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邂逅の戦場(8)

「うっきゃー!」

「あははは、なかなか速いじゃない!」

「ちょ、待てー! 置いていくなよー!」


(は?)

 赤いアームドスキンに続いて、頭部と肩上半分が朱色と青いクラウゼンが通り過ぎる。


 その一瞬で随伴部隊の六機が深刻なダメージを受けている。一拍置いて、うち四機が爆炎を放って撃破された。


(ルージベルニ?)

 モニターに表示される機体コードにはそう書いてある。噂に聞く『(くれない)の堕天使』らしい。

(今の声……)

 耳には自信がある。聞き覚えのある声なのだが咄嗟に思い出せない。


「何なの、今のは!」

 随伴機のパイロットたちが騒ぎ立てる。

「気を付けろ。クラウゼンは閃影(せんえい)弥猛(やたけ)だ。赤いのが紅の堕天使」

「あれがそうなの?」

「間違いない。あのカラーが登録されてるだろ」

 地獄(エイグニル)のトップエース級の二つ名が挙がっている。

「ルージベルニ、登録形状とちょっと違うぞ」

「おい、まだ強化されてるのかよ」

「冗談じゃないわ。どういうスピードなのよ」


 突っ込んできた三機だが、包囲する暇もなく旋回して帰ってくる。僚機は完全に意表を突かれていた。


「はうあうあー! ……おぇ」

 聞いてはいけない声が共有回線に流れてきた。

「吐いちゃダメ。前見えなくなっちゃうから」

「耐えろ!」

「でも、G、きっついし!」


(今の口癖! それにこの声! まさか!)

 プリシラの中で記憶が繋がり結論を導き出す。

(急にいなくなったから誰かに師事したのかと思って調べた。そしたら退学してたのに、こんな所に居るなんて!)

 彼女の事は気になっていたのだ。


「ふざけているの、こいつら」

 ジュスティーヌの言葉が耳に入ってこない。

「ニーチェ! あなた、何で!?」

「んー、知ってる声。これはあの透き通る歌声の人。プリシラ先輩? どこから聞こえてきてるのー?」

「ここよ。黄色い機体」

 ルージベルニの頭部がきょろきょろと見回し、デュープランに向いた。

「げ! 敵機! あ、そいえば先輩もライナックの人だった」

「あなたはどうして地獄(エイグニル)にいるの!?」


 火砲が集中する中でひらりふわりと鮮やかな赤い機体が舞い踊る。肩の丸い固定武装からビームが連射され、慌てて僚機がジェットシールドで防いでいる。大型のビームカノンの痛烈な一撃がまた一機を撃破した。


「知り合いなの、プリシー?」

「後輩です、学校の」

「はぁ? ホアジェンの? そんな子がどうして戦場にいるのよ」


(私が聞きたい。いったいどうしてこんな所で再会するの?)

 頭が混乱する。


「とにかく落ち着きなさい。あれは敵よ」

「分かっています!」


 つい大きな声が出てしまう。らしくない行動にジュスティーヌのは面食らっているようだ。


「デュープラン? 剣王が厄介な奴って言ってたアームドスキンだ。プリシラ先輩が乗ってたの? あれ? 確か『女帝(エンプレス)』とか言ってたと思うけど」

 ニーチェの声音にも戸惑いが混じっている。

「女帝? ライナックのとんでもない奴よ。ジュスティーヌ・ライナック!」

「知ってる子がいるみたいね。そう、わたくしを忘れてもらっては困るわ。紅の堕天使!」

「どしてー? さっき、黄色いのって言ったし」

 理解が追い付かないようだ。

「わ! 灯りが二つある! これ、二人乗ってるし!」

「複座機!? そんなものが!」

「あるのよ。近付いたのが運の尽き。プリシー」


 いつまでも動揺してはいられない。ここは戦場で、近くには敵のトップエース級が三機もいるのだ。プリシラは四基全てのレギュームを発射する。それぞれに照準して牽制射撃を放った。


「だっ! このでかぶつ、機動砲架なんて装備してんの!?」

 クラウゼンは瞬時に離れて間合いを取った。

「ヤバいのに当たっちまった」

「ワイヤケーブルで繋がってるからそう離れられないわよ。ニーチェも間合いを取らないと」

「でも……」


 その時、再び大口径ビームが放たれる。今度は戦列を薙ぐように払われた。逃げ遅れた友軍機が光の花を咲かせてしまう。


「好きにさせておけないわ。わたくしの可愛い子たちがやられてしまうじゃない。こいつらに構ってないでケイオスランデルを墜とすわよ」

 上官は憮然としている。

「分かりました。死にたくなければ逃げなさい、ニーチェ」

「ふん、何言ってるし! ケイオスランデルを墜とすぅ? そんなの許さない! こいつはあたしが墜とす! 先輩も敵として出会っちゃったんだから覚悟よろしく」

「言ってくれるじゃないの! 面白い子ね!」


(姉上を本気にさせてしまう。それはダメ)

 前のめりになったジュスティーヌが戦気を放つ。それに反応するように赤い機体が跳ねた。

(え? 今の反応、なに?)

 攻撃を放った訳でもないのにニーチェは反応した。


「すごく激しい闘気。やる気満々だし」

 まるで戦場の空気が読めるが如き発言。

「当り前よ。この世界、嘗められたらお終いだもの。覚悟なさいな」

「でっかいのは機体と口だけじゃないかもね。やっと新しい装備にも慣れてきたし、本気で行く!」

「仕方ないわ。マシュー、周りのオマケ、わたしたちで片付けるから」

 若い男の声が応じている。


 ルージベルニの固定武装の砲門には二本の鋏のような突起が付属している。鋏の間に薄黄色の円筒が形成されたかと思うと、プリシラの制御するレギュームに向けてビームが放たれた。

 彼女がパルスジェットを噴かして回避させると、今度は肩の球体ユニットが回転を始めた。砲身のような作用をする円筒が残像の尾を引き、赤いアームドスキンの肩に黄色い円環を生じさせる。


(ニーチェの機体、普通じゃない。私も本気にならないと)


 しかし、プリシラの脳裏に黒髪の後輩の姿がよぎって邪魔をした。

次回 「歌い続けたかったのに歌えない私の気持ちは分からないでしょ!?」

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[一言] 更新有り難う御座います。 遂に邂逅、先輩、後輩。
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