第16話:密談
「私はここで待ってるから勝手に見て来い、地下の空気は吐き気がする」
そういいながら地下につながる階段の前でゴードンが立ち止まる
「いいんですか?1人で入っても」
いくらなんでも無用心すぎやしないか
「かまわん、好きなだけ見ろ。そんなみすぼらしい格好のお前が貴族なんてことは万に一つも無いからな。ハッハハハハ」
たしかにみすぼらしい格好かもしれない、ウェスタにもらったローブはいろいろあってボロボロだし、泥がついてるし、白い生地だったのに若干灰色になってる気もする
まあ、目の前のテカテカしてるゴードンとどちらが地位が高いか100人に聞けば全員ゴードンと答えるだろうな
まさに雲泥の差だ
しかし、これは好都合だ。目を盗んでコソコソしなくて済む
「はあ、それでは見させてもらいます」
階段を10段ほど下りて扉を開けた。ちょっとやそっとじゃ壊れないような頑丈な鉄の扉だ。
中は薄暗くてよく見えない
数歩前に進むと何かが額に当たった、目を凝らしてみると天井からマジックボールが垂れ下がってる
たぶん電球の代わりなんだろうな
『light』
マジックボールにつぶやくとポッっと光って、部屋が少しだけ明るくなった。
石で出来た壁に垂れ下がってるマジックボールが一つ
そして、壁に鎖でつながれてる少年や少女
怯える女の子や睨んで威嚇する少年・・・
なんで大人は居ないんだろうな、これで50人全員にあったわけだが1人も大人は居なかった。
みんな売られたりしたとか事情があるんだよなぁ
数えると11人、居る。十分想定内だ
近くの少女に近づいて壁と鎖で繋がってる首輪を見る
「これも、ハーヴェイが着けてた腕輪と同じか・・・何とかなりそうだな」
「おい!セラナに手を出したらただじゃおかねぇぞ!奴隷が必要なんだろ!!なら俺を使えよ」
ああ、奴隷を借りに来た商人に見えるよなぁ
「いや、俺は奴隷を借りに来たんじゃない」
「じゃあ、何でここにいるんだよ」
「お前らを助けに来た、とりあえず最後まで聞いてくれ。ここにマジックボールが10個ある」
そういいながらローブのポケットからマジックボールを取り出す
「このマジックボールには強力なキャンセレーションの魔法が込めてある、これでその首輪と腕輪を外せるはずだ。これを今から渡す。それを5時の鐘の音と同時に使って自由になるんだ。外に居る約40人の仲間はもう解放しているからゴードンの奴隷は全員解放される。解放されたら町の入り口で集合だ。何故助けようとしてるのかは後で説明する。」
ふぅ、早口でしゃべった割には噛まなかった。
「お前、何言ってんだ?いきなり助けるとか言って」
ハーヴェイにも同じようなことを言われた気がするなぁ
まあ、いきなり汚いローブかぶった青年にそんな事をいわれても信じられないよな
「とにかくマジックボールを渡して置くから、キャンセレーションのマジックボールが6個、ライトのマジックボールが2個、ファイアーアローのマジックボールが2個だ」
「このマジックボール・・・本当に・・・」
「今は時間が無いから5時の鐘で使って脱出するんだぞ、キャンセレーションのマジックボールは1つで2回は使えるはずだ、ライトのマジックボールは目くらまし程度には使えると思う。そしてファイアーアローのマジックボールは人に向けて使わないこと!ゴードンの屋敷を出てしまえばもう自由だ。外の40人にも5時に腕輪を外して町の入り口で落ち合うように言ってるから」
そういいながら近くの男の子にマジックボールを手渡す。たぶんこの世界でもっとも強力なマジックボールだろう。
ハーヴェイが言うには俺の魔法は強力すぎてマジックボールに魔法は詰め込めても何十回も使えるようなマジックボールは作れないらしい。強力過ぎてマジックボールが持たないそうだ。
もう少し魔法を調節できたらいいんだけどなぁ
「あ・・・ああ」
未だに信じれないような顔でこちらを見上げる
「大丈夫、必ず助かるよ。じゃあ、俺は行くからちゃんと逃げるんだぞ」
そう言って地下から急いで出る。
奴隷を確認するだけなのに時間をかけてたらさすがにゴードンも怪しむだろう
地下のドアを閉めてゴードンに言う
「なかなか良い奴が居るじゃないですか、元気で、仲間を思ってて、奴隷にしとくのはもったいないと思いませんか?」
「何を言う、薄汚い奴隷に・・・。吐き気がするわ」
額にしわを寄せて睨んでくる
「そうですか・・・、もうすぐ彼らの元気さに驚きますよ」
「そうだな、元気に働いてもらわないとな。なにせ金貨10枚の仕事なんだろう。」
ニヤニヤ顔で言ってくる
ショータもニヤニヤ顔で頷く。
2人の笑顔の理由は違うものだった。
1人は予想外の金貨2枚の収入に・・・
1人は50人の人生を救えることに・・・