ぶっ飛ばせっ!
そこそこハードです。
苦手な人は気をつけてください。
全員が動き出す。
いや、ボスらしいスキンヘッドさんは武器を持っていないからか動く様子はない。
なんか強そうだし、それが唯一の救いか。
『イア、カルムさんは私が相手するから、そっちの剣士と魔法使いをお願い!』
カルム?
あぁ、イケメンか。
『了解』
アヴリルのほうへ飛びかかってきた剣士に割り込み、剣を受ける。
互いに魔素を纏わせているため剣は弾かれる。
後ろの魔法使いも詠唱を始めている。
めんどいから先にそっちを何とかするか。
剣士と打ち合い少し横へ。
刃のリミッター解除。
大きく振り抜く!
「が、ぁぁぁあああ!?」
刃は思い通り魔法使いの杖を持っていた方の腕を落とした。
よし、まずは一人!
不意打ちが決まった!
光剣は刃が伸びることを知らないのか?
「よそ見とは余裕だな、小竜」
あ、まずい、剣士の警戒が疎かになった!
無理矢理体を動かすも。
「っづ、あぁ!」
左肩を抉られた。
大きく振って強引に距離をとる。
左腕が思うように動かない。
バランスとるのも難しい。
痛みに目の先がチカチカする。
焼けるような感覚。
心臓が大きく鳴る。
けど、そんなの気にしてらんねぇ!
剣士が再び切りかかってくる。
それをなんとか受け流し、弾きを繰り返すが防戦一方。
上手く体は動かないし力も入らない。
鱗が何枚も持っていかれる。
『イア、光魔法使うよ!』
ナイスタイミング!
剣を大きく振り少しのスキを作って立ち位置を調整。
一拍。
カッッッ!
強烈な光が部屋を埋め尽くす。
剣士は怯んだ。
目を閉じていた僕でさえ目が痛くなる。
けど、目を閉じてても僕なら相手の位置がわかる。
つまり?
「セァァァアアア!!!」
斬属性中級スキル“豪剣”!
剣士は対応できない。
僕の剣は左脇から右肩の方へ斬り上がり、剣士の命を刈り取る。
……ここに来て、初めての人殺し。
その事実に喉がひりついたけれど。
『っ!?』
アヴリルの小さな悲鳴。
そうだ。
僕はまだ、やらなくちゃ。
パッと振り返れば。
右脇からそこそこの血を流し、なんの対応もできずに相手を見ているアヴリル。
当然、大狼とイケメンは火属性魔法を構築し終わってて。
まずい。
翼で強引に推進力を作り、アヴリルの前へ。
刃のリミッター解除。
同時に刃に魔素を大量に流し込む!
普段より遥かに太い刃、もはやエネルギー砲ともいえるそれを、相手の魔法に叩きつける!
衝撃。
全身が軋んだような音を出した。
はは、やべぇなこれ。
左肩からの出血量が増えた。
うち漏らした炎が全身を掠めていく。
けど。
「ーーーァァァァァアアアアア!!!!!」
“咆哮”!
押し切れ、押し切れよっ!
体内の魔石からも限界を超えて魔素を吐き出させる。
頭の中で色んなアレが警鐘を鳴らす。
でも、そんなの知ったことか!
ぶっ飛ばせっ!
エネルギー砲が、魔法を撃ち抜いた。
それはそのまま直進し、壁に大きな穴を開ける。
でも。
イケメンも大狼も無事。
そのくせ僕は満身創痍、さらには体内の魔素を出し尽くしてしまった。
ガクリと体が崩れる。
光剣からもう刃は伸びない。
まだ起きていられるのはただの意地だ。
火傷の痛みも剣で抉られた痛みも意識のはるか遠く。
真っ白になって、呆然とした頭でも、それでも。
立つ。
魔素が揺れた。
アヴリルと何か繋がる気配。
“念話”だ。
いつの間にか、魔法が切れてたか。
『イア、お願い。最後に少しやるよ』
『……なにを?』
『協力して、極大級魔法を』
……。
真っ白な頭は、思考を放棄した。
極大級魔法なんて使えた試しがないし、そんな技術僕にはないわけだし。
そんなこと、考えていられる思考能力が無かった。
余裕があっても、それしか手がない訳だが。
首肯する。
アヴリルが、魔法の構築を開始。
僕を中心に、大きく魔素が動く。
属性は、風。
僕が一番まともに使えるやつだ。
アヴリルが動かすそれの綻びを、雑念とかそんなものがない僕は的確に補助していく。
操っている範囲は僕の限界まで。
ログハウス内の魔素はもうほとんどない。
双子座の杖の二つの魔石が輝き始める。
イケメンコンビが使おうとした魔法の魔素まで強引に持っていく。
愕然とした表情なんて、目に入らない。
「おいおいマジかよ……?どんだけ広範囲の魔素集めてんだこいつら!?」
「な、んで人の操っている魔素まで盗れるんだ!」
建物の外からもどよめき。
魔石の光はさらに激しく輝いていく。
作っていた魔法も、操ろうとした魔素も、根こそぎ持っていく。
まだまだ制御が粗い分、多くの魔素を必要とする。
他の人になんて、割いてやらない。
介入も、許さない。
魔法が完成する。
「嘘だろ?ミスったな、予想以上かよ、今は拳銃しか持ってねぇ」
風属性極大級魔法“ディバインテンペスト”。
行使。
刹那、僕らを中心に風が吹き荒れる。
それぞれが刃を構成し、手当り次第に物を破壊していく。
何もかもを細切れにしていく。
渦をまく風の刃は竜巻を形成。
全てを巻き上げ、何も残さない。
そんな渦が、計五つ。
だけじゃない。
空からも抵抗を許さないよう突風があらゆるものを押さえつけ、叩き潰していく。
悲鳴も聞こえない。
暴風が音すら刃に変えていく。
周囲一帯を破壊し尽くす。
木も根から浮き上がり粉々になっていく。
ログハウスなんて跡形もなくなった。
遊歩道も、土も、雲も。
魔法が終わっていく。
粉々になった何もかもは遠くへ吹き飛ばされて。
生きた。
僕らは生き残った。
やった。
やった……!
一面の更地の中心で、僕らは、生き残ったのだ!
一面の更地で。
一面の、更地で……?
……あれ。
なんだ。
人がいる。
一人。
黒髪を、ポニーテールにした女の人。
剣を手に持っている。
例の黒コートを着ている。
おかしいな。
まだ。
人がいる。
スキンヘッドさん。
他にも。
何人か。
スキルで。
防いだのか?
できるのか?
そんなこと。
ん。
なんか。
女の人が。
遠くから。
剣を振った。
頭上を。
何かが。
通り過ぎた。
それは。
アヴリルを。
斬り裂いて。
「……ア、ヴリル?」
ドサリと。
アヴリルが。
倒れた。
カランと。
杖が。
落ちた。
ゴフッと。
血を。
吐いた。
「……な、にが」
どうして?
「……い、や、だ」
なんで?
「……アヴリル」
体が。
「アヴリル!」
冷たくなっていくの?
こぼれ落ちる。
血が。
命が。
止まらない。
「……イ、ア」
アヴリルが血を口から漏らしながら、何かを言おうとする。
僕は、ただ呆然とそれを見るしかなくて。
「……強く、なって」
そう言って。
アヴリルから、何かが消えていく。
なにか。
ナニカ。
「……ぁ」
プチン、と。
僕の中で何かが切れたような、あるいは壊れたような音がした。
「は」
振り返る。
人がいる。
十人くらい?
「あぁ」
こいつらが。
アヴリルを?
「ーーー」
思考が止まる。
体ももう動かない。
何もかもを受け付けない。
口が開く。
ただ。
「ーーーーーぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!」
叫んだ。