第24話:種明
自分の腕から外れない腕輪に驚いて目を丸くするヘンリーロット
「外れませんね、隊長」
腕輪を外そうとしたウルスが言う
「そんなはずが・・・」
驚いた顔で腕輪を見つめる隊長
ついでに言うとハーヴェイ達も腕輪を見て驚いている
「これで、俺が国王じゃないことが証明された。その腕輪が本物ということは俺の地位は騎士の隊長の地位より低いことになる」
「いえ、きっと腕輪をすり替えたんです。私の見てない一瞬の隙に」
「すり替える隙なんて無かった、それはあんたが一番よくわかってるだろう。
俺が自分の腕に腕輪をつけてからは一度も腕輪に触れてない。すり替えなんて不可能だ。」
これは本当だ、すり替えなんてしてない。この人数が居る中で気づかれずにすり替えなんて不可能だ
「だから何度も言ってるだろう、俺は国王なんかじゃない。ただの一般市民だ」
「それならあのマジックボールはなんです!」
「買ったんだ、こう見えても俺は金持ちなんだ」
もちろん嘘だ
「なら、市場で感じた魔力は!」
「人違いだろう、あれだけたくさんの人が居たんだ。間違えても仕方が無い」
これまた嘘だ
「ならどうして逃げたんですか・・・」
「追いかけれると逃げたくなる質で」
少し本当だ
「じゃあ、本当にあなたは国王じゃないのですか?」
「ああ、俺は国王じゃない」
静かに言った
小さいため息の後、ビシッっと背筋を伸ばして
「申し訳ありませんでした!こちらの不手際で危うく守るべき一般市民に危害を加えるところでした。しかもこれでは誘拐未遂。本当にすみませんでした」
そういうと綺麗なお辞儀をした。続いて騎士達もお辞儀をする
「いやいや、誰にでも間違えはあるし。あんたらはそれが仕事なんだ。謝ることは無いさ」
なんだか心が痛い
「そう言って頂けると助かります。」
「なあ、もしかしたらまだ市場に居るかもしれないぞ。それか宿屋にでも居るんじゃないか」
「あ・・・はい、ウルス!市場と宿屋の捜索だ。」
そう言って走り出す。あれだけの甲冑を着てるのによく走れるな
あっという間に見えなくなった
なんというか騎士って忙しそうだなぁ
「なあ、ショータ。ショータって国王じゃなかったのか?」
後ろからの声に振り向くとハーヴェイが不思議そうな顔で見ていた
「いや、俺は国王だよ。それに間違いは無い」
「それならどうして、奴隷の腕輪がヘンリーロットに外せたんだよ」
「それなら簡単さ、そのとき俺は国王じゃなかった。」
「何、言ってるんだよ。意味が分からねぇよ」
不思議そうに首をかしげるて言う
「僕は分かりましたよ、奴隷の腕輪を使ったんですよね。」
ハーヴェイの横に居たシルスが答える
さすがに頭が良いといわれるだけあるな、簡単にバレちまった
「じゃあ、種明かしをするぞ」
そういいながら自分の着ているローブの裾を持ち上げて左足を見せた
左足首には奴隷の腕輪が着けてあった
「奴隷の腕輪をもうひとつ使ったんだよ」
「奴隷の腕輪をもうひとつ?」
「俺が最初に唸ってしゃがんだ時があっただろう、その時に思いついたんだ」
「最初に奴隷の腕輪を自分の左足に着けると俺の地位は国王から”奴隷”になる。
そして、その状態で俺がもうひとつの腕輪を自分の腕に着けると、”奴隷”が自分の腕に腕輪を着けたことになるだろう。
だから、さっき俺の腕についていた腕輪は奴隷以外なら誰でも外せる状態にあったわけだ」
「ああ!、なるほど。だからさっきの隊長でも外すことができたわけだな」
種が分かれば簡単だ
「最初はキャンセレーションで壊れた腕輪を使おうと思ったんだが、さすがにばれると思ってやめた」
「でも奴隷の腕輪なんてどこから手に入れたんだ?」
「最初にしゃがんだとき目の前に奴隷の腕輪がひとつ落ちてたからそれを使ったんだ、
もうひとつの方は市場に居る最後の一人、事情だけ説明して合流してから腕輪を外した、確か名前が・・・カルマだったかな?
そいつの腕輪を外した時、その腕輪をローブのポケットの中に入れてたんだ。まさか役に立つとは思いもよらなかったけどな」
「なるほど、それで騙せたのか。」
「実は結構危なかったんだけどな」
「おい、でも相手は感知型の魔法使いだったはずだ。何故ばれなかったんだ?最初の腕輪をつけてる時に魔力が封じられるはずだから怪しまれるんじゃないか?」
おお、冴えてるな
確かに怪しまれる可能性もあった
「ここからは俺の推測だが・・・なあセラナ、今の俺の魔力ってどのくらいだ?」
「え、えーと、普通の魔法使いくらい・・・かな」
いきなり呼ばれて少し焦ってる
いや、俺ってそんなに怖いのか・・・。少しへこむなぁ
「たぶん、この腕輪じゃあ俺の魔力は完全に封じれないみたいだ。だから漏れ出した分が普通の魔術師くらいの魔力で腕輪を2つ着けると完全に封じれた、それなら感知されても怪しまれることは無い。
もしも怪しまれても適当にごまかすつもりだったけどな」
「まあ、奴隷の腕輪は普通の市民を奴隷にするために作っられたものだからな、国王程の魔力を封じる力は無かったんだろうな」
ハーヴェイが納得したようにうなずく
「さて、とりあえず宿屋に行くか。今日は動きすぎた。ハーヴェイの居た宿屋って50人くらいなら大丈夫だよな?」
「ああ、100人は入れるはずだぜ」
「よし、行くか!」
さあ、宿屋の親父の驚く顔が楽しみだ