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ドラゴンだって弱いんです  作者: 留坂豪
マイマザー 後編
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きみは、えらいね

 


 寮の窓を開け、そこから外へ。


 ベランダのあるとこではない。

 すっと飛び降り、翼を広げた。


 風魔法との併用で身体が宙に浮く。


 飛ぶのにも慣れたものだ。

 今ではほとんど思うがままに飛べる。

 強風のときはまだ不安だけど。


 夜。


 人はもう皆寝ている時間だ。

 普段なら僕も寝ているんだけど。

 なんだか妙に寝つけなくて、こっそり夜のお散歩的な。


 住んでいるところは二階。

 とりあえずはもっと上へ飛んでいく。


 夜風が心地よい。

 昼間もこんなに涼しければいいのに。


 衛星が綺麗に見える。

 異世界らしく、二つ。

 月みたいに片面だけしか見せないこともなく、また、夜の間にも出たり入ったりを繰り返す。


 なんだっけ?

 共月と双月だったか。

 どっちがどっちかは知らん。


 歪な楕円形。

 それがちょっと残念だけど、二つ並んでいるのが見えると幻想的だ。


 ちなみに片方は結構この星に近いらしく、北極とか南極辺りだと見えないらしい。


 どっちだったか忘れたけど。


 まぁいいや。


 結構高くまで飛んだ。


 下を向けば、大学と寮が並んでいるのが見える。


 広いなぁ。

 魔法学部とかがある分、日本っつーか地球のよりも広いんじゃないか?

 比べらんないから分かんないけど。


 夏休みも明けて一ヶ月。

 つまり、妖狐さんに魔法を教わり始めて一ヶ月。


 それぞれの属性の特徴とか教えてもらったり、コツを教えてもらったりで少しずつ進歩している。

 まだ初級魔法全部使えるようにはなってないけどね。

 水魔法と氷魔法はそろそろいけそうだ。

 夏の暑さを凌ぐのに使いまくったおかげだ。


 スキルもまぁ……順調ってことで。

 でも中級もそろそろ大丈夫じゃないかな。

 冬に入る前には上級の練習を開始できそうだ。


 さて、どっちの方に飛ぶかな。


 西を見れば大学、その周りに街。

 東を見れば森、外壁の先のその森は前に訪れた場所だ。


 帝都だっていうのに、魔物のいる森の近くにあるの謎だよな。

 まぁそんな強くないらしいし、大丈夫なんだろうけど。

 でも奥に行けばあのオーガみたいなのがゴロゴロいるんだろ?

 妖狐さん曰くオーガは森の中層くらいのレベルらしいし、てことはもっと上もいるわけだ。


 脅威度とかなんとか言ってたよな。

 オーガはBだっけ。

 じゃあ深層にはAとかいるんだろうな。


 ……。


 怖いもの見たさという言葉があるそうだ。


 ちょっと、軽く様子を見るくらいなら大丈夫だろ?

 中層に行くか行かないかくらいのとこで止まるから、ね?


 方向を決めて、加速。

 景色が流れていく。

 原付バイクくらいの速さ。

 もっと速くしたいけど、ちょっと怖いのでこれくらいにしてる。


 割と近いな、森。

 外壁はすぐに越えてしまった。

 外壁と森の間は少し草原が広がっている。


 と、森入口上空に到着。

 魔物って夜のほうが活発なのかな?

 そういうイメージだけど……見た感じいなさそう?

 そもそもどんな食物連鎖なんだろうな、ここ。


 入口を飛び越え、森の真上へ。


 と、あっ、やべ。


 強風。

 ミスった!


 森に向かって真っ逆さまに落ちていく。


 ちっ、気を抜いてたな。


 あれ待て、落ちたらやばくね?

 今一人だし……。


 でも今、体勢立て直すのは無理だ。

 一回着地しないと。


 木に激突しないように。


 よっ、と。


 ……やべ。

 夜の森、怖い。


 真っ暗。

 そして風に揺れる葉の音が心をざわつかせる。


 さっさと出ていこう。

 やっぱり来るんじゃなかった!


 翼を広げ、飛ぼうとしてふと気付く。


 ここ、オーガと戦ったところだ。


 うん、さっさと出ていこう!


 と、そこで……なにかの気配。

 魔石は感じられない。

 動物だ。


 びびって振り返って見てみれば……。


 人だ。


 良かった、とはならない。

 むしろ、最悪だ。


 森の中、魔物の溢れる中でドラゴンに会ったらどうだろう?


 当然、敵だ。

 飼い主がいないのだ、契約獣だとわかるわけが無い。


 なんなら空を飛んでも魔法を当てられる。

 夜の森にいるようなやつが、それくらいできないわけが無い。


 ……理屈をこねるのはやめよう。


 何が最悪って……心が、悲鳴を上げているのだ。


 怖い。

 目の前にいる人間が。


 本能が、全力でやばいと叫んでいる。


 足が震える。

 動けない。


 そいつが歩いてくる。


 月明かりで、顔が見えた。

 どこかで見たことがあるような、でも思い出せない。


 誰?


 こんなこと、前にもあったような……?


 現実逃避しかけた頭を無理矢理正す。


 逃げなきゃ。

 でも、どうやって?


 怖い。

 どうしようもなく怖い。


 汗が流れる。

 全身が警鐘を鳴らす。


 思考がまとまらない。


 恐怖に、足が動かない僕の前に。


 そいつは立って。


 言う。


「きみは、えらいね」


 ーーーーー。


 脳が、活動を、停止した。


 それから、ようやくさっきまで脳が訴えていた逃げろという信号を、身体が受け取った。


 翼を振るう。

 風を起こして浮き上がる。


 とにかく、遠くへ、高くへ!


 全速力。


 なりふり構っていられない。


「ーーーっ!」


 なんだ。

 なんなんだ?


 えらい?

 何が?


 僕の、どこが?


 怖い。

 なんだよ?


 あいつはなんだ?


 どうしてその言葉が、怖い?


 何がいけない?

 どうして怖い思いをしなきゃいけない?


 嫌だ。

 逃げろ。


 怖い。


 えらいって、なんだ?


 偉い?

 どこが?


 何が怖いんだ。

 意味が分からない。


 そして気付く。


 さっきから一定の距離を保ったまま、気配が付いてきていることに。


「ーーーーぁぁぁあああ!!!」


 更にスピードを上げる。


 でも、離れない。


 嘘だ。


 なんで。


 怖い。


 嫌だ。


 二つの月に向かって飛んでいく。


 すぐに雲に到達。

 気配は離れない。


 雲を抜ける。

 気配は離れない。


 強風を突き抜ける。

 気配は離れない。


 酸素が薄くなっていく。

 気配は離れない。


 赤茶けた星を背に。


 飛べ。


 逃げろ。


 もっと先へ。


 上へ。


 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!


「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ーーーぁ」


 湿った、柔らかい感触。


 窓越しの、月明かり。


 自室、というか居間。

 普段寝ているソファの上。


 夢。


 今のは、夢……か。


 詰めていた息を吐き出す。


 荒い呼吸が収まらない。


 夢……。


 どんな内容だったか、忘れたけど。

 悪夢だった。


 何が怖かったのかも、分からないけど。


 汗が身体に絡みつく。


 ホッとしたのか、すぐにまた睡魔が襲ってくる。


 落ちていく思考の中で、そう言えば前にもこんな夢見たな、と思い出した。




 翌日には、忘れていた。



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