雨が降った
空を飛んでみた翌日。
……まさかの雨だった。
うん。
まぁ、そりゃあね。
雨降るよね、普通。
科学発展してるなら雨とか振らせないことできるんじゃないのとか、思ってみたり。
にしても転生三日目で雨は運が悪すぎやしないだろうか。
そんなものか?
そんなものか。
僕だもんね。
せっかく今日も魔法の練習をしようと思ってたのに。
残念。
その時。
「あれ、アヴリル、何やってるの?」
家の中の魔素が規則的に動き出したのを察した。
「雨が降ってるとね、上空の魔素が降りてきて魔法の練習に適してるの」
へぇ、そうなのか!
でも、なら外に出ないのだろうか。
外のほうが魔素の濃度は高そうだ。
「あぁ、それは雨の中じゃ魔法は効きずらくなるからよ」
ん?
すると……?
魔素の量的に魔法は強くなって。
雨の効果で魔法が弱くなって。
「結局魔法は普通にしか使えないのか」
「そゆこと。なら外にわざわざ出ないで、魔素がいつもより多い自宅で魔素を操る練習をするの。まぁ、雨の中なら魔法を使う感覚が変わるから、イアもいつか雨の中で練習するけど、今は普通に使えるようにならないと」
はい。
そうですね。
じゃあ、僕も魔素を動かす練習をしよう。
「あれ?そういえばイアはどうして私が魔素を操ったってすぐに気付けたの?」
「え?そんなにおかしい事?」
あ、そう言えば魔法の不意打ちに反応できるほど魔素の流れを読み取れる人はなかなかいないんだったか。
でもアヴリルだって魔素の流れを感じて、とか言ってたよな。
「あぁ、それは私だってヘレナだって集中すれば感知できたから、きっとイアも、って思ったからなんだけど」
あ、そうなのか。
あれ?
ヘレナも意識しないと感知できないのか?
魔石があるから分かるって訳じゃないのか。
考えてると、興味津々といった様子でアヴリルが聞いてくる。
「ねぇ、そんなに常に魔素を視てて疲れとか無いの?」
一種達人的な能力なのかもしれない。
それを最初から持っていたなんて都合がいいな。
ラッキーととるか、作為的な何かを感じて不快に思うか……。
まぁ、今はそんなこと考える必要は無い。
必要に迫られた時に考えよう。
今は精一杯利用させてもらう。
「うーん。生まれた時からそうだったからなぁ。なんて言えばいいかな。普通の視界と重なって薄い青の世界が広かっているんだ」
普段はゆっくり揺れるそれが、シャキッとする時。
それが魔素が操られた時の視え方だ。
「じゃあ、ホントに魔素さえ操れれば凄い魔法使いに慣れそうだね」
嬉しそうにアヴリルは言う。
でもどこか悔しそうな顔もしている。
そりゃあドラゴンとは言え、生まれたばっかの奴に自分のできないことを先にされたんだもんな。
普通に魔法が撃てるほうがいいと思うけどな。
魔素だけ見えてもどうしようもないし。
確かに相手の魔法の発動位置やタイミングまで掴めるのは、戦いになった時に便利だ。
本当は平和に生きたいけど、ドラゴンに生まれた以上、きっと争いはあるだろう。
その中で生き残らなきゃいけない。
蛇にも殺されるようじゃ、生きていくのは難しいだろう。
いつか戦争にも使われそうだしな、僕。
その時までになるべく力は付けとかないと。
何にせよ!
早速やってみよう。
魔素を一気にガッと……!
「あぁ、待って待って」
いきなり止めが入った。
なにかダメでしたでしょうか。
「昨日考えてたんだけど、イアは大量の魔素を無理矢理操ろうとするからダメなのかもしれない。今日は少しずつ小さく魔素を操るところからやってみよう」
おぉ、なるほど。
確かに一気に操ったほうがなんか疲労感が強いかも。
「今日は魔法を起動するところまではやらないから、ずっと練習できるはずよ。頑張ってこう!」
「了解です!」
ではでは。
改めまして。
アヴリルは、まず魔素の小さな塊を作って三角形を描くように動かして、と言う。
段階を踏ませていくのな。
少しずつ数と大きさを増やして、動きも複雑に変えていくそうだ。
魔素を固めてっと。
直径十センチに満たないぐらいのを作る。
これを三角形に、ね。
一辺三十センチぐらいに、動かす。
お?
意外といけるか?
「そうそう、そんな感じ。あとはどんどんペースを上げてみよう」
「うっす」
よし、ペース上げてくか。
むむむっ。
っと、あ。
一定のスピードで制御が崩れて塊が解けた。
「んー、惜しいね。無理にペースを上げることより、塊が崩れないようにすることを優先してみて」
やっぱりムズイか。
一回じゃ無理だな。
むーっ。
再開。
今度は解けないように。
慎重に。
確実に行けると思ったら少しずつペースを上げていく。
「そうそう!そんな感じ」
アヴリルもじっと見て応援してくれる。
しかし……。
「も、もうこれ以上早く動かせないんだけど」
想像してもらいたい。
指をクルクル回すのにも限度があるように、これにもこれ以上は疲れなくとも動かせる限界が来た。
「よし、じゃあ、一回止めていいよ」
っと。
「ふぅ。結構しんどいな、これ。精神に来る」
「ははは、そうだよね。でも疲れたぶん身になった気がして、やりがいがあるんだよね」
「それはそうかも」
適度な疲れは心地いいものだ。
きっと走ってるのと同じで、筋肉が付けば早くなるし、放置してれば下手になる。
この訓練は続けることにきっと意味があるはずだ。
「じゃあ、次は二つを同時に動かしてみよう」
「……その前にもう少し休まして」
「ダメ。魔素が尽きる訳じゃないんだから休む時間は勿体ないよ」
うげぇ。
昨日はそんな雰囲気なかったけど、アヴリルはスパルタなのかもしれない。
結局、この日は雨は止まず、ずっとこれをやり続けることになった。
そのおかげで魔素の塊は三個同時に今の最速まで操れるようになった。
しかし、その疲れはとても大きく、その日はぐっすりと寝て。
……雨の日が嫌いになった。