え?無理?マジ?
期待してた魔法の才能ははっきり言って無し、と。
嘘だろ、マジかよ。
異世界転生って言ったら揃いも揃って大体全部魔法で無双だろ?
魔法まともに使えないとか僕すぐ死んじゃうパターンじゃん?
そうかー。
マジかー。
「い、いや、魔法の使い方は練習すればできるようになるから」
「こんな才能ナシな僕でも?」
おいこらアヴリル、そこは目をそらすなって。
「え、えっと!使い方がまだよく分かってないから上手くいかないんだよ、うん」
「じゃあ、どうするの?」
「私がやるから、魔素の流れを感じてみて」
あ、はい。
お手本ですね。
いやいや。
最初からそうしようよ。
背中に背負った杖をアヴリルは取り出す。
両手で持って構える。
「今から使うのは火属性の単体攻撃魔法。さっきと同じ切株を狙うから、よく見ててね」
それからアヴリルは息を吸って。
詠唱する。
「火よ、我が元に」
声とともに魔素が急速に杖に集まる。
杖を通した魔素はその量が倍増し、杖の前方に集まりだす。
「対象に火を与えん」
魔素に火がついた。
半径十五センチメートルほどの火球となる。
「ファイアボール」
魔素が爆ぜたかと思うと勢いよく火球は切株に叩きつけられる!
切株は大きく削られ、残りも灰と化す。
「と、まぁ、こんな感じ」
おおー!
初めてまともな魔法を見た気がする!
燃えたのは切株だけで周りの草にはそんなに飛び火してない。
なるほど、単体攻撃だ。
「先生、質問です」
「なんでしょう」
「詠唱って何のためにするんですか?」
「あぁ、詠唱ね。魔力制御の補助をしてくれるんだよ。魔物は魔石があるから直接魔素を操れるから、本当はいらないんだけど……イアは使ってみてもいいかもね」
「なるほど!やってみる!」
詠唱。
さっきの三言くらいのやつ。
記憶力なんだけど、この竜の頭は良いっぽい。
さっきのアヴリルの詠唱を覚えてる。
「火よ、我が元に」
魔素が体の前に集まる。
先ほどのアヴリルほどは集まってはいないが、前より安定した魔素の塊が出来ている。
「対象に火を与えん」
魔素に火がつく。
これを思いっきりぶっ飛ばす!
「ファイアボール!」
生まれた小さな小さな火の玉は……!
……切株を大きく外れ、空の彼方へ旅をしていった。
……。
がっくり。
「あー、まぁ、まともな魔法にはなってきてるよ、うん」
アヴリルのフォローが入る。
でも本来無詠唱でやれるはずなのを、詠唱という手間を入れ、さらに思いっきり外すって……。
これは致命的ではないだろうか。
「うーん。詠唱に力みすぎてるのかな?詠唱による魔素の集まりが悪いのはドラゴンだからだと思うし……」
詠唱ってやっぱりダメなのか?
ドラゴン、意外と使いずらいな!
いや、そもそも僕が悪いのか……。
「そういえば、アヴリルが魔法を使った時は魔素が増幅してたけど、あれは?」
「あぁ、あれね。あれはこの杖の効果だよ」
そう言われ、杖をまじまじと見る。
杖は長さ130センチメートル程だろうか。
黒い杖を軸に、中心部に赤い魔石、頂点に青い魔石が付いている。
雰囲気はRPGの結構終盤に出てくるようなものだ。
「この杖を持ってると、魔法の威力が二倍になるんだ。この国の中でも結構な部類に入るし、世界的に見ても上位に入る、優秀な杖なんだよ」
そう自慢げにアヴリルは言って。
「お父さんの形見なんだけどね」
寂しそうに付け加えた。
そうか。
でもきっといい父親だったのだろう。
今のアヴリルはとても良く育ってきているのだから。
「よし!じゃあ、再開しよっか」
ん、アヴリルの明るく出した声に僕も乗っかることにしよう。
にしても、そっか。
アヴリルの、レイナー家って優秀な家系って言ってたもんな。
杖も何か曰くとかあったりするのだろうか。
まぁいいや。
さて。
もう一回魔法を!
ってあれ?
魔素が思うように動かない?
「あー、空気中の魔素が無くなったみたいだね」
えー、そうなると魔法使えなくなるのか。
確かに感じる魔素が少ない気がする。
「特にイアは燃費が悪いから練習も大変かもね……」
つくづく不便だなドラゴンって!
いや違うな。
つくづく不便だな、才能ナシって!
いやそりゃそうだわ!
「まさかこんなに早く魔素が無くなるとは思わなかったなぁ。最初からイアがたくさん消費してたからどうかなとは思ってたけど。しばらく魔法の練習はできないけど、どうする?」
うぐっ。
痛いとこを付かれる……。
あ、でも待てよ?
「空を飛べるようになりたい!」
やりたいこと第二位!
やっぱり上からのリーチを生かした一方的な試合とかいいよね!
それにドラゴンと言えば、空の覇者って感じだろ?
「……え、飛べなかったの?」
「えっ」
「えっ?」
あれー?
なんだかものすごく嫌な予感がしてきた……。