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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第十一話

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魔王と剣王(4)

 妻のフィーナは自分と違って初対面の人とでも仲良くできるタイプなのはリューンが一番よく知っている。今もロボットペットのペコと子猫を挟んで地獄(エイグニル)の娘と和やかな空気を生みだしていた。横で仮面(ヘルメットギア)の男と多少物騒な話をしても雰囲気は悪くならないだろう。


(色々とぶっちゃけてやってカマを掛けてみたが怒り出す気配もねえな。こいつの仮面は正体だけじゃなく表情も隠してえのかと思ったが、声に怒気も込められねえ。まったく食えねえ奴だ)

 それどころか彼が仕掛ける論調を予想してきたきらいがある。躱すどころか情報を引き出された感触が拭えない。


「俺としちゃ目的が同じなら手ぇ組むのも悪くねえと思っている。こいつもそのほうが気楽だろうしな」

 親指でエルシを指す。

「彼らにとって面倒な状況なのは否めん。方向性を一本化するのにも賛同はできる。だが、貴殿も組織の長。一人の判断で私と歩調を合わせるのには問題があろう」

「察しが良すぎんだよ、あんたは。その通り、俺はできるだけ民間人を巻き込みたくねえ。筋は通してえと思ってるし、そのスタイルだからついてきてくれてる奴も多い。それが急に、力があるからってお構いなしの相手と組むって言ったら幻滅されるかもしんねえ」

「離脱者が出てもおかしくない。リスクが高いと判断するなら避けるべきだろう」

 血の誓い(ブラッドバウ)とのスタイルの違いに批判が出る可能性は少なくない。

「自分の甘さは分かってんだ。やり遂げてえなら、つまんねえ拘りは捨てちまえってな。だがよ、どうにも簡単じゃねえ」

「難しい話ではない。汚れ役は必要だと言ってしまえばいい」


 魔王は言う。どんな組織でもそういった趣はある。国家の軍でさえ諜報や工作の部隊は備えているのだ。役割分担を連合する組織に任せていく方向性を示せばよいだけだと。


「元より地獄(エイグニル)は組織としては格下だ。見下ろす相手のやる事ならば寛容にもなれよう」

 そこまで言われると逆に気兼ねをするとリューンは思う。

「理屈は分かるがそれでいいのか?」

「我らは魔域の住人。悪を為すのに何を躊躇おう」

「ほんとに食えねえな、あんたは」


(組み易い理由を与えて恩に着せるって訳じゃねえ。が、容易く切り捨てられねえと思わせやがる)

 その辺りは心情的な部分。

(同調せずに独立して動く事で、いざ批判が高まった時は切り離せばいいって免罪符まで用意されてるって訳か。そこまで地均しされてたらやり易いってもんだ)

 こちらは現実的な部分。

(で、こいつらは、俺たちっていう大戦力に対して影響力を持てるって寸法。今後は魔王の意見も容れなくちゃなんねえ)

 そこまで計算したうえでの台詞なのは間違いない。


「じゃあ、あれだ。慣らし運転といこうじゃねえか」

 そう言ってリューンは身を乗り出す。

「そろそろ惑星軌道の第一打撃艦隊を蹴散らしてやろうと思ってる。その作戦、あんたが立ててくれ。成功すりゃ、この連合にも示しがつく。うちの連中にも話を通しやすいってもんだ」

「なるほど。一つの作戦をもって試金石としようという事か。誰にでも分かり易い方策といえよう」

「言うまでもねえがよ、役回り次第じゃあんたらの評判も変わるって話だぜ」

 血の誓い(ブラッドバウ)の流儀に合わせた役を回せという意味だ。

「難しくはない。現状動かせる戦力を教えてもらおう」

「おう、それが分かんねえと作戦の立てようもねえよな。時期と戦力はこっちから提案させてもらう。それで良いな?」

「構わん」


(方向性はともかくよ、良い意味でも悪い意味でも安定感があるな、こいつ。自分が選んだ道をまったく疑ってもいねえって感じだ)

 しかも彼の苦手分野を補うに足る知恵者だとリューンは思う。それだけにもう一つの懸念事項に関して魔王に相談する気になった。


「んで、一個ばかり気掛かりがあってな」

 ケイオスランデルは「何だね?」と促してくる。

「実は本星からも共闘の声がある。反政府組織とかじゃねえ。政治的に抑圧されている左派議員の集まりだ」

「無論そういった勢力もいよう。ゼムナの現状を憂う精神の持ち主もな。相当肩身の狭い思いをしているだろうが」

「そいつらから極秘裏に協力要請が来てんだよ」

 血の誓い(ブラッドバウ)には公的な窓口も存在する為、そこから舞い込んできた。

「貴殿らを戦力として当て込んでいるのではないかね?」

「否めねえがよ、そうでもねえらしいときてる」

「ふむ。……軍部にも同調勢力が居る。だが、それは協定者という国際社会での評価を踏まえて、同じライナックなら正道を歩んでいると思える相手にすり寄ろうとしているのかもしれんぞ、リューン・ライナック?」

 少し考えた魔王は彼の家名を強調してくる。

「ご名答だ。エルシも同じような評価を下したぜ。上手く誤魔化しちゃいたがよ」


 リューンにも彼らの扱いに関して迷いがあった。地上と連動するのは地歩固めとして有効。全てのライナックを宇宙に引き出せるなどと都合のいい事は考えていない。ただ、地上側を扇動して火を点けるようなやり方を彼は好まない。


「分かった。考慮しよう」

 ずいぶん簡単に請け負う魔王に少し呆れる。

「打てば響く感じが逆に怖えじゃん」

「怖れられなくては困る。私はケイオスランデルだ」

 軽口にリューンはゲラゲラ笑う。

「頼れる相棒が手に入ったみてえだ。あんたはライナックの天敵だからな」

「へ、パパがライナックの天敵?」

戦気眼(せんきがん)の唯一と言っていい弱点を突いてきやがるんだよ」


 素っ頓狂な声音のニーチェにリューンは説明を始めた。

次回 「面白みのない娘ねぇ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……二人はお互いに欠けている部分を補える関係? ……奥様と娘(ダブルヒロイン)の会話も気になりますねぇ……。
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