けしからんのだよ!
さて……。
これは、尾行するしかないよな!
ストーカー?
悪く言えばそうとも言う。
が、カッコよく言えば、尾行である。
そう、悪くない。
僕は悪くないぞ……?
ソファの上でだらけているフリをしながら、パタパタと慌てて準備しているアヴリルを眺める。
どうやら例のイケメンと、どこかへ行くらしいのだ。
許してない!
僕はそんなの許可した覚えはないぞ!
なんてペットな僕が言えるはずもなく。
という訳で尾行。
そう、尾行する!
ストーカーではない!
断じて!
普段よりちょっと髪型が複雑だとか、アクセサリーの数が多いとか、そんなことでイライラなんてしてないのだよ。
「じゃあイア、行ってくるね」
「行ってらっしゃーい」
すぐに靴音、妙にリズミカル。
いつもより勢いよく閉まるドア。
鍵をするのに少し戸惑っている様子。
別に苛立ってなど、いない。
ないったらない!
さて、と。
僕も準備だ。
とは言っても別に服とかいらないし、人より準備は簡単。
準備体操だけだ。
魔素の回転良し。
身体の調子良し。
おっと、そうだ。
あのクソイケメンがアヴリルに手出ししたら即座に斬り捨てるために光剣も持っていこう。
部屋の隅から取り出して手に取り付ける。
一応、刃の確認。
問題なし。
おーけー、行こうか。
窓の鍵をくるっと回し、外へ。
窓を閉めたら風魔法で鍵をする。
良し。
とりあえず屋上行こう。
翼を広げてふわっと上へ。
建物を影に、アヴリルの様子を伺う。
ちょうど今、寮から出たところ。
今のところは順調だ。
夏休みも明けて二ヶ月。
残暑厳しい今日この頃である。
水魔法と氷魔法の初級が問題なく使えるようになり、夏はもう怖くないぜ。
冬?
その頃には火属性もなんとかなってるだろ!
スキルも大分成長したと言っていいだろう。
もうオーガ相手でもバンバン中級スキル使える。
……勝てるとは言ってない。
“咆哮”も試してみたけど、あんまし効果は期待できない。
オーガよりも範囲は狭く、魔法も全然使える。
むしろ僕が空を飛びにくくなるので、正直死にスキルってやつだ。
帝都のほぼ中央から北にかけてに王宮。
それより東に大学とその寮は存在する。
メインストリートはど真ん中から四本、東西南北に伸びている。
それぞれのメインストリートの真ん中にちょっとした広場がある。
待ち合わせによく使われる場所だ。
まぁ多分そこだろうなとは思ったが、案の定アヴリルはそこへ向かっていた。
ちょっと先回りしてみれば、例のイケメンはそこにいた。
ちっ、遅れてくるとかして好感度下げろ。
すぐにアヴリルが広場へ。
イケメンのほうへ駆け寄っていく。
会話の内容はなんとなく察する。
どうせアレだろ?
“ごめん、待った?”
“いや、今来たところだよ”
とかだろ!
一回も言ったことも使えそうな場面もなかったよ!
笑い合うな、照れ合うな!
ちくしょおおおぉぉぉ!!!
……一回落ち着こうか。
はい、えー、二人は現在手を繋いでメインストリートを歩いています。
手を繋いで。
手を繋いで……。
進んでいる方向は街壁のほう。
え?何?
森に行くの?
……ついていくのやめようかなぁ。
んー、でも暇だし。
森浅部なら多分なんとかなる。
というか契約獣連れてない魔法使い二人のほうがやばくない?
大丈夫か、アヴリルは銃も持ってるし。
あ、門から出ていく。
やっぱり森に行くのか。
そもそも森に何しに行くんだ?
あ、そう言えば。
確か森には遊歩道があって、そこは魔獣除けがされてて安全なんだっけ。
そっち行くのか。
……いや、アヴリル杖持ってるな。
とりあえずは遊歩道の方向っぽいけど。
護身のだめかな?
まぁいいや、僕は気付かれないように気をつけよう。
ホントに危なくなったら助けに行くってことで。
……これ助けに入ったらアヴリルになんて言わるかな?
すとーか、いや尾行してたのバレるだろ?
うむ、まぁそんなこと起こるわけないし大丈夫だろ。
普通に、尾けてるのが気取られなければ。
お、遊歩道入ってった。
オーガ戦でそこそこトラウマなんだけどこの森。
アヴリル平気そうだな。
図太いのか、いや、オーガと面と向かって戦ったの僕だもんな。
そんな気にしないか、普通。
さて。
森に入るのどうしよう?
契約者の近くに行くと分かっちゃうんだよな。
けど森は視界悪いし、あっちが立ち止まってるのに気付かないで出会す可能性もある。
上空から眺めるのが無難だけど、それだと目立つんだよな。
森の中から頑張って様子を伺うか……。
あ!
そうだ!
こんな時こそアレが使える。
前に森に来た時に妖狐さんに教わったヤツ。
魔素を感じる、視る技術。
練習がてらやってみるか。
僕は妖狐や猫みたいにほいほい使えないので意識しながら。
まずは目を閉じて。
青の世界を感じる。
ふぅ、と息を吐いて。
あれから何度か練習している成果もあって、とりま彼我の間の木々が立ち並んでいる様子が分かる。
目をつぶっていても、視界を潰されていても分かるというのは便利だ。
次は、意識を遠くへ。
木々の開けた先、遊歩道。
そこを歩く二人分の人影。
見つけた!
……間違ってないよね?
他に人は見てないし、何度か練習に付き合ってもらったアヴリルの魔素の気配と一致してる。
よし、とゆっくり目を開く。
集中しないとあっさり見えなくなるけど、これで遠くから気付かれずに二人の様子が分かる。
我ながらすとーか、いや尾行スキル高すぎて震える。
一定距離を保ちながら観察。
うん、森の影に入った途端、人目を気にせずくっついてる気がするのは気のせいかな?
気のせいじゃないかそうかそうか……。
落ち着け……落ち着け、僕。
心を無にしろ。
今ここで出ていったら僕の好感度が下がるだけだ。
イケメンに復讐するのは明日以降、な?
それから僕は二人の様子を伺い、遊歩道の経路を確認しにちょっと飛んだり、色々あって集中を切らし視直したり。
順調に時間を過ごした。
順調……?
いや、イケメン殺すべし計画の思考が捗ってますねぇ。
心模様は荒れまくってるわ。
ん?
遊歩道の先にちょっとした建物がある。
休憩所的なアレかな。
二人も入るっぽい。
中には……そこそこ人がいる感じ?
遊歩道、あんなに人いないのに休憩所にはまあまあいるのか。
……あれ。
魔獣がいる。
魔獣っつーか……あ?
イケメンの契約獣じゃんか。
なんでこんなとこに……?
なんか、嫌な予感がする。
どうしよう、と迷っているうちに二人は中へ入っていく。
そして、銃声が、響いた。
アヴリルの銃だった。