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1-12 神威・纏わせ

タイトルを少しだけ変更しました

 いつの間にか夜明けを迎え、明るくなった空には分厚い雲が広がり、ゴロゴロと雷が鳴りだす。

 飛び立つことができた四羽のゲイル・イーターは、仲間を殺されたことへの怒りか、それとも新たな餌が現れたことへの喜びか、上空を旋回しながらキエーッと独特な鳴き声を上げている。

 そんな様子に、タケルを追っていたはずの兵士たちは足を止めていた。


「な、なんだあれは」

「魔物なのか!? あんなの見たことが無いぞ!」

「ハンターはなんであんなのを放っておいたんだ!」


 兵士たちの敵はあくまでも人。特に、特務隊へと選抜される様な人員は、魔物はハンターたちが倒すものだと内心で見下す傾向がある。

 それは同時に魔物を軽んじることでもあった。

 ゲイル・イーターのようなレイド級であれば、一般の兵士も徴兵されることがあるため知っていることもあるのだが、エリートであることが仇となったようだ。

 立ち止まっている彼らは、ゲイル・イーターからすればいい得物だったのだろう。

 兵士たちの回りに突然竜巻が起こり、兵士たちを上空へと巻き上げていく。

 何かに捕まることができず、空へと昇った兵士たちが、なすすべもなくゲイル・イーターたちによって捕食されていく。

 血の雨というのはこのことを言うのだろう。そんな光景が曇天の空に広がっていた。

 運良く何かに捕まることで何を逃れた兵士たちは、その光景に腰を抜かしている。それでも空へと手をかざし、魔法を放つことができたのはエリート故の意地だろうか。

 火球が、氷の槍が、風の刃が空へと向かい、ゲイル・イーターの巻き起こす風によって粉砕されてしまう。

 レイド級の前には、個人の力など無意味だった。

 そして無慈悲に二度目の竜巻が発生する。腰を抜かしていた兵士たちはそれに抗うことができず空へと巻き上げられていく。

 そんな中に一人だけ、自ら竜巻の中へと飛び込んだ者がいた。


「わざわざ近づいてくれるなんて優しいねぇ!」


 上手くバランスを取りながら竜巻を利用して空へと昇ったタケルは、目の前に迫る嘴目掛けて刀を振るう。

 嘴が割れ、その痛みにゲイル・イーターはタケルの横を通り過ぎた。その羽毛へとしがみ付き背中へと昇る。


「んじゃ、仲間の場所まで案内よろしく」

「ケェェエエエエ!!!!」


 背中へと取り付いた異物を振り払おうと、ゲイル・イーターが縦横無茶苦茶に飛び回る。タケルは振り落とされまいと、その羽毛を神威によって強化された握力でがっちりと掴んでいた。

 さらに刀を背中へと突き立て、支えの代わりとする。


「そら、仲間の方行けって!」


 ゲイル・イーターが仲間から離れるように飛ぶと、タケルは刺した刀を捩じる。

 そうやってゲイル・イーターの方向を調整し、一気に仲間の元へと突っ込ませた。


「お前らのお食事の時間は終わりだ! こっからは俺の飯の時間だよ!」


 刺していた刀を引き抜き、背中を駆けて首元へと向かう。そして一刀のもとに斬り飛ばす。

 頭を失った肉体は急激に失速しその巨体を地面へと落下させ始めた。

 同時にタケルは死体を蹴って飛び上がり、交差する別のゲイル・イーターへと飛び移る。


「今度はお前――チッ、面倒なことするな」


 掴んでいた羽毛を手放し、タケルは宙へと逃げる。直後、ゲイル・イーターの体を強烈な突風が包み込み、球体のように空中へと停止してしまった。

 それは残りの二体も同様で、三体のゲイル・イーターが空中に留まり繭のような塊を形成している。

 タケルはいったん地面へと着地し、リュネ達の様子を確認した。


「お前ら、大丈夫か」

「正直生きてる心地がしないわ!」

「何時飛ばされないかとハラハラしてます! さっき体が浮きました!」

「ゲイル・イーターはどうなったの!?」

「二羽殺した時点で変異を始めやがった」

「至れり尽くせりね!」

「ありがたいことにな! 風が強くなる。お前らも気を付けろよ!」

「はい!」

「さっさと倒してきちゃいなさい!」

「雇い主様のお願いとあちゃ、断れねぇなあ!」


 見上げた空、そこにある三つの繭が弾け、そこから変異したゲイル・イーターたちが現れた。

 肉体は一回りほど小さくなっている。それでも翼幅は二十メートルを超えているだろう。柔らかかった羽毛は見た目からして鋭く変化し、インコのような印象の顔も、鷹のような猛禽類のそれに変化している。

 見た目からして、なかなか厄介そうな相手だ。

 タケルは舌舐めずりをすると、自らの居場所を占めるようにそのうちの一体に向けてカマイタチを放つ。

 カマイタチは当然変異体の体に触れることなく消滅してしまう。しかし、しっかりとその存在は誇示できた。

 三体の視線がタケルへと向けられる。

 直後、森の中を突風が駆け抜け、タケルの体がふわりと巻き上げられる。それは竜巻のような強引なものではなく、タケル個人を狙った明確な魔法だった。

 タケルはゆっくりと宙へと持ち上げられながらも、精神を統一させ自らの神威と向き合う。


「流石にあんな相手じゃこっちも手加減してる場合じゃあ無いわな」


 循環を速めていく神威が、許容量を超え染み出すようにタケルの回りへと溢れ始める。

 それは山吹色の光となってタケルの全身を包み込み始めた。

 それと合わせるように、タケルの瞳にも山吹色の光が宿る。


「君臨せし威を世に示せ。神威・纏わせ」


 タケルの放つ言霊と共に、タケルの周囲を漂って光がまるでベールのようにタケルへと纏わり、その存在を固定化させる。

 そしてタケルが左手を変異種の一体へと伸ばした。


「そこは届く」


 タケルの言葉は言霊となり、神威がその威を示す。

 遥か彼方にいるはずの変異種は、神威の光によって掴まれていた。


「捕まえたぞ、クソ鳥!」


 支点のない空中、にもかかわらずタケルは宙を踏みしめるように蹴った。

 地を蹴るよりも早く空を駆けたタケルは、そのまま掴んでいた変異種目掛けて刀を振り下ろした。

 一刀両断。そう言うのが正しいだろう。

 真っ二つに裂けた変異種が、血を零しながら地面へと落下していく。

 残りの二体が大きく羽ばたきその姿を消す。

 だが先ほどとは違う。タケルにはしっかりと二羽の動きが見えていた。


「なるほど、音速で動いていたわけか。さしずめソニック・イーターってところか」


 一体は背後へと、そしてもう一体はタケルに背を向けて逃げていく。向かう先にあるのは町だ。

 町に向かわれれば確実に被害が出る。だが、後ろの敵を放置もできない。


「逃げられる――間に合うか!?」


 振り向きざまに刀を振るうが、それはすれすれで躱された。逆に、羽の刃がタケルの頬を切り裂く。


「チッ」


 タケルは小さく舌打ちをすると、音速よりも早く飛び回るソニック・イーターに向けて手を伸ばす。


「捉え――られる!」


 グッと手を閉じる。同時に、ソニック・イーターが何かに捕まれたようにその場でもがきだす。

 その力は強く、タケルの閉じた腕が徐々に開いていく。

 神威の威は物理現象を超越する。だが万能ではない。タケルの認識という限界がある。

 城のような大きさの鳥を、その片腕で押さえ込めるという認識は、自身の中の常識とぶつかり合い徐々に歪んでいく。その歪みが綻びとなり、神威の威の支配から抜け出せてしまうのだ。

 だが、今のタケルには数秒あれば十分であった。


「ゼァァアアア!!!!」


 踏み込みからの一刀。その刃がソニック・イーターを両断した。

 落下していくソニック・イーターに見向きもせず、タケルの視線は逃げたもう一体を探す。

 その姿は遥か遠くにあった。


「この距離はさすがに無理だな」


 ゴマ粒ほどの大きさとなってしまったソニック・イーターに対して、神威の威を発動することはできない。

 威の効力があるのは、あくまでもタケルの纏う神威が届く範囲だけだ。

 このまま追うこともできる。だがそれでは、リュネ達を森の中に置き去りにすることになる。

 ゲイル・イーターたちがゴブリンを捕食していたとはいえ、それで全滅したわけではない。まだ森の中には多くのゴブリンが隠れ潜んでいるだろう。

 そんな中に戦う力のない二人を置いていけばどうなるか。火を見るよりも明らかだ。


「町の防衛設備に期待だな」


 ソニック・イーターは音速で飛べるとはいえ、常に飛んでいられるわけではないはずである。獲物の捕食、旋回、標的の目視など、必ず速度を緩めるタイミングがある。そこを上手くつくことが出来れば、退治は出来ずとも時間を稼ぐことはできるはず。

 そう考え、タケルは一度リュネ達と合流することにした。

 地面へと近づいていくと、リュネ達が恐る恐るといった様子で茂みの中から這い出して来る。


「あ、あの、タケル……さま?」

「あん? いきなりなんだ」


 リュネからの突然の様づけ呼びに鳥肌が立ったのを感じた。

 ニーナに至ってはタケルの前へと出てきてからそのまま土下座の態勢で固まってしまっている。


「タケルさま……から凄くひれ伏さないといけないオーラが……出ているのですが」

「ん? ああ、神威か。悪い悪い」


 リュネの言葉によってその理由がやっと分かる。

 神威は神の持つ魔力だ。そんなものを全身から纏っていれば、普通の人から見れば相手が神のような存在となってもおかしくはない。むしろ、ニーナのように土下座で固まるのが当たり前であり、むしろ頭を下げずに跪くだけで耐えたリュネの方がおかしいのだ。

 タケルが纏わせていた神威を体内へと戻すと、リュネがホッとしたように息を吐く。そしてニーナも恐る恐るといった様子で顔を上げた。


「た、タケルさん、です、よね?」

「おうよ、ニーナの体予約済みのタケルさんだぞ」

「嫌ですけど良かったぁ……なんだか別人というか、恐れ多い存在に変わっちゃったような気がして」

「ま、神威の特徴だからな」


 ただ島にいるときは、誰も彼も神威を宿しているため、纏わせを使ってもそこまで過剰な反応が返ってくることはないのだ。そのせいで、リュネに言われるまで気付かなかった。


「退治出来たの?」

「一匹逃した。町に向かったから、急いで追うぞ」

「分かったわ。ニーナ、あなたは背中よ! そして私はお姫様抱っこ!」

「はいはい」


 言われるままにニーナを背負い、リュネを抱いてタケルは町に向かって駆け出すのだった。


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