第32話:撃退
ここで皆さんに問いたい
動物園以外でトラに遭遇したことがあるだろうか?
クマに助けられたことは?
じゃあクマにお姫様抱っこされたことは?
経験のある奴は今すぐ俺の前に出て来い!俺はどうすれば良いのか是非とも聞かせてくれ
で、今現在。クマの腕の中で俺は立ち上がろうとしているトラを見ているわけだが
今のところクマの方は俺を食う気は無いらしい。まあ、トラから食料を先取りされないために俺を助けた可能性もあるが
とりあえず、目の前のトラだ。なんとか倒さなければならない。
完全に立ち上がられて臨戦態勢をとられたら終わりだ
ナイフは鞘の中、そしてクマに持ち上げられた時に落としてしまって道に転がってる。
そして必然的に使えるものは決まってくる、魔法だ。
トラが完全に立ち上がる前に仕留める
姿勢を安定させるために左手でクマの首に手をかけて体を支える。そして右手の手のひらをトラに向ける。
やはり俺の知ってる攻撃形の魔法は一つだった
『fire arrow』
放たれたのは棒状の炎
ちゃんと足につけた奴隷の腕輪が魔法を制限してくれているようだ。
ウェスタが放った魔法と同じだ
飛んでいった炎の矢はトラの額に命中してトラが呻き声を上げ倒れる。
はずだった。
しかし、トラがいとも簡単に避ける。
「トラって真横に飛べるのかよ・・・」
そして、そんな呟きを言ってる間にもこっちにトラが走ってくる。
しかも早い
ゆっくりと後ずさるクマ、同時にクマの腕の中で暴れる俺。
トラとの距離約2メートル
そのとき目の前で小さな何かが横切るのが見えた。
「え?」
俺の驚きの小さな声が漏れる
人だ。
そこには俺が落としたナイフを構えトラに立ち向かう少女が居た。
いつナイフを拾った?
いつの間に目の前に?
あたりには誰も居なかったはずなのに?
いや、そんなことよりトラだ。危険だ。こんな状況で割ってはいるなんて自殺行為だ。
クマにお姫様抱っこされている俺と全力疾走してきたトラの間に入った少女は俺のナイフを逆手に持ってトラの頭を狙って突き出した
トラはというと予想外の出来事に勢いを止めれずにナイフに向かって飛んでいる。
そして・・・
ゴツッ
コンクリートに大きな石を投げつけたような音がした。
当たったのはナイフの柄の後ろの部分とトラの眉間だった。
呆然と見つめるクマ、そのクマの腕の中でいまだにお姫様抱っこをされている俺、ノビて動かなくなったトラ
そして、俺を不思議そうな顔で見つめる少女だった。
沈黙が数十秒
「や、やぁ。助けてくれてありがとう。」
余りの空気の重たさに俺から声をかけた
あれ? この子、見たことあるぞ
俺がこの世界で知り合った人物はそう多くない、自分の脳内名前辞書をフル稼働して思い出す。
ああ・・思い出した
たしかハーヴェイを助けた時に居た50人の中の一人
その少女は満面の笑みでこう言った。
「ショータお兄ちゃん、大丈夫?」