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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第十五話

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裏切りの報酬(8)

(苦手意識を振り払えなかったのだから、こうなるのはやむを得まい)

 イポリート・ブノワは最初から諦めている。


 一時的に第二打撃艦隊司令も兼務していたが、今は元通り三十隻の指揮を執る副司令官の一人に戻っている。代わりに着任したのが猛将と名高いタドリー・ライナック司令。そう言えば聞こえはいいが、色々といわく付きの人物である。

 勝ちは大きい。まさに敵を蹂躙して完膚なきまでに叩き潰す。ただし、劣勢に追い込まれても退くを知らず、だらだらと味方を消耗させてしまう悪癖を持つ。ゼムナ軍司令部としても扱いに困る指揮官だろう。


(特に現状のような難しい局面では前線復帰はないだろうと目されていたというのに、司令官席をかの方に譲る事になるとはな)

 ましてや勢いよりは作戦実行能力を重要視される第二打撃艦隊の司令に収まるとは誰も予想していなかった。

(カンフル剤のように使われたか)


 度重なる敗戦がそうさせたといえばそれまで。出世欲に乏しいイポリートが部下を大事にするばかりに引き寄せた事態だと言っても過言ではないかもしれない。


(予想外といえばもう一つ)

 観測パネルに広がる宙域図である。

(当座の目標と思われていた血の誓い(ブラッドバウ)艦隊ではない相手と戦う事になるとはな)

 中心は地獄(エイグニル)艦隊四十足らず。それに血の誓い(ブラッドバウ)艦隊三十が随伴している。


 剣王率いる艦隊の半数四十がポレオンに向けて降下したのは報告を受けている。おそらく女帝(エンプレス)ジュスティーヌに合わせて動いたのだろう。残留艦隊が地獄(エイグニル)と連動して動くとは彼も予想していなかった。あのリューン・バレルが配下を誰かに任せるなどと。


(連合している噂は真実だったという事だな)

 噂はあくまで噂だと思っていた。剣王と魔王ではあまりに性質が違い過ぎて合わないと思っていたが勘違いだったらしい。

(そして、奇しくも私の目の前にいる。あの環礁宙域での敗戦以来怖れが拭えなかった相手。僅か三十隻で打撃艦隊百二十を手玉に取った魔王に恐怖を刷り込まれてしまった)

 彼の生涯の汚点になるのは間違いない。


 敵は七十六隻。対する第二は百二十隻の状況でも厳しいと感じる自分がいる。その弱気を見透かされての新司令の着任には頷けなくもない。その新司令が大音声を轟かせる。


「ブラッドバウとエイグニルの連合艦隊であれば敵に不足なし! これを打ち破って我が軍の真の威力を思い知らせるのだ!」

 立ち上がったタドリーは腕を振り下ろす。

「直ちにアームドスキン隊を発進させて撃ち砕け!」

「お待ちを。寡兵で、あの宙軍基地をも攻略してきた相手。警戒して過ぎるという事はありません」

「何を言う。俺とて敵を研究していない訳ではないぞ! 常に卑劣な手段を使って勝ち続けてきた奴だ! 真正面から挑んでくる度胸など無い! 何も無い宙域では姑息な手を使うのがせいぜいだ!」


(この御仁の中では戦術と卑怯な手段の区別が無いらしい)


 イポリートは苦悩を背負って観測パネルを見つめた。


   ◇      ◇      ◇


 観測パネルは、アームドスキン隊を展開したことで縮尺を小さくした戦況パネルへと様変わりした。スピサレタ分艦隊司令のアリョーナは静かに敵の動静に注目している。


「どう来るの、ケイオスランデル?」

 雪辱を晴らす機会がやってきて舌なめずりをする。

「決して油断はしないわよ。こんな開けた宙域で接触したのを後悔させてあげる。覚悟なさい」


 両軍が放出したターナ(ミスト)でレーダー波は阻害されている。見通しは良くない。が、発達した光学観測機器は有視界の戦場をつまびらかにしてくれる。


 それぞれの分艦隊が有するアームドスキンは九百ずつ。中央にマフダレーナのシャウテン部隊。左翼にロマーノのアキモフ部隊。右翼が彼女のスピサレタ部隊。そして、シャウテンの後方にイポリートのブノワ部隊が陣取ってT字を成して進撃している。

 対するブラッドバウ・エイグニル連合部隊は特に工夫もなく横隊に布陣した。彼らとしては得意とする混戦に持ち込みたい思惑が見え隠れする。要注意は中央に位置する漆黒の巨大アームドスキンである。


 窓外に目をやれば縮みつつある彼我の距離を繋げるように薄紫の光芒が走る。大口径ビームがアリョーナの部隊を狙うが、「回避!」と命じると即座に散開して損害を免れた。


(それは見せてもらったわよ)

 不敵な笑いを口元に浮かべる。


 無論対策は講じている。あの大口径砲を戦略兵器と位置付けている魔王は先制攻撃として使用してくるのは想像に難くない。そこさえしのいで崩されなければ容易に混戦には持ち込めないのだ。


(何度撃っても無駄)


 数度にわたって発射されたビームも彼らに損害を与えられない。そうしているうちに距離は詰まり友軍も砲撃を始める。そうなれば大型のアームドスキンは的にしかならない。

 強力なシールドを展開してしのいだケイオスランデルは後退し、戦場の主役は通常のアームドスキンへと変わっていく。ゼムナ軍側が流れを奪った展開だ。


(あの突進バカがいくら進め進めって言ったところで、やりようってのは幾らでもあるの。敵の戦術を理解し、柔軟に対応していればこうして流れは奪えるんだから)


 先陣を切っていた赤いアームドスキンやクラウゼンが左翼へ向けて転進する。無視された筈の彼女はほくそ笑んだ。


(ほらきた。引っ掛かり易いおバカなロマーノを狙ってくるのはこっちだって計算のうちよ)


 アリョーナはアームドスキン隊に新たな命令を下した。

次回 「女のお尻を追いかけるのばかり上手になるとか」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……本当の詐欺は騙された事にさえ気付けない……。 つまり、騙された側からすればウソが本当の事に!? ……さぁ”本物の”ウソツキはだぁれ?
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