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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第十二話

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残照の戦士たち(5)

「具体的な案は? 何ら方策も無しに剣王を説得できるとは思っていまい」

 ケイオスランデルは問う。

「有象無象の傍流家には責を取らさねばならないのは当然。本流家の方には政界から退いていただこうと考えている。軍部は方々のお力添えなしに維持はできないので仕方あるまい。だが、国を左右するような実権は放棄させれば剣王の留飲も下がるのではなかろうか?」


(甘いですね。剣王という人物を全く理解できていません)

 手段に違いがあるだけで、ジェイルと変わりなくライナック排除の意思は堅い。そんなリューンに折衷案にもなっていない話を持っていったところで一蹴されるだけだろう。


「もちろんこれは素案であって、剣王リューンが納得できる形に詰めていかねばならないだろう」

 ローベルトは続ける。

「貴公が望むならば、その辺りは今後三者間で協議していってもいい」

「どうして譲歩する気になった?」

「君たちの力は知っている。数倍する第二打撃艦隊を敗走に追い込んだほどの戦闘力をね。だから可能ならば技術提供を願っているんだが」

 下手に出て自尊心をくすぐっているつもりだろうか。

「できんな。話にならない」

「譲れないのかね?」


(引き出せるのはこのくらいのものでしょうね。そろそろ幕引きとしましょうか)

 ジェイルは終幕に舵を切ると決める。


「根源は本家、傍流を問わずライナック全体だと考えている。そして彼らを望む市民の依存心そのもの。私が賜る滅びの対象は全てである」

 ジャネスは「なんと傲慢な!」と非難する。

「都市に対するテロに及ばないのは意味がないからだ。どれだけ市民が苦しんでいようが本家の者は一顧だにしない。軍事行動や弾圧を裏付ける大義の材料ぐらいにしか考えていない」

「そうまでとは思えないが」

「現実を見るといい。真に国を憂うというのならば、国民をライナックの名の呪縛から解き放つ事を勧めよう」

 立ち上がりながらそう告げる。

「それは何もかも手放せという事だ」

「そう感じるのは貴殿も呪縛に捕われているのを意味している」


 護衛が逃がさんとばかりにハンドレーザーのホルスターに手を掛けた。それに応じてマーニとドナも抜く挙動に入る。


「無駄をせん事だ。先も触れた通り、第二打撃艦隊を打ち破った私の軍が外に居る」

「お前の身柄と引き換えならアームドスキンの数十機くらいは引き出せるわよね?」

「妙に軍事技術に拘るな? 何を知りたい?」

 ハンドレーザーを向けながら迫るジャネスに訊く。

「誰もが不信感を抱いているわ。軍に居たわたくしならば殊更ね。お前はなに?」

「最初から魔王だと名乗っている」

「ふざけないで」

 声を荒げる彼女を制したのはまたもローベルトだった。

「そのくらいにしておきたまえ、ジャネスくん。これ以上無茶をして剣王までも怒らせるような事態にはしたくないのだがね?」

「……了解いたしました」


 ケイオスランデルはもう用が無いとばかりに背を向けた。二人の美女も後ろを警戒しつつ彼に続いて退出する。


「あまり肝を冷やすような持っていき方はやめてくださらない?」

「間違っているとは申しませんけど、閣下ならばもう少しやんわりとした議論もできた筈ですが?」

「私は君たち二人に責められている今が一番肝を冷やしている」


 苦笑いする美女たちに艦橋(ブリッジ)まで同行するように命じた。


   ◇      ◇      ◇


「決裂か」

 老境に差し掛かったであろう風貌には、そぐわない覇気が漲っている。

「思ったほど使えませんな」

「仕方あるまい。元から地獄(エイグニル)に関しては期待はしていない。形振り構わん辺りに気骨が感じられる奴だからな」

「そうお考えでしたか」

 本家筋でも有力者であるブエルド・ライナックは納得した。


 彼が前にしているのは宗主リロイ・ライナックである。

 若き折には見事な金髪をなびかせていたものだが、八十も間近となった今では色褪せた黄色に成り果てている。しかし、未だに眼光鋭く、威圧感は尋常ではない。

 長きに渡り宗主の座を明け渡さないのはその威厳に逆らえる者が居ないのも一因であろう。枯れた印象など欠片も無く、常に意欲に満ちたリロイに本家筋の者は頭を垂れ続けているのだ。


「少し接触が早かっただけでこの失敗は問題にはならん。そこまでは望んでいない。当初の方針通り進めさせろ」

 ハシュムタット革命戦線の話である。

「そうですね。基本的には反抗分子を一ヶ所に集めて制御する為に作った器。余計な物ばかり放り込んでいけば溢れてしまいかねませんからな」

「そういう事だ。お前の配下の情報部隊に誘導工作をさせたのはそれが目的」

「ええ、地上の反抗勢力が剣王に呼応して動かれてしまっては厄介な状況を生み出しかねません。こちらの意図を感じさせず制御可能な状態にしておくのが得策でしょう」


 二人の発案で動き始めたのがハシュムタット革命戦線。ただし、彼ら全員がそれを知っている訳ではない。

 一方では不満を募らせるような情報を流し、もう一方で愛国心を煽るような言葉を耳に囁く。様々な情報工作の結果として成立したのが不満の受け皿となる組織である。


「剣王を名乗る小僧めにはまだ働きかけさせるべきかと思われますが?」

「続けろ。あれにはまだ甘さを感じる。付け入る隙はあるだろう」

 工作継続に宗主の同意は得られた。

「魔王のほうはどうなさいますか?」

「そちらの対策はもう呼んである。あれにもうひと働きさせよう」

「ほほう」


 頃合いを読んだように、室内に呼び出し音が響いた。

次回 「まだ遊び足りんか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……あぁ、裏に本家が居るのですか……。 じゃぁそうなるな……。
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