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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第十二話

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残照の戦士たち(2)

 ゼムナの軍礼服を纏った女性士官が控える前を通って折り目正しいスーツの紳士が歩み出てくる。色とりどりのモールで合わされた前身頃の胸元にはゼムナ憲章のバッジが留められていた。彼が議会議員である事を表している。


 大写しのままの画面は同様の服装の男女が数名。その後ろにずらりと軍礼服の士官が並んでいた。彼らが軍部の一部の支持も得ていると示したいのだろう。


『ポレオン市民の諸君、そしてゼムナ全土の国民よ、心静かにお聞き願いたい。ポレオン市民は昨夜は生きた心地もしなかった事だろう。国民の皆も早朝からのニュースに驚きを禁じ得なかったと思う』

 紳士は耳掛け式のヘッドセットを着けて話し始めた。

『惑星軌道上での戦闘の余波が及び、首都上空の防御システムが作動するような事態になってしまった。非常に遺憾である。これは何故か? ゼムナ議会議員である私、ローベルト・マスタフォフは皆に問いたい!』

 名乗った彼は右手を掲げて問い掛けた。

『人類圏の秩序の中心である我らがゼムナが騒乱の中心となっている。このような事があっても良いのか? 答えは皆が思う通り否である。絶対にあってはならない』

 紳士は憤りを表して拳を振り上げた。


「果たしてそうか?」

 ケイオスランデルは鼻で笑う。

「問題は政治に大いにあると思うんですけどね、僕は」

「ここの誰もが君に賛同する」

 オズウェルの茶々に応じる。


『では、何がこの事態を招いたのか? 我が国が輩出した英雄の名を騙り、我欲自儘に振る舞う者たちの所為である』

 糾弾するように虚空を指差す。

『彼らがゼムナの治安を悪化させ、国際的な信用を失わせつつある。彼らが本来正義の使者であるべき協定者、剣王リューン・ライナックを怒らせ、真の故郷たるこの国を憎ませた』

 断罪するように腕を振る。

『しかし、寛容なる英雄の子孫たち、ライナックの血を受け継ぎし方々は彼らの存在も許している。何と心広き事だろう。私とてその行いを敬うべきだと思っている』

 尊敬を表すような穏やかな面持ちで語る。


「人気があるライナック本流の人間は責められないってとこですか? 下手すりゃ批判の的になる」

「そんなところであろう」

 論調の裏が透けて見えてしまう。


『ただし、我慢の限界はある。多くの国民に被害が出る事態の到来は防がなくてはならない』

 彼は断じる。

『昨夜のような恐怖を国民に覚えさせてはならない。この本星まで戦火が及ぶような事があってはならない。そう考えるのが議会議員たる私の義務だと思っている』

 自分を表して胸元に手を置く。

『だから私は立ち上がった。過日より血の誓い(ブラッドバウ)総帥リューン・ライナックに働きかけている。地上にまで戦闘を持ち込まず、一般市民に被害を出さないようにと。それには賛同を得られた』


「まるで自分の手柄みたいに言いますね。血の誓い(あそこ)の基本スタイルじゃないですか」

「そう思わせたいのだろうさ」

 オズウェルは鼻白んでいるようだ。


『それでもテロは頻発し、市民の皆には被害者が後を絶たない。ライナックを騙る者たちを敵視しているのは剣王だけでなく反政府組織の者も居るからだ』

 意図が見え隠れし始めている。

『私は彼らを押し留める言葉を知らない。なぜなら思いは同じだからである。政情を悪化させた傍流家許すまじの思いだ』

 歩み寄りの姿勢を見せる。

『故に、ここにハシュムタット革命戦線の設立を宣言する。傍流家からの政治的軍事的圧力に屈しない言論の自由と反抗の精神を支える戦力がここにある』

 ローベルトは後ろに控える人々を示した。

『我らが力を合わせれば必ずライナック本流家の方々にも声は届く。そう確信している』

 力強く握った拳を振りかざす。

『伝説の血筋の方々に、傍流家であれどライナックの名を冠すればいずれ改心するであろうと考える慢心を問い質すとここに誓おう!』


「慢心があったのは市民のほうさ」

 彼は反する意見を口にした。

「ですよね? 英雄の血統の人がやる事なんだから正しい。彼らが国を導いてくれるなら大丈夫なはず。そう思って押し付けた結果がこれなんですから」

「意味が有るようで無い。耳に優しいだけの論調だ」

「これはまた厄介なのが出て来ちゃいましたね」


(でも、こういった論調は国民が好むところでしょうね。一人ひとりに責任はなく、情勢がそうさせていると思えますから)

 皮肉な感想を抱く。


 これから会いに行くと告げるとオズウェルは渋い顔になる。彼の心に全く響かなかったらしい。滅びの名の下に全てを無に帰すべきというケイオスランデルの考えに賛同した者たちだ。彼だけが特殊ではないだろう。


(ただ、各地の反政府組織には聞こえがいいでしょうね)

 そんな意図が含まれているとジェイルは感じた。

(つまりはそういう事だと思っておくべきでしょう)


『集え、同志よ! ゼムナが本来の正義と秩序の守護者となるべく革命の時の戦士たれ!』

 ローベルトは広く受け入れるように両手をかざす。

『伝説の後継者リューン・ライナックと手を携え、新しきゼムナの未来の為に私はこの命を懸ける! 志持つ人々の力によって必ずや我が国の未来は拓けるであろう! その時まで戦い続けようではないか!』

 立ち並ぶ者たちが拍手喝采で彼の演説を讃える。


(厄介なばかりではないかもしれません。中小組織の現在の無秩序な行動が抑制されるのは都合がいい)

 市民感情の矛先になるのは配下の精神的負荷になるだろう。

(そう考えるのが僕だけではないというのも事実でしょうけどね)


 ジェイルは今後の選択肢を幾つかに定めた。

次回 「君たちは私を何だと思っているのか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 市民と傍流は煽るが、本家には言及せず……。(凄く政治家っぽい……)
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