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1-5 疑われた魔石

 日は大きく傾き、その姿を七割がた隠している。

 赤い日差しも弱くなり、やや肌寒い風が吹き始めたころ、タケルたちは町へと戻ってくることができた。


「ああ、やっとたどり着きました……」


 町の門を見て、タケルに背負われているニーナは嬉しそうに声を上げる。


「それはこっちのセリフだっての」

「ぜぇ……ぜぇ…………ろいやるな、私に……こんな! …………荷物持ちを! ……させるなんて!!」

「リュネ様、申し訳ありません……」


 村からの帰り道、ニーナは結局回復することはなく、むしろ胃の中を全て吐き出してしまったことによる空腹で歩くのもおぼつかない状態になってしまったのだ。

 そこでタケルがニーナを背負い、タケルの持っていた魔石の袋をリュネが持つことになったのである。

 計百五十七個もの魔石が詰まった袋は、相応の重さがある。そんなものを町まで運んできたリュネの体力もほぼ底を尽きかけていた。

 そんな奇妙な三人組であっても、ハンターズギルドの会員であれば門の通行量は無料だ。

 リュネとニーナの分だけ通行料を支払い、兵士たちに怪訝な顔をされながらも町の中へと入ったタケルたちは、公園のベンチへと腰かけた。


「タケル、あなた先にギルドに行って、魔石を換金して来なさい。私たちはしばらく休んでるから」

「おねがいしますぅ」


 むしろ飯間の状態のまま町中を連れまわしても邪魔だけである。


「ま、仕方ねぇな。お前らもギルドには来るのか? それとも換金出来たらここに戻ってくればいいか?」

「戻ってきてもらえるかしら? 動ける気がしないわ……」

「あいよ」


 タケルはリュネの足元に放り出してあった魔石の袋を持ち上げ肩に担ぐ。

 二人と別れその足でギルドの扉を潜ると、昼に来た時よりも人の数は増えていた。

 遠くに依頼を受けに行っていた中級以上のハンターたちが戻ってきているのだ。

 彼らは魔石の換金や依頼の達成を報告し、それに見合った金額を手にする。それを手に、今から町へと繰り出すのだが、やはりゴブリンの大量発生が響いているのか、聞こえてくる会話はあまり羽振りの良いものではない。

 タケルはそんなハンターたちの間を通り抜け受付へと顔を出す。だいぶ時間も立っているし、別の受付嬢かと思ったが、そこにいたのは昼と同じミリエラだった。

 ミリエラはタケルの顔を見ると、目を輝かせる。


「あ、お戻りになられたんですね! 状況はどうでしたか?」

「とりあえず廃村のゴブリンは全滅させてきたぞ。周辺の奴らがまた来るかもしれないから、人を送るなら今日明日中にな」


 その証拠を突き付けるように、タケルは魔石の入った袋をドサッと受付の上に乗せる。

 その口が少しだけ開き、そこからジャラジャラと魔石が零れ出る。


「こ、こんなに!?」

「百五十七匹だ。打ち漏らしはないはずだぜ」

「ま、待ってください! これはゴブリンの魔石ではないはずです! ゴブリンの魔石は親指の先に乗るほどのサイズのはず!」

「ああ、変異種だったからな」

「んんん?!?!?!?」


 状況が全く飲み込めないミリエラは、ひたすら頭にびっくりとはてなのマークを往復させ、唸っている。

 そんなミリエラの様子に、ギルドにいた他のハンターたちも注目し始めた。

 そしてその中の一人がタケルの肩を叩く。


「おい、どうしたんだ?」


 タケルが振り返ると、目の前に鎧の胸板があった。

 視線を上へと向けることで、ようやくその人物の顔が見える。五十を超えているだろうか、やや老けた印象の男だ。だが、シゲト(祖父)と同じように、そこに衰えた印象はない。

 ひと目で実力者と分かる風格だ。


「あ、ビオネスさん。ちょっと頭の処理が追い付かない事象が発生していまして」

「ミリエラちゃんが理解できないってのは珍しいな。そんな面白いことかよ」


 ビオネスは受付の中をのぞき込み、そこにある魔石を見て目を細めた。


「なるほど。ゴブリン退治にはそぐわない魔石だな。坊主、この魔石どこで手に入れた?」

「ゴブリン狩りだよ。村のゴブリン掃除の依頼を受けたから、やってきたんだ。話聞いてたんなら分かんだろ」

「いやいや、この魔石の大きさは明らかにゴブリンじゃねぇ。そこらへんのガキでもゴブリンの魔石のサイズは知ってることだぞ」

「んなこと言ったってな。実際に俺がゴブリンを狩ればコイツが出てくる。それは変わらねぇ事実だ。ああ、そう言えば連れがべリオルゴブリンだっつってたな」

「べリオル!? 上位種じゃないですか!」


 ミリエラはその名を聞いて驚きの声を上げるが、ビオネスはニヤニヤと笑みを浮かべながら、タケルの肩に腕を回す。

 タケルは鬱陶しそうに眉をしかめた。


「んな嘘、少し調べりゃすぐに分かるんだぞ? 悪いことは言わねぇから、さっさと白状しちまえよ。この魔石、どこから奪ってきた?」

「いい加減うぜぇぞ、おっさん」


 こちらの意見を全く信じる気のないビオネスの様子に、タケルは次第に苛立ちを募らせる。

 そしてビオネスの腕を振り払うと、正面から向き合って睨みつけた。


「調べたきゃ好きに調べろ。ゴブリンの死体はまだいくらでも村に残ってんだ」

「んで、調べてる間に逃げるつもりか? 見たところここら辺の衣装じゃねぇ。どうせいろんな所流れながら、そんな詐欺をやりまくってんだろ。たまにお前みたいなのがいるんだよ」

「んな金あるか。こちとら今稼げなきゃ晩飯もねぇんだぞ。そもそもおっさんには関係ない話だろうが。いちいち首突っ込んでくんな鬱陶しい。ミリエラ、さっさと換金してくれ。こっちは連れが待ってんだ」

「おいおい、ギルドの評判にも関わる話だぜ。ベテランが首突っ込むのは当たり前だろ」

「だったらそのベテランさんがさっさと調べて来いよ。ベテランさんの足なら四半刻もかかんねぇだろ」

「いいぜ、俺が調べてきてやるよ。ミリエラちゃん、その魔石の買い取りはそれからだ。いいな」

「わ、分かりました」

「おい、お前らでコイツ見張ってろ」


 ビオネスがギルドの待合席に向かって声を掛ける。そこには男二人と女一人の三人組が座っていた。

 男一人は軽装で腰に二振りの剣があることから二刀流と分かる。もう一人の男はタワーシールドが横に置いてあり、見るからに盾役だろう。紅一点女性は装備などを着けておらず、宝石の付いた杖を持っていた。

 彼らはあきれた様子でビオネスの言葉に頷き、席を立ってタケルたちの元へとやってくる。


「こいつらは俺のチームメンバーだ。実力もある。逃げられると思うなよ」

「おっさんこそ覚悟しろよ。こっちは無駄な難癖付けられて迷惑してんだ。代償はたっぷり払ってもらうからな」

「ハッ、事実ならな」


 そう言い残し、ビオネスはギルドを駆けだしていく。

 残ったのは気まずい雰囲気だけだ。その中でビオネスのチームメイトの一人が口を開く。


「とりあえずここにいても邪魔になるし、あっちに移動しましょ」

「あ、ならその前に俺の連れを呼んできてもらっていいか? 近くの公園にいる二人組の女子なんだが」

「ああ、そんなことも言ってたわね。ならジーノ、お願いしていいかしら?」


 女性が盾持ちの男に頼むと、男は一つ頷いてギルドから出て行こうとする。

 その背中にタケルは慌てて声を掛けた。


「二人の名前はリュネとニーナだ。疑い深い連中だから、ギルドカードとか見せてやってくれ」


 それに手だけで返事をしたジーノは、一言もしゃべることなくギルドを後にした。


「ごめんなさいね。あの人、凄い無口で。けど気は効くから大丈夫だと思うわ」

「そうか。こっちも悪いな。いきなり頼み事しちまって」

「ビオネスが首を突っ込んだのが原因だもの。気にしないで」

「それもそうか。ミリエラ、魔石はそっちで預かっててもらっていいか?」

「あ、はい。分かりました。お預かりしておきます」


 ミリエラがコクコクと頷くのを見て、タケルたちは先ほど座っていた席へと戻る。

 そこに腰かけると、女性が改めて切り出した。


「さて、ただ黙って待つのも暇だし、とりあえず自己紹介でもしましょうか。私はセリュール。魔術師よ」

「俺はウェルド。双剣士をしている」

「それでさっき出て行ったのがジーノ。私たちの盾役ね。それにビオネスを合わせた四人でチームウェットビーストを名乗っているわ」

「俺はスオウタケル。剣士をしている。連れは来たら紹介するわ」

「ありがと。それにしても普通に受け答えしてもらえてちょっと以外だったわ。ビオネスと正面から喧嘩してるから、もっと気勢の荒い子だと思ってた」


 相手はベテランの風格を備えたハンターだ。そんな相手に正面から啖呵を切れるのはなかなかいない。よほど威勢のいい新人か、身の程の弁えないバカである。

 だがタケルも潜ってきた修羅場の数が違う。たとえ相手が魔物だったとはいえ、その威圧感はビオネスとは比べ物にならないほどの脅威と殺し合ってきた。ましてや今回は、自分の主張が全て正しいのだ。ビオネス相手に動揺する理由は無かった。


「あれはビオネスが悪い。あんな鬱陶しい絡まれ方をすれば、誰だって苛立つだろう」

「まあそれもそうね。タケル君ごめんなさい。ビオネスに変わって謝罪するわ」


 ウェルドの言葉にセリュールは一つうなずき、タケルに向かって深々と頭を下げる。


「良いのか? まだ俺が正しいって判断したわけじゃないんだろ」

「その落ち着き用を見ればわかるわよ。これでも私たちベテランだしね。嘘を言う新人なんて沢山見てきているもの」

「なるほどな。謝罪は受け入れる。けどあのおっさんへの要求は変えるつもりはないぞ」

「無理なことじゃなければ大抵は大丈夫だと思うわよ。私たちもなんだかんだベテランだからね。お金もあるし」

「ベテランって今このギルドじゃ珍しいんだよな? あんたらは移動しないのか?」


 ここのギルドの周辺ではゴブリン以外を狩ることができないはずである。にもかかわらず未だ残っているチームにタケルは興味がわいた。


「確かに周辺じゃ狩れないけど、簡単に持ち家の移動はできないしね。別に必ず一日で帰ってこないといけないわけでもないから、少し遠出すれば大丈夫なのよ」


 今回も、チームウェットビーストは片道二日かけて山奥まで向かい、そこで相応に強力な魔物を狩ってきていた。その魔物の中には、タケルがなかなか強かったと覚えている魔物の名もある。

 それの換金を終えたところにタケルがギルドへと入ってきていたのだ。


「へぇ、遠出もありなのか。そう言やここ周辺だと本来はどんな魔物がいるんだ?」

「本来ならラット種やウルフ種、ボア種やウッズ系なんかもいるわよ。珍しいところだとラット種のカーバンクルかしらね。まあ、今は全部ゴブリンに変わっちゃってるけど」


 そんな話をしながらしばらく待つと、ジーノが戻ってきた。腰をやや屈めてギルドの扉を潜る。

 その肩には、なぜかリュネとニーナが行儀よくとは言い難いが座っていた。


「タケル! あんた何面倒なことに巻き込まれてるのよ!」

「いきなり大きな人に声を掛けられて凄くびっくりしました!」

「すまん……」

「あ、いえ、ジーノさんのせいではないんですよ。たとえ女性であってもびっくりしたと思いますし」


 流れ弾にジーノが地味に傷つき、ニーナがそれを必死に慰める。ここに来るまでにもすでに何度かあったのだろうことが用意に想像できる光景だ。

 その間にもリュネが肩からスタッと飛び降り、タケルの元へと駆け寄ってくる。そして勢いよく腹部へと拳を振るった。


「いったーい!」


 当然悲鳴を上げるのはリュネの方だ。

 たとえ神威を使っていなくとも、しっかりと鍛えられているタケルの腹筋は力を入れるだけで、少女の拳には十分な硬さとなる。


「俺のせいじゃねぇよ」

「いいえ、絶対タケルのせいよ! あなたちゃんと魔石のこととか説明したの!?」

「ゴブリンの変異種だってことはちゃんと言ったぞ。聞き入れてもらえなかったけどな」

「ぬぅ、確かにあれは一度見ないと信じられないかもしれないけど……」

「それよりも、いきなり人を殴るのは良くないなぁ」


 タケルはゆっくりと右手をリュネのおでこへと持って行った。

 何をされるのかに気付き、リュネの表情が引き攣る。咄嗟に逃げようとするが、その頭部を左手で固定させられた。


「ろ、ロイヤルな私の顔に傷がついたらどうするつもり?」

「女の子はちょっと朱が差してる方が可愛いと思うぞ」

「それ頬よね!? 絶対おでこじゃないわよね!」


 無慈悲に放たれるデコピンによって、ギルドに二回目の悲鳴が上がるのだった。

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