パターンは想定されているという意味。揺るぎない態度に安心感が湧いてくる。

「あの子たちが自然体でいられるのはあなたのお陰」

「なんだ?」

「なんでもない」


 ニーチェが外部スピーカーで吠え立ててきたのでマーニは慌てて腕を放した。

次回 「あれを俺に要求すんなよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 さて……敵さん、何処までやれますかねぇ?
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