詳しく話してみました
「じゃあ、改めて。私はアヴリル・レイナー。よろしくね」
名乗ったのは、僕の隣に座っている女の子。
髪は金に近い茶色。ショートでふわっとした髪型。
顔立ちも整っている部類だ。
というか結構綺麗だ。
かわいい。
身長は150センチほど。
年は……16歳くらいなのかな。
「クレイグ・ノーランだ。この街の長を務めている」
次に名乗ったのは、僕の前に座ってるおっさん。
村長さんね、やっぱり。
緑目黒髪。
異世界らしい外見だ。
なんかかっこいい。
目が鋭く、頭が切れる感じの印象だ。
身長は170センチくらいだろう。
年齢は50代前半か。
「あ、はい。お願いします」
ようやくまともに動かせるようになった口で会話をする。
「えっと……いつから話、分かってたの?」
アヴリルの質問。
まぁ、聞きたくはなるだろう。
「最初から、かな」
素っ気なく答えたその声に、アヴリルはうっとした表情になる。
それに今度は村長が。
「そんなに前から理性があったってことか?いやしかし……言葉はいつ覚えたというのだ?」
うわぁ早速答えずらい質問!
「あ、多分卵のときから話しかけてたからだと思いますけど……」
アヴリルが答えてくれた。
転生がどうのとか言うのもめんどくさいそうだし、このままこの意見に便乗しとこう。
「卵の中にいたことは覚えてないんですけど、多分そうじゃないかな?」
さり気なく卵の時のことを覚えてないってことにして、卵の中で聞いた会話を振られた時の対策もとっておく。
あと敬語も一応知らないってことで。
「ふぅん、そうか」
訝しげに村長は唸り、さらにアヴリルに。
「子供のころから話せるドラゴンの例は初めてじゃないかね?小さい時から理性があったら手懐けるのは難しくならないか?」
「あ、えと……それは……」
「本人に聞いたほうが早いか。なぁ……イアスエル?さっきの話は聞いていたんだよね。アヴリルに、ついていくかい?」
意思確認、ね。
てかまぁ、ここでイェスと答えなきゃ処分決定だろう。
「うん、ついてく」
ホッとアヴリルが息をついて笑う。
「良かった。じゃあ、これからよろしくね」
「よろしく」
軽くお辞儀して返事とする。
「あぁ、あと名前のことなんですけど」
アヴリルが言葉を挟む。
そういや今その話だったな。
「ヘレナが自分は名字が無いって嘆いてたから、何かイアスエルに付けてあげたいんですけど」
名字か。
確かにあったほうが名乗りやすいし、いいかも。
「私のレイナーっていうのをつけるのもなんか変だし、何かありませんか?」
「そうか、名字ね。それなら、ヘレナの名前を名字にしてしまうのは?」
村長の意見に。
「イアスエル・ヘレナ。悪くないんじゃないかね」
「いいと思います!」
アヴリルも賛成のようだ。
「お前はどうだい?」
「えっと、いいと思う」
笑って答える。
ドラゴンの顔で笑えてるかは微妙だが。
村長も、ふ、と息をついた。
「気に入ってもらえて何よりだ」
イアスエル・ヘレナ。
これがこの世界の新しい名前だ。
よし。
うん。
頑張ろう。
「さて。何か聞いておきたいことはあるか?」
村長が口を開く。
聞きたいことを考える。
するとやっぱり……。
「ドラゴンってどんななの?強いの?」
とりあえず、自分の身についてのことだ。
「ドラゴン、ね。まず、生物は植物、動物、魔獣の三つに別れる。その魔獣の分類の一つがドラゴンだ」
ほうほう。
地球と同じく植物と動物の分類はあるのね。
それと魔獣、と。
「魔獣っていうのが他の植物や動物に比べて、元から持つ魔力量の多い生物の総称でね。まぁ体内に魔石っていうのを持っているからなんだが、まぁそれでね。大体の魔獣は理性がなくただ適当に魔法を撃ってくるからそこまでの脅威ではないんだがね。ドラゴンは知性が高く、魔法を使うのが上手いから、人間じゃなかなか倒せないんだ」
なかなか、ね。
全力を出せばヘレナのように殺れる、と。
「そんな訳で物凄くドラゴンってのは強いもんだから竜信仰なんものもある。だがまぁ、今はそれは置いておこう」
そんなに強いのか、竜って。
やっぱり僕無双とかしちゃうのか?
男なら一回はやってみたいもんな。
あと聞くことといったら……
「じゃあ、魔法は?どんなものなんですか?」
気になるものはやっぱこれだろ。
ファンタジーな異世界に来たんだからやりたいよね、魔法。
「あぁ、魔法ね。それならアヴリルのほうが詳しいんじゃないか?」
村長はそう言って目をアヴリルに向ける。
つられて僕もアヴリルのほうを向く。
「あぁ、魔法ですか?」
「実はアヴリルの家は代々魔術師の家系でな、皆魔術師の適性を持っているんだ。しかも村の中でトップってだけじゃなくて、世界的に見てもかなりの家系なんだ」
へぇ、そうなのか。
すごいな、それ。
いやてか、アヴリルって魔法使いだったのか。
銃使ってたけど、魔法使いなのか。
あ、そういや確かに杖も持ってたな。
「えぇと……魔法は空気の中にある魔素か、体の中にある魔素を集めて放出することで行使できるの」
おう。
なんか定番な魔法の使用方法だな。
「この放出の仕方で魔法の属性や威力が決まるの。適性っていうのはこの出せる最大威力の大きさで決まってたりするね」
放出の仕方、ね。
ふむふむ。
「じゃあ、竜な僕は魔法の適性が高かったりする?」
重要なポイントだ。
魔法無双ルートのために!
「まだなんとも。技術があれば魔素が少なくても強い魔法を放てるし、魔力量があってもうまく使えない人もある程度いるんだよね」
そうなのか。
僕はうまく使える方であってほしい。
なんにせよ、頑張って練習しよう。
「後は……まぁ、練習していく時に詳しく、ね」
「他に、何かあるかね?」
再び村長。
他か。
後は、なんだろう。
知らないことが多過ぎて何から聞けばいいのやら。
あ、そういや。
僕って戦力として期待されてるんだっけ。
やっぱそれって戦争とかあるって事だよね。
「えっと、じゃあ、社会情勢ってどうなってるの?」
あ。
いや待てバカバカバカバカ!
さすがに生後一日でこの質問は怪しまれるに決まってんだろ!?
「ははは、まさかそんなことを聞くとはね。賢いなコイツ」
……あれ?
ドラゴンだからってことで受け流してもらえそうだ。
いや、案外村長さん、アホなのかな?
「さて。社会情勢か。これまた難しいな。ふむ」
何から話すか纏めるように村長が考える。
そして。
「この星には大陸は4つ。西のスエルア大陸、中央のダルテア大陸、東南のラグルド大陸、そしてココ、西南のツシャル大陸だ」
大陸は4つか。
地球ほどこの星はひび割れていないんだな。
「勢力は大きく分類して6つ。革命派、保守派、科学派、信仰派、魔法派、自然派だ。ちなみにここの国、マリハース王国は魔法派だ。まぁ、この分類は発展するのにどんな行動をとったか、で分けられてるから、この分類が生まれた当初と雰囲気が大きく変わった国もある」
六大勢力?
あんまよく分かんないけど、冷戦のアメリカ陣営とロシア陣営的な感じかな?
分類ってだけだから国の数は別だろうな?
「300年ほど前に大規模な戦争が多発してな、国はそれまで300ほどあったのが今じゃその10分の1の30だよ。その時からどう発展したかって話だ。同じ派閥では仲がよかったりする」
300が30に!?
どんだけひどい戦争だったんだ……。
その時に転生しなくて良かった。
「ドラゴンはこの信仰派の国に匿われているんだが、ヘレナのように外へ出ていくドラゴンも多いんだ。この信仰派の国民もまためんどくさいやつらばっかりでなぁ……っと。今はそれはいいんだ。そうそう、科学派の連中はドラゴンを毛嫌いしてるから気をつけろよ」
どうやら派閥ごとでいがみ合いとかありそうだ。
革命派と保守派なんて名前からして過去に何かあっただろって感じだし。
今でも戦争は小競り合いが続いているんだそうだ。
「ん、おっと、もうこんな時間か。すまんな、今日はこれぐらいにしてくれ。まだ予定が立て込んでるからな」
「あ、はい。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
二人(一人と一匹)で村長にお礼を言い、部屋を後にする。
「あ、終わった?」
エントランスに入ったところで受付嬢から声がかかった。
「はい、お世話になりました」
アヴリルが答える。
「その子のこと、大事にするんだよ」
「はい、頑張ります」
受付嬢の目は僕をとらえ、そしてその奥の、きっとヘレナの面影に目を細め、手を振った。
この人もきっとヘレナと何かあったのだろう。
ヘレナの偉大さがうかがい知れる。
2人は外へ出て、また街の中を歩く。
外はもう夕方で、夜の帳が降りてきている。
「まさかもう話せるとは思ってなかったよ。言葉教える手間省けて良かったって思ったほうがいいかな」
アヴリルは自分の後ろをチョコチョコと歩きながらついていく僕に声をかける。
「これからどうしたい?」
これからっていうのは今から、では無くきっとこの先、未来のことだろう。
「私、あなたを全力で育てなきゃいけないんだけど」
あぁ、あの僕を処分しないための条件ってやつか。
それならば。
「強くなりたい、かな?とりあえず、魔法、使いたい!」
日本人の憧れを!
無双ルートを!
誰もが夢見る魔法を!
きっと、鏡を見れば僕の瞳はキラキラと輝いていることだろう。
「ふふ、そっか。じゃ、明日から鍛えるから、頑張ろうね」
アヴリルも安心したように笑い、明日のことを思い描いているようだ。
僕もたぶん、しばらく命の危険は無くなったろうなと思い、安心した。
さて。
どんな魔法が使えるのだろうか。
日本の知識を生かして、魔法を誰よりも使えちゃう展開とか期待していいのだろうか。
あぁ、明日が楽しみだ!
と、そこへ。
頭上に影がさした。
なんだ?と思って上を見ると。
何か箱が宙に浮いていて。
頭上を飛び去っていった……。
ポカーンとそれを見送っていると、
「あぁ、あれはバスだよ。隣町に働きに出てた人達が帰ってきたんじゃない?」
アヴリルが言った。
……どうやら科学技術はこの世界のほうが発展しているようだ。
なんだよ、空飛ぶ車って。
そりゃそうか。
魔法があるとはいえ、科学派っていうのが生き残ってるんだから魔法と同等かそれ以上の技術があってもおかしくはないのか。
地球程度の知識でついていけるのだろうか。
僕は不安になった。
少しだけ。
それでも。
地球のはるか先の技術を見れるという興奮が、それ以上に僕に未来の期待を持たせた。
楽しみだ。
多分、この世界はきっと素晴らしいもので溢れている。
戦争だってあるみたいだし、この先僕も駆り出されるんだろうけど、生きてやるよ。
強くなってやる。
そうやって決意を改めながら歩いて、少し。
「ここが私の家よ」
アヴリルが、立ち止まって言う。
一階建ての白い外壁が綺麗な家だった。
「私の両親は少し前の戦争で死んじゃったから、家は気兼ねなく使っていいよ」
そう、寂しげに言った。
いやいや、あれ、えっ?
「えっ?そうなの?」
僕の驚いた反応にふふ、と笑って、
「親がいない同士、一緒に頑張ろう?」
アヴリルは言う。
うわ、すごい。
強いな。
心が。
だって、いや、まだ十代だっていうのに。
こう笑えるようになったのにどれほどの時間が必要だったのかは分からないけど。
すごい。
うん。
頑張ってこの人についていこう。
「お邪魔します」
一応挨拶して家の中へ。
……そして僕はさらにこの世界の凄さを知った。
その日は夕飯を食べ(電子レンジとか普通に使ってた、しかもオートで)、風呂に入り(自動で勝手に良い時間にお風呂が湧いていた)、ベッドに入って(地球のものよりはるかに柔らかかった)寝た。
たったそれだけで、やばい。
……なんだか負けた気分だ。
テレビの上位互換らしき何かや、電話の上位互換らしき何かもあった。
退屈はしなさそうだな、と思いながら、一日歩いた疲れで僕はすぐに寝れた。