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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第一話

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父と娘(9)

 合同捜査に関して、機動三課のマクナガル課長が捜査二課に渡りを付ける。得られた情報の中でジェイルが注目したのは産業スパイの立ち回り先。やはりスブラニクの外務支局からそう離れていない場所。二課も支局内部に潜伏しているのではないかと目星をつけて監視装置を張り巡らせているらしい。


(確証がない以上は引き渡しも要求できませんし、そもそも外交特権で踏み込むわけにはいかない場所。外で確保するしかないのでそんな対処になっているのでしょうね)

 方針としては間違っていないと思う。しかし、持久戦だ。

(現物を持ち出すしかないのならばこれで問題無いとは思います。サンプルはともかく組成データのほうは送信可能でも、外務支局の通信記録に盗んだ情報を残せば後々面倒なことになりますからね)

 一国の外務庁がそんな愚策に出るとは考えにくい。


 それでも、持ち出しの手筈も整っていないのにスパイへ潜入指示を下すとは思えない。そんな行き当たりばったりの作戦で動いていれば国が傾く。


(段取りが完了するまでは面の割れている本人を押し込めているほうが安全策。なのに監視カメラに記録が残るような動かし方をしているのは陽動の線が濃いですね)

 ジェイルは当たりを付ける。

(スブラニク外交支局から遠くも近くもない宇宙ポート。ケントル宇宙ポートってところですね)

 停泊船のデータを読み出す。

(ありました。二日前に降下着底した商船。離底発進の予定は三日後ですか。実に分かり易い)

 もしかしたら偽装商船の可能性も捨てがたい。


 ジェイルは準備に入る。


   ◇      ◇      ◇


 三日後、彼らは機動三課の警備クラフターの中で待機している。重火器は搭載していない警備クラフターの操縦席には操縦士とオペレータ。捜査官は所属アームドスキン、ムスタークのコクピットへ着いている。操縦席と各機は傍受されないレーザー通信で繋がっていた。


「ジェイル先輩、こんなとこで待ってたらいいんすか?」

 シュギルは全容が知れない状態での待機が不安らしい。

「ええ、もう目標を追っていますから大丈夫ですよ」

「こいつが断言するんだから安心して待ってろ。俺たちは目標を確保するだけで済むだろうぜ」

「先輩はのんびりしたもんっすね」

 足を投げ出したグレッグは頭の後ろで指を組んで身体を揺らしている。

「もう少し緊張感を持っていてもいいですよ。最悪、戦闘もあり得ますから」

「お前がクラフターまで動員した時点で覚悟してる。いざとなったらちゃんと動くって」


 おざなりな忠告に過ぎない。ジェイルは彼がそういうタイプだと知っているし、シュギルも場数だけ踏めば自然とモチベーション管理ができるようになるだろう。それぞれを映した球面モニターのウインドウに苦笑いを送りながら、外の映像へも目を走らせる。


「シュギル、ちょうどいいからシャノンちゃんを食事にでも誘ってみろ」

 グレッグはオペレータのシャノン・カストルの名前を出す。

「こんな時にっすか? で、いつが空いてるっす?」

「ほんとに誘っちゃうの? 馬鹿じゃないの、あんた」

「え、駄目なんすか?」

 一瞬でフラれている。

「もうちょっと実績あげてからにすれば? ただの使いっ走りになんか興味ないわ」

「先輩、今日はもう立ち直れないっす」

「そのくらいでいい。入れ込み過ぎないで済むからな」

 彼は後輩の扱いに慣れている。

「報告! 二課が目標を確認! 追っています!」

「だっ! 逆方向じゃないすか! 急行しないと!」

「いいえ、ここで合っています。もう少ししたら動きますよ」


 操縦席に入った共有情報にシュギルは慌てるが、ジェイルが目星をつけた目標は別のものだ。クラフターが上空で待機しているのはその目標が監視できる位置なのである。


「目標、レストランの駐車場から出てきました。追います」

 シャノンが一応中継している。

「この車が何なんすか?」

「車輛データ、読め。こっちが本命だっての」

 グレッグも身を起こしてフィットバーに腕を添わせる。

「スブラニク外交支局の公用車? サンプルとデータはこっちに乗ってるんすか?」

「そうだ。例のスパイの動きが確認されてたのは逃げ回ってると思わせたかったからさ。全部がこの輸送への伏線だってんだろ、ジェイル」

「僕の考えはそうです」

 この同僚は理解が早くていい。


 公用車は目立たないよう派手な走行はしていない。そのまま粛々と目的地へと向かうだろう。


「やっぱりケントルポートに向かってる。さすがジェイルね」

 予め指示通りの方向に機首を向けていたので追尾も目立たない。

「食事に誘われるならあなたのほうが良かったわ」

「考えておきましょう。ただし、娘も同席させてもらえないと困りますよ。彼女が臍を曲げるので」

「そこなのよねぇ」

 ライナック案件絡みで組むとなると話は別なものの、彼も敬遠されているわけではない。

「やっぱり男は顔っすか……」

「いや、実力だろ」

「止めを刺すのやめてもらってもいいっすか?」

「もう少しで到着します。現物の引き渡しを押さえますよ」


 ジェイルもフィットバーに腕を合わせる。シリコンバンドが湾曲して保持すると起動操作に入る。


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。機体同調(シンクロン)成功(コンプリート)

 鈴を鳴らしたような女性の合成音声がコクピットに響く。


「発進どうぞ」

「では行ってきます」


 クラフターの開放された下部ハッチから三機のムスタークが商船に向けて降下を始めた。

次回 「手遅れです」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 そう言えば頭脳戦は珍しい気が……。 今まではチート(ゼムナの意志)が居たし……。
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