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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

木こりは泥にまみれた手斧に臥す。

作者: ケボ氏

私は山の奥に住んでいる木こりだ。

木こりといっても、樹木で生計を立てているわけではない。

私は何か気晴らしに、と気軽に買った宝くじがなんと1等だったのだ。

それをぽろっとSNSでいってしまったのが私の運の尽きだ。

巨額の富を手に入れた私に待ち受けていたのは、欲望という泥沼だった。

今まで私になんの関心もなかった家族、親戚諸々が一斉に私に押しかけてきたのだ。

金は見るのも嫌になった。金は恐ろしい、人を狂わせる。

金を置き、半ば俗世から逃れるようにあてもなく山奥で修行の真似事をしていたら古びた山小屋にたどり着いた。

そこから、そこを拠点として勝手に住まわせてもらっていただけだ。


いつもの通りに、生活に必要な分の木材を調達するために、手斧を持って散歩がてらに良い木を探しに出た。

茂みや木の枝を手持ちのナイフで切ったり、踏み固めながら歩き、手頃な木を見つけると、

私は手斧でカーンッカーンと切りつける。

もう慣れた行為だ。何しろ一月はこうして生活しているのだから。

それが私の油断だった。何事も慣れてきた時が一番危ないというのは耳にタコができるほど聞かされていたが、

まさにそうだった。

私の手から手斧が放たれ、綺麗に回転しながら泥沼へと落ちていった。


「やはり私はどこか爪が甘いなあ……」


昔の自分の失敗に舌打ちしながら泥沼に落ちた手斧を拾いにいく。

すると、なんだか泥沼が黒い煙を放ちながら、中から髭を蓄えたおっさんが出てきた。とても臭い。


「汝が落としたのは、この泥にまみれた手斧だろうか。それとも、この6億だろうか。」


そう言いながらおっさんは手斧と札束を両手に持って話しかけてきた。

もちろん札束は手に乗り切っていない。大体がおっさんの足元の泥沼に落ちている。

僕は冷静な風を装ったが、内心驚愕していた。

6億とは僕が宝くじで当てた金額だ!

こんな童話は見たことがある。

確か、湖に斧を落とした正直者の木こりに、女神が金の斧も銀の斧もくれたが、

嘘つきには何も渡さなかったという童話だ。

僕はもちろん


「手斧を返してください。」


といった。

手斧は生活に必要な者だ!

6億円など、もともと捨てた金だ。僕はすっぱりと札束を切り捨てた。

しかしおっさんは


「正直じゃないやつには罰を〜」


などといって、突然僕を泥のついた手斧で切りつけてきた。

視点がグルンとなってそれで終わり。

僕の人生はそこで途絶えた。




ーーー




彼は欲を捨てきれなかったようだね。

金が嫌だから俗世を離れたなんて嘘っぱちさ。

そもそも、湖の女神の話を知っていれば、ここで手斧を選ぶのは一番の間違いだとわかるはずだ。

だって、手斧を選べば ”札束もついてくる” のだ。

金が本当に嫌なら、手斧など捨てて、諦めて6億円を選択するだろう。

まあ、その場合は欲深き者に死を!とか言いがかりをつけるんだけどね。



あの泥沼は欲そのものだ。

人の心を如実に表した黒くて汚いモノ。

それに触れた時にはもう、手遅れさ。

なんだか慣れない作品を書きました。

湖の女神のお話を知った時に、その人は湖の女神に対して正直者には絶対になれないと思ったことから書き始めました。

いろんな短編を書いていこうと思っているので、お気に入り登録や感想など、形に残ることをしてくれたら嬉しいです。

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