第28話:苗字
「ウェスタ?聞かない名前だな」
みんな同じ反応だ
やっぱりこの世界はそんなに狭くないよな
「そのウェスタって子がどうしたって?」
「ああ、ウェスタのお兄さんに手紙を届けるように頼まれてるんだ」
できれば渡してから元の世界に返りたいと思う
「そのお兄さんの顔は知ってるのか?」
ハーヴェイが聞いてきた
「いや、知らないな」
たぶんウェスタに似た顔なんだろう
「じゃあ、特徴は?」
「それも知らない」
会ったことも無いのだから仕方ない
「どこに居るかは判るか?」
「ぜんぜん判らない」
判っていたらウェスタは俺なんかに手紙を託さないだろう
「・・・じゃあ名前くらいは知ってるんだろうな?」
「一文字もわからないな」
聞いてないのだから仕方ない
「ショータ、それは諦めろ。無理だ。」
即答だった
「いや、ちょっと待ってくれ。どうしても渡したい手紙なんだよ。何とかならないかな?」
「ウェスタの兄ってだけの情報でそいつを見つけるのは無理だ。不可能だ」
さらに否定された。周りのみんなも相槌を打ってる
これは困った、できれば元の世界に帰る前に渡しておきたい
こんなことになるならもっと詳しく聞いておくべきだった
「ショータさん、ちょっとその手紙を見せてください」
いつのまにか隣に来ていたシルスが言った。
言われたとおりに手紙をシルスに渡してみる
手紙を受け取ったシルスは手紙の裏や表を慎重に見ていた
ふと何かに気づいたように顔を上げると
「これなら探せるかもしれませんよ」
意外なことを言われた
「本当か!?、どうやって探すんだ」
「ここに名前が書いてるでしょう」
シルスが差し出した手紙を見てみると裏面の端に小さく名前が書いてあった。
”ウェスタ・タイトクレイシアより”
「でも、これはウェスタの名前だろう?」
「ウェスタさんの名前がウェスタ・タイトクレイシアなら兄の名前は○○・タイトクレイシアになるはずです。タイトクレイシアなんて珍しい名前ですから、それを手がかりに探せばいいと思いますよ」
さすがシルス、本当に賢いんだなぁ
タイトクレイシアは苗字みたいなものなんだな
「あ、ありがとう!。これなら見つかりそうな気がするよ」
まあ、この世界で名前だけを頼りに一人の人を探すのは相当大変だろうが、少しは探しやすくなった
手紙をまたローブのポケットにしまいこむ
さて、飯も食ったし。手紙のことも聞いた。そろそろ次の町へ出発するかな・・・