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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第十三話

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邂逅の戦場(7)

 ゼムナ宙軍基地の観測士(ウォッチ)のレミージョは観測パネルに表示されている数値に首をひねる。


「なあ、減速、鈍くないか?」

女帝(エンプレス)が言ってたろ? 引っ掛かった魚が減速の邪魔するかもしれないって。その所為さ」

「でもな、推進機(スラスター)からは正常運転信号返ってきてるんだぜ?」

 破壊されてはいないという意味になる。

「そんな露骨な手段に出ないだろ。破壊したら異常信号がすぐに発信されるのは誰でも知ってる。奇襲かける気なら手を出さないって、普通」

「出力に細工して正常信号発信するようにしたのかな」

「そんなところじゃないか」


(そんな凝った細工をする必然があるのか? 減速が十分じゃないのは簡単に判明する。軌道要素がおかしいのだって、監視してれば察知されるって分かってる筈なんだけどな)

 彼は違和感が拭えないでいる。奇襲計画にしては、ずさんな感じがするのだ。


「どちらにせよ、そろそろ結果が出る……」

 小惑星監視任務の主担当である同僚は楽観的だ。

「ほら、きた! 異常信号だ。推進機(スラスター)、破壊されたぞ」

「ジュスティーヌ様が予想した通りのタイミングか。重力場レーダーにも感ありだ。敵艦隊、前面に出てくるぞ」


 宙軍基地側は当然、破壊しようと固定砲塔による砲撃を開始する。それを阻止すべく、防御磁場を発生させた敵艦隊が小惑星前面に展開してくると想定されていた。


「斉射を開始。アームドスキン部隊の発進、邪魔するな」

 基地司令のマチェイ・ライナックが指示を飛ばす。

「こちらが奇襲に備えていたのを気取られない程度でいい。アームドスキンの展開が早ければどうせ覚られる」


 宇宙を切り裂く光芒は小惑星に着弾を始めるも、加速してきた敵艦隊の正面で散乱させられるものが増えてくる。それと同時に敵アームドスキンも一気に展開を開始。その集団は全体に暗灰色を帯びていた。


地獄(エイグニル)だ」

「奴らだったか。女帝は今頃釣れた魚が大物で喜んでるんだろうな」


 レミージョはその様子が想像できて失笑する。


   ◇      ◇      ◇


地獄(エイグニル)だわ!」

 ジュスティーヌが手を打って喜ぶのをプリシラは後ろから眺めている。

「数が少ないのは不満だけど十分大物が掛かったじゃない。血の誓い(ブラッドバウ)は居ないのかしら?」

「先ほど超空間(フレニオン)通信が入ったではありませんか。第二が剣王軍と接敵したと」

「あっちが陽動部隊で、こっちに剣王が来ているかもしれないじゃない?」

 上官は都合のいい解釈がしたいらしい。

「残念ながら艦隊にベネルドメランは確認できません。数からして魔王の軍だけですよ、たぶん」

「はぁ……、仕方ない。魔王の相手で我慢するわ」


地獄(エイグニル)は最近になって組織として大規模と呼べるようになったところ。保有戦闘艦も三十ほどだったはず。なのに三十六隻が確認されている。この拡大速度は侮ってはいけない)

 戦力比で大きな差があろうとも、だ。

(それに、これまでの戦闘では軍の情報を把握している節があった。なら、基地に私たちが丸々残っているのも知っていたはず。小惑星の衝突阻止に戦力を割かれると計算しているんだわ)

 計略も侮れない。


「だからって油断なさらないでくださいね?」

 釘を刺しておく。

「もちろんよ。だって、向こうがわたくしを選んでくれたんだもの。喜んでお相手するのが淑女の嗜みでしょう?」

「そのネタ、まだ引っ張っていたんですね」

 プリシラはちょっと呆れる。

「認めてくれないのね。悲しいわ。直属の部下にこんなに理解されないなんて」

「姉上を理解するのは、私では器が足りません」


 敵艦隊の前には魔王配下のアームドスキン千機強が陣取っている。対し、宙軍基地からは第三所属の内、二千機が一斉に殺到しつつある。地獄(エイグニル)にしてみれば、奇襲を仕掛けたのに相手が万全の態勢で反撃してきたように感じている筈だ。


(それなのに動揺がない。どういうこと?)

 敵部隊の戦列に乱れが感じられない。


 射線が開かれたかと思うと大口径ビームが放たれる。想定はしていたというのに数機が巻き込まれて光球と化した。


(やはり魔王が戦力の要。コード『ケイオスランデル』、あの大型アームドスキンを墜とさなければ地獄(エイグニル)は崩れない)

 二人が乗るデュープランに機体サイズで勝るアームドスキン。その威容だけで圧力を感じる。


「姉上、やはりケイオスランデルを狙うべきです」

「なんだ。ちゃんと分ってくれてるじゃない。わたくしもそう思っていたところよ」


 敵の戦列の中央に位置するケイオスランデル。30m超えの漆黒のボディから異様な気配を感じる。身体が戦ってはいけないと訴える。戦闘に対するそれではなく、原初の恐怖に近い感覚ではないかと思う。


「クリスティンお兄様まで退けたそうじゃない。旬を過ぎているとはいえ、最強の戦気眼(せんきがん)保持者とまで呼ばれた方よ。剣王に劣ったとしても、一般人とは比較にならないパイロットだというのに」

 その情報はプリシラも聞いている。

「最初から本気でどうぞ。サポートします」

「嬉しいわ。じゃあ、甘えさせてもらうわね!」


 デュープランは一気に加速する。開いた射線に怯えるでもなく、一直線にケイオスランデルを目指した。

 随伴機が警護につくが当然のように火砲が集中する。それに紛れるように敵の新鋭機、クラウゼンも接近してきた。


(敵のエース級が多数。それと、あれは?)

 初めて目にする機体も急接近してくる。


 そのアームドスキンは鮮やかな赤い女性的なフォルムを持っていた。

次回 (今の口癖! それにこの声! まさか!)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 さぁ、お嬢様の策略は如何に?
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