男が「異世界転生の門番」と呼ばれるようになったわけ
最近はしっかり目的のある異世界転生モノが無くなってきたなーと私は思ったのでこの話を書きました。
異世界転生飽きたなーっと思った方や、ハーレムばっか作りやがって!っと思った方はぜひ!この作品を読んで多少の暇つぶしにしてください。
異世界転生。
一度現実世界で人生を終え、異世界に転生するという、ラノベでは言わずとも知れた人気のジャンルである。
その際、神やら天使やらが現れ、魔法適正MAXだったり、身体能力が異常に高くなったり、全ての魔法が使えるようになったりなど、いわゆる「チート能力」を主人公が授かる。
しかもその主人公は何の苦労もせず、なぜ自分が転生者として選ばれたのかという疑問すら持たない。そのくせ、現世ではコミュ障ニートのぼっちだとほざく奴も存在する。
チート能力を授かった主人公は、異世界で異世界人に異常にまで持ち上げられ、可愛い女子たちとパーティーを組み、持ち前のチート能力で魔王を倒し、ハーレム王国を築く。コミュ障ニートのぼっちなら、女の子に話しかけられず、旅に出る気力もなくなり、独りで寂しく生きていくはずだが。
そんな夢のような話に憧れた一人の冒険家の男がいた。
男は現世で心臓病により、愛する者に囲まれて12月31日、1年の最後の日に永眠した。そこには一片の未練も存在せず、清々しく人生の幕を閉じた。
そして男は、いつのまに自分が暗い空間にいることに気づく。
ラノベで何度も見た光景だ、と少し期待をしながら立ち尽くしていると、
目の前に神々しく、中性的で性別が分からない人物が現れた。
「異世界にお前を転生させてやろう」
おそらく神だろう。ここまではテンプレだ。と男は思い、ますます心を弾ませた。
だが、目の前の神はその期待を壊す言葉を意地悪げに放った。
「ただし、この1年間に死んだ人間の1人だけだ。今から試練を与える。離脱したい者はすぐに離脱することもできる。最後まで生き残った人間だけが、異世界へ行くことが許される。今年の死者数は5500万6007人だ。」
直後、周囲の暗い空間が明るくなり、埋めつくさんばかりの人が出現する。
はぁ?と間抜けな声を上げてしまう男。日本だけでも年間死亡者は約130万人いる。その中から1人のみが、異世界への切符を手にする。その確率5500万6007分の1。想像もできないほどの天文学的な確率だ。
試練など受けずに、異世界を諦め、赤子に生まれ変わることを選ぶ人もいたが、男は生まれつきの冒険家の血が騒ぎ、異世界への試練を受けることにした。
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灼熱の業火に焼かれ続ける。文字通りの針の山を素足で登る。光の届かない海に沈み続ける。時には異世界を目指す同胞と殺し合いをする試練もあった。
千切れかける筋肉や、軋む体の骨、一度胃を針が貫いたこともあった。
指を切られる拷問の方がどれだけ楽だろうか、と何度も男は思った。
魂だけの死者ゆえに、痛みはあれど傷は瞬時に回復し、死ぬことも無かった。
男は冒険家のプライドなどとうの昔に捨てていた。それでもここまで生き残ったのなら最後まで残りたい、という意地だけで体を突き動かした。
時間にして0秒。
だが、体感にして、300年。
ついに男は生き残った。そこに、異世界での暮らしや、ハーレムなどを考える思考は無く、重圧だけが残った。前世の記憶を持ったまま転生するという、夢を抱いた5500万6007人の仲間。最後まで共に生き残り、互いを高めあったライバル。本当に自分で良いのだろうかという不安。
試練中は考えることが出来なかった重圧が、一気に男の肩を重くする。
神は生き残った男に
「お前には異世界へ転生することを許可しよう。
特典として何でもお前に与えよう。」
試練前ならどれだけ喜んだか分からない言葉も今は全く耳に届かない。
そして神は性格の悪い笑みを浮かべ、驚愕の事実を明かした。
「ちなみに次回からは特典の数を1つに制限し、試練無しで転生をさせることに決まった。」
男は泣き崩れた。
もしも現世でもう1日だけ生きていれば、あんな試練受ける必要は無かったではないか!共に生き残ろうと誓ったライバルも試練なしで共に転生出来たではないか!
今後は試練前の自分のような、夢を抱いているだけのぬるい奴が、何の苦労もせずにチート能力を1つ獲得し、転生できるとあの神は言っている。そんなことが許されて良いのか!なぜ試練を行わない!と、神に訴えても神は何も言い返さない。
随分長い間泣き続け、そして覚悟を決めた男は性悪神に向けて、特典の要求を叫んだ。
「俺が異世界の転生者の品定めをしてやる!!!
ぬるい考えの転生者を現世に送り返してやる!!
俺が異世界転生の門番になってやるんだ!!!!!」
男の名は、阿門 渓。
後に、何人ものチート転生者を現世に強制送還させ、「異世転生者の門番」の肩書きを手にする男だ。