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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第十五話

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裏切りの報酬(3)

(イヴォンたちの姿だけでもちょっと覗けたらと思ってたけど、脱出の援護ができて気付いてもらえたっぽいから、あたしとしては最高だったし)

 ニーチェは思い出す。

(それに一週間以上もずっとパパと二人っきりだったから文句なし。革命戦線とかいう強盗まがいの連中なんて嫌いだけど、機会を作ってくれたとこだけ褒めてあげる)

 満足の本星行きだった。


「何よ、その顔。いやらしい」

 ヴァイオラは何か誤解しているようだ。

「まさか魔王様を襲ったんじゃないでしょうね?」

「そんな事してないもーん。父娘団欒を楽しんだだけだもーん」

「それならいい……、って良くないわよ! 何しに行ったのよ!」

 鋭いツッコミ。

「何だっけ? あのお馬鹿たちが暴走しないように監視?」

「そうでしょ! ちゃんとやったの?」

「無理―。全然押さえが利いてなかったし。ただの悪党軍団」

 彼女にはそうとしか見えなかった。

「いや、一般人から見ればエイグニル(うち)も悪党軍団に見えるわよ」

「そうだった。でも、三本爪のエンブレムを見るだけで怖がられたし。ワンランク上の悪党軍団?」

「褒め言葉になってないから」


 とりとめのない会話になってきた。ニーチェとしては上手く誤魔化せた感じになって問題ないが。


(いきなり迫ったりしないし。まずはパパを死なせないようにするのが一番)

 優先事項である。

(迫るのは全部終わってから)


「はぁー、もう気が休まらないったらないわ」

 ヴァイオラのそれは愚痴に近くなってきている。

「お姉さまもドナもふた言目には『ケイオスランデルの理想の実現の為に』だもん。あれは魔王様に心が傾いているのよ。油断ならないでしょ?」

「そうだよなぁ。マーニもドナ姉も元から美人だけど最近とみに綺麗になってきてるもんな」

 マシューまで同意する。

「パパが格好良くって素敵なのは前からだけど、それがようやく広まってきてるのかも、うんうん」

「頷いてる場合? 要警戒人物が増殖中なのよ」

「大丈夫大丈夫、難攻不落の魔王だもん。一緒に住んで、どれだけ雰囲気作っても全然ほだされなかったし」

 ヴァイオラの頬が引きつる。納得できる理屈だったのだろう。


(うーん、パパがモテるのは当たり前としても、こう美人ばかりに囲まれるのは問題かな?)

 改めて考えてみる。

(あたし的には大丈夫。パパの幸せの為ならハーレム計画もあり?)

 そんな気もするが、やはり胸がモヤモヤする。

(やっぱりダメ。あたしだけ見ててほしいし)

 全身全霊を傾けて愛せば父は満足してくれる筈だと思う。



「だとするとヴァイオラも邪魔?」

「なに考えてんのよー!」

 女の勘で察した彼女は噛み付いてくる。

「パパはあげない」

「いいじゃん。半分こしてよー」

「そっちこそ何言ってるし」


(この娘もハーレム計画容認者だった! 金髪美少女、侮りがたし!)


 なんだか掛け合いが面白くなって爆笑する三人だった。


   ◇      ◇      ◇


 施設長ニコールに留守中の報告を受けたケイオスランデルは必要な指示だけ与えてから立ち上がる。歩き始めると戦闘隊長のマーニと副官ドナが後に続いた。


「何か話か?」

 用がなければついてこないだろう。

「聞いていると思うけど、第二艦隊司令にあのタドリー・ライナックが就任したそうよ。しつこくなりそう」

「はい、なにぶん『猪武者』のタドリーですもの。敵としては与しやすくとも、下がるというのを知らない指揮官では難しくなるのではないかと。叶うならば、友軍の損耗を最低限に抑えたくて訓練を重ねていましたが十分とはいえず」

「聞いている」

 訓練の話もだ。ニコールが使用機材の採算資料を上げてきた。

「出てくるのは間違いない。分かっていると思うが、剣王が地上に出向いた。退路確保の為に第二はこちらで受け持つ。あまり配下をいじめるな」

「いじめるだなんて、そんな」

「分かっている。少し休ませてやりたまえ」

 少し笑みを含めて返すとドナも安心したらしい。


 二人にもついてくるように命じて構内トラムに乗り込む。血の誓い(ブラッドバウ)向けに開放しているバーへと足を向けた。


「どうぞ、閣下」

 目的の人物の隣に腰掛けるとバーテンがすぐに蒸留酒の炭酸割りを無重力タンブラーに入れて差し出してきた。

「すまない」

「いえ、お気になさらず」

 ヘルメットギアの所為で普通のグラスでは飲みにくいと理解しているバーテンだ。


 それで隣に座ったのが彼だと知り、当の本人は驚いている。まさか総帥本人が出向いてくるとは思っていなかったのだろう。


「魔王……」

「オリバー・J・ファーウェル君だな」

 ひと口、喉に流し込んでから問い掛ける。

「し、失礼しました、ケイオスランデル閣下」

「気にしなくていい。君は私の配下ではない。残留組の責任者は君だと聞いているが間違いないかね?」

「すんません、頼りなくて。ちょっと厄介そうなんでガラントのおっさんもリューンについてっちまったんで」


 ずいぶんと恐縮しているようだ。それ以上に縮こまっているのが、彼の隣に座っていた女性。その隣りへはマーニが座ってくれた。自分の役割をきちんと弁えている。


「彼女はペイドリン。妻です」

「うむ、よろしく頼む」

 平伏する彼女を女性二人に宥めてもらう。

「こいつとはゼフォーン解放軍(XFi)時代からの付き合いなんですけど、最近になってやっと身を固めたんです。リューンも気遣ってできるだけ危なくないほうに配置してくれてるみたいで」

「そうか。相談があったのだが、それでは諦めたほうがよさそうだな」

「聞かせてください」


 オリバーは戦士の顔になって正対してきた。

次回 「妬くなよ。あんな戦闘狂にモテても嬉しくとも何ともねえじゃん」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……ハーレム=主人公力と言う歪んだ(?)なろう脳……。
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