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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第十二話

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残照の戦士たち(12)

 エルネドの目にはもう赤いアームドスキンしか映っていないのだろう。形振り構わず出鱈目に追撃だけを繰り返している。


(明らかなミスだ。二度の敗北で完全に心を病んでしまっている。隊長である私がしっかり御してやればここまで壊れる事も無かっただろうに)

 サム・ドートレートは後悔に苛まれる。


 様子がおかしいと気付いた時には半分手遅れだった。周囲に向ける目さえあまりに殺伐としていて、他の部下には接触を避けるよう忠告するのが関の山。衝突が過ぎて、事件扱いしなくてはならないほどの事象が発生するとサムでも庇い切れない。


(あれほど追い詰められているとは思わなかった。軍人などをやっていれば勝つ事もあれば負ける事もある。死に直結する敗北も無くはないが、単独でもない限りは避けられる場合も少なくない)

 それが彼の常識だ。

(言わずとも分かるだろう学ぶだろうというのは私の驕りだったのだろうか? 皆、そうやって成長していくものだと思い込んでいたのが過ちなのだろう)

 軍人生活で身に染みた常識が後悔の元。


 まだ取り返しはつくと思う。それには一つ階段を上らせてやらねばならない。粘着の対象である(くれない)の堕天使を、撃破とはいかなくとも敗退させれば契機にはなるはず。

 現状、敵の主軸部隊がルージベルニを中心に戦列を為しているので、結果的に全機がエルネド機に引き摺られるように対応している。混戦にならなければフォローも可能だろう。


「逃げるなー!」

「逃げないし!」


 ルージベルニは漆黒のクラウゼンに誘導されて行動している。それがエルネドには逃げていると映っているらしい。だが、それは情報部部隊を引き延ばして削る戦略だ。そうと分かっていながらも、巧みな誘導に翻弄されているのが現実。


「それくらいにしてもらいたい」

 動きを読んで先回りしたサムが紅の堕天使の加速を阻止する。

「邪魔っ!」

「それが私たちの任務なのだよ」

「じゃあ、ぶっちぎるのがあたしのお仕事!」


 細身の機体なのにパワーがある。彼の乗機メクメランでも押されてしまう。ただの量産機では一溜りも無かったと感じた。


「悪いが、彼の問題を解消する材料になってくれ。来い、エルネド宙士」

 ビームカノンを弾いて肩から当たってくるルージベルニを左手で捕らえる。

「死ねぇー! 我が人生の障害めー!」

「ちょ、マズっ!」

「すまんな。腕の一本もくれてやれば彼ももう少し落ち着く」

 しかし、サムのメクメランを衝撃が襲った。

「それは困るのよね。遠慮してちょうだい」

「やはり難しいか」

「おじさん、もしかしてあの馬鹿を何とかしようとしてる?」

 漆黒のクラウゼンに体当たりで弾き飛ばされるが、そこへ娘の声が届く。

「それは間違ってるし。そんな事しても成長しない!」

「だが、厳しいだけでは乗り越えられない者も居るんだと理解してくれ」

「甘やかしてつけあがらせてもこんな奴!」


 ルージベルニの肩の可動兵装がビームを吐き出し、それをジェットシールドで弾きながらエルネド機が猛進する。溶け落ちたシールドコアを捨てながらビームカノンを向けるも、娘はジェットシールドで弾いた。ブレードの一閃をかろうじて躱したエルネドはその機体に斬線を刻まれている。


(格段に成長している。荷が重いか)


 サムは厳しい戦況に顔を顰めた。


   ◇      ◇      ◇


(簡単だと思ってもらっては困るのですよ)

 ジェイルはエクセリオンと黄緑のメクメランを視界に収めながら思う。


「油断だぞ、イムニ」

 左腕を基部からパージする腹心に忠告している。

「すみません、クリスティン様。自分はフォローに回ります」

「ああ、協力して当たろう」


 右手をブレードに持ち替えた補佐役はエクセリオンの脇まで後退した。メクメランには固定武装のショルダーカノンがあるので距離があっても無視はできない。


(クリスティン・ライナック、それと副官のイムニ・ブランコート。一線を退いたとはいえ侮っていい相手ではありませんね。ですが、このケイオスランデルでなら二機でも対処可能でしょう)

 ジェイルはセンサー情報を深めに切り替えてσ(シグマ)・ルーンであるヘルメットギアに反映させる。それで視界が広がった。


 フォーメーションを組んで接近する二機に鳩尾のカノンを発射する。口径は大きいがカノンインターバルは三秒。牽制に使うだけ。弾けるように左右に分かれる。

 メクメランからの砲撃をフォトンシールドで防ぎ、エクセリオンへ腕のカノンを一射。イムニが高度を取ろうとしているので、クリスティンは下へと潜り込もうとするはず。二射目は下方に入れる。


「む?」

 先読みの一射に動揺が見られる。


(次は外から回り込みます)

 三射目は右側を狙う。


 発射する前にはパルスジェットを噴かしている。動き始めを狙われたエクセリオンは堪らずジェットシールドを展開した。


「気を付けろ、イムニ。此奴の攻撃、何かおかしい」

 三連射で動きを封じ込められたクリスティンは気付いたようだ。


(腕に三連砲を組み込んだのはこうして戦闘を組み立てる為ですからね)

 回避方向を読み、限定し、追い込んでいく。それがジェイルの戦闘方法である。


「守りも堅いです。これは容易でないかもしれません」

「そのようだ。合わせろ」

「了解です」

 それで通じるらしい。相手も阿吽の呼吸。一度離れた二機が幻惑するように交錯する。


 接近する敵機に彼はフォトンクローを作動させた。

次回 「まさか味方まで撃つ気か?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……あぁ……エルネド氏は完全に壊れたかぁ……。 プライドだけは高そうだしなぁ……。 クリスティンは……戦場に出ない方が いい働きをしたんじゃ……?
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