序章 昔日の思い出
執筆楽しそうだな―と思い始めました。
誤字やら至らない点やらあると思いますが、指摘してもらえたら嬉しいです。
家に帰ると、鈍い音が響いていた。
骨と骨が衝突する、気色の悪い音。
昔はその音に耐えられなくて、ずっと耳を塞いでいた。
怖かったのだ。その矛先が自分に向かうことが。
でも今は、ただただ虚無が胸を締め付けるだけだった。
「――っらぁぁ! んだよぉ薄気味わりぃ畜生がぁ‼」
リビングに向かうと、大の男が少女にまたがり、痩せた腕を振り下ろしていた。
酒でも入っているのか、呂律は既に回っていない。
振り下ろした拳は狙いから外れ、床に叩きつけている。
無様。
その男を見て、ふとそんな言葉が浮かんだ。
なら、その男と正面から向き合う少女からは余計にそう映っているのでは?
そう思ったが違うようだ。
なぜなら少女の目蓋は醜く腫れ上がり、あれでは視界など残されてはいないだろうから。
「死ねっ死ねっ! 今日こそは死ねっ! 畜生がのうのうと生きてんじゃねえ‼」
畜生とは何か。
もしそれを人の心を持たない獣だと例えるなら、この場で最も畜生なのは誰なのか。
血を流しながら喘ぐ少女よりも、よほど畜生な存在がいるのではないか。
「――っ」
頬を殴りつけられた少女――妹が、蚊の鳴くような呻き声をあげる。
その声でようやく、自分が何か手に握っていることに気づいた。
それはウイスキーの瓶。
――これはお前たちが飲めるようになったら、3人で空けような。
昔日の約束などなかったかのように空になったその瓶を、俺は強く握りしめていた。
「死ね――んぁ? おおぅ、練利ぃ。帰ってたのか! ちょっと待ってろ、この畜生を絞めたら晩ごはんにしようなぁ」
背後に迫る足音に気づき振り返った男は、優し気な笑みを俺に向けた。
その顔は、かつて父と慕った人と瓜二つで――。
もう、何の感慨も湧かなかった。
「ばいばい、父さん」
今になって思う。
結局、俺は父をどう思っているのだろうか。
愛情は恐怖に変わり。
恐怖は怒りに変わり。
怒りは虚無に変わった。
あれからしばらく時間も経たが、今はどう想っているのか。
虚無を引きずっているのか。
それとも怒りを、恐怖を、愛情を取り戻しているのか。
辿った過程が多いかったから、それすらも見失ってしまった。
ただ、それでもあの男の影を追ってしまうのだろう。
家族、だったから。
いきなり変な話ですいませんm(__)m