虐められっこの召喚術士が転生してきました。
「渓さんってなんでそんなに筋肉あるんですか?」
3人でのシェアハウス生活が始まった次の日、僕は渓さんにそんな疑問をぶつけた。あんなに筋肉がある人は、元の世界では見たことがない。ボディビルダーなんて比にならないくらいの腕の筋肉が僕には見えている。
「それはこいつのせいだな。」
渓さんは、僕が生成した食糧をもぐもぐと食べている神様を指差しながらそう言う。
「人の一生を筋トレに捧げてもここまではならないだろうな。」
「じゃあ渓さんはどうしてそこまで…?」
「人の一生を超えたからな。」
渓さんは神様のせいで人の一生を超える程のなにかをしてこうなったのか。このもぐもぐしてる神のせいで。
「…」
「もぐもぐ」
「神様って本当の神様なんですよね? こんなところにいて良いんですか?」
「ぶれいだなぁ〜。もぐもぐ。わたひはひょうひんしょうめいのかみさまだよぉ!もぐもぐ。」
食ってから喋れ。食ってるトマトが見え隠れしてんだよ。点滅中の赤信号かよ。
「…ふぅ!ごちそうさまでした!
さて、食糧君は私が神なのかに疑問を持っているんだね?だったら神らしく仕事してこようじゃないか!渓!」
「あぁわかった。行くぞ。」
そして神様は僕が瞬きをしたときには消えていた。
渓さんはなにがわかったのかわからないけど僕は渓さんの後を追った。
そして、僕が転生してきた場所に着く。そこでようやく神らしい仕事の意味を理解できた。
「神様は人を転生させるために消えたんですね。」
それで渓さんが選別をできるように声を掛けたのか。
「そろそろだな。」
渓さんがそう言ったその直後、あの眩しすぎる神々しい光が目の前を覆った。
そして現れたのは不気味に笑っている少年。15歳くらいだろうか。まだまだ若い。
「異世界へようこそ!」
以下略。ほんとテンプレ変わんねぇな。
「ほらっ。神の仕事してきたでしょ?」
いつからいたのか。最初からいたように真横に並ぶ神様はそう言う。僕が死んだときとおなじ、あの目だ。あの不気味な少年を転生させる際にその目でいたほだろう。
「神様ってなんで転生させるときには目から感情が消えてるんですか?」
「そりゃあ神っぽいからだよ。私って何もしてなきゃぱっと見ただの人だし。それに神の存在を信じてない人もいるからね。信じさせるためにも第一印象は怖くしてるんだ。」
たしかに今の神様からは、もぐもぐしてた神様の姿とは全く被らない。というかめっちゃ怖い。トマトあげたら戻るかな。犬にはトマトあげたら機嫌良くなったもんな。
「まぁそれとは別なんだけど、今回の転生者は結構強いかもよ?ほらっ。あっち見てみ。」
「えっ?」
神様が見る方向へ僕も釣られるとそこには
「ふはははは!!いいぞ!!俺の地獄の巨人!!もっと暴れろぉ!!」
体から火が噴き出している巨人と、その攻撃を躱している渓さんが既に戦闘していた!
巨人の大きさは5メートルくらいだろうか。攻撃は殴打くらいしかなさそうだが、その巨体の割には動きが俊敏で、威力が高そうだ。
渓さんは、攻撃を避けつつ、反撃の機会を伺っている。
「今回の転生者はね。結構当たり特典を引いたから強いかもね。特典自体は強力な召喚獣を召喚できるってだけだけど、本人が一切鍛えなくて良いっていうのはズル能力かな。触れないと強制送還できない渓には不利だね。」
ついに渓さんは攻撃を一発、左腕に受けてしまう。だが、渓さんは全く痛そうな素振りを見せない。
「あのくらいなら渓は平気だね。ただあのまま攻撃をくらい続ければ、衝撃が蓄積して壊れるだろうね。」
「たっ…助けてあげないんですか!?神様ならあんなの余裕でしょ!?」
「なぜ私が渓を助けなければならないんだい?」
光を映さない目でそう言う神様に僕は恐怖を感じた。
「食料君。お前はまだ神がどういう存在か分かっていないね。神は誰か一人に肩入れなんてしない。私みたいな転生について担当してる神なんかは特にね。神はその力でこの世界なんて一瞬で消せる。そんな力を持つ存在が一人に肩入れなんてしたら、一瞬でこの世界の問題ごと解決しちゃうじゃん。人が作った問題は人が解決しなきゃ意味ないしね。」
つまり、人同士のことに神様は介入してはいけない…ということか?神様は説明を色々ぼかしている気がする。
「そもそも渓はチート能力や他の人の手を借りることが嫌いなのは知ってるよね?
私が渓を助けるということは、それこそ異世界をなめてる転生者と同じことをしてるよ?
神が味方の異世界転生!!的なね。」
「…でもっ渓さんあのままだと…」
「大丈夫。渓はあんなのに負けるほどヤワじゃない。」
目に感情が戻ってきた神様が安心させるように僕に言う。 僕は内心まだ焦っていたが渓さんの戦闘に目を戻す。
ーーーーーーー
「まだ聞いていなかったな。お前はこの世界で何がしたいんだ?」
攻撃を避けながら渓さんは質問する。
「この世界で何がしたいかって?
まずは調子乗ってる魔王をぶっ飛ばす!
そしたらオレが代わりに魔王になって、この世界を恐怖で支配させてやるんだ!!
それで、死んで転生してきたあいつらを!!オレを虐めていたあいつらを恐怖に陥れてやるんだ!!」
こいつ不気味思想だと思ってたが危険思考だったわ。言動からして元の世界でいじめられていたのだろう。
「お前が元の世界でどんな辛さを味わったかはわからん。だが、この異世界を異世界人でないお前の逆襲に使われることは許さない!元の世界に戻ってもらおう!」
渓さんは巨人に駆け出した。当然巨人も殴りで応戦する。
「馬鹿かお前!地獄から召喚されたこいつに殴り勝とうってか!?無謀すぎるぜ!地獄に送ってやれ!!!」
巨人の攻撃はさらに激化する。空ぶって殴った地面の跡は、くらったらひとたまりもないぞと訴えていた。
だが、僕は見ていた。危険思想の若い奴が地獄から召喚された、と言ったときの渓さんの小さい笑みを。
そして、ついに渓さんは巨人の懐に一発殴りを入れる。かなり重そうに見えたが、巨人のものと比べるとまだまだ軽い。
「はっはぁー!!そんな攻撃でこいつが倒れるかよ!!
お?どうした急に突っ立って。だったら、トドメだぁ!!」
もう遅い。僕は渓さんの笑みで気づいたのだ。渓さんの能力が人だけに効くなんてものじゃないことを。
その命令を執行することなく、巨人は消えていった。
「はぁ!?!?おいどうしてだよ!!てめぇ何しやがった!?」
渓さんの能力は【元の世界に戻す能力】だ。巨人が地獄から召喚されたのなら、能力を使い、地獄へ戻すことだって出来て当然だ。
動揺する脳内危険思想君は、ドラゴンやらゴーレムやら色々な召喚獣を召喚するが、渓さんが触れれば全て消えていく。
「ね?言ったでしょ?渓はあんなのに負けないって!」
そりゃそうだろうよ。渓さんの能力と召喚系の能力は相性が良すぎる。
そして、これも常識だが召喚系の能力を使う人間は、本体は全く強くない。
つまり、最初から渓さんの勝ちは決定していたのだ。
全ての召喚獣を消滅させ、ついに危険思想君の眼の前まで渓さんはたどり着いていた。
諦めたように危険思想君は言う。
「あ〜。異世界なら虐められないのに。またあのカースト社会に戻るのか…。生まれ変わってもどうせオレは虐められるんだろうな。」
自嘲を言い、苦笑いする危険思想君。少し可哀想だが、仕方ないよなぁ。
「お前は生まれ変わる。今度は虐められない環境でカースト制度にも屈しない、強い奴になれよ。」
「なれっこないだろ…」
「いや、なれる。」
系さんは力強く言う。
「元の世界で強くなりたいなら、虐められたくないなら、神に祈れ。神は意外と良い奴だから、同情され、強く祈るなら、きっと良い輪廻転生ができるだろう。」
そう言い、手を差し出す。
「…はっ。神頼みかよ。まぁ、この際だ。神に祈るってのも悪くねぇかもな。」
危険思想君はその手を掴み、そして光に包まれ、消えた…。
いいはなしだなー。異世界で改心手前までさせて、その未来を願うなんて…。渓さん良い人や。怖い人だけど良い人だ。新属性怖良い爆誕。
そして家に歩き始めた。
良い話だなぁ。と思いながらその後を付いていく。
「ねぇ!?渓!?私にそんな話しないで考えたでしょ!?なんでそんなにアドリブで生きてるんだよ!?渓がああ言った手前、良い奴に生まれ変わらせるけどさ!?生まれ変わりの指定なんてめっっちゃ疲れるんだからね!!あぁもう!なんでそういうこと勝手に相談なしで決めちゃうのかな!?ほうれんそうも出来ない大人なの!?
ねぇ聞いてよ!!あの人、放置しちゃうよ?ほうれんそうのほうが放置のほうになっちゃうよ!?!?だいたい渓はあのときも…」
渓さんの背中に飛びつき自分の今後の負担を全力で愚痴る神様がいなかったら良い話で終わっただろうね!?
テスト入るので続き遅れると思います。
木曜日以降から再開すると思うのでよろしくお願いします。