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ドラゴンだって弱いんです  作者: 留坂豪
マイマザー 後編
39/72

オーガを殺しました



 そのオーガは、家族の中では一番弱かった。


 とは言っても、その家族自体レベルが高く、ついでに言うならオーガと言うだけでも強い。


 けれど、家族の中で一番弱い。

 その事実が彼を苦しめていた。


 そのせいか、彼は周りに当たるようになった。

 当然、オーガの群れの中で彼は少しずつ孤立していった。


 もちろん、他のオーガに勝つことで自信は少しはついた。

 けれど、油断させないようにと必要以上に親がボコボコにした。


 そんな重圧に、いつまでも耐えられるわけもなかった。


 彼は群れを抜け出した。


 親も荒れた彼を育てるのも諦めたらしく、当然散々迷惑かけられた群れのオーガたちは止めるわけもなく。


 彼は自尊心を満たすため、魔物の弱いほうへ弱いほうへと向かっていった。


 結果たどり着いたのが森の浅部。

 いるのはゴブリンなど、雑魚、雑魚、雑魚。


 彼は自尊心を満たし、気ままに日々を過ごした。


 そんな暮らしも安定して一年が立つ頃。


 最初に感じたのは違和感だ。


 ゴブリンたちが妙にあちこちで騒いでいる。

 なにか別の獣の群れが森へ立ち入ったようだ。


 そして、固まった気配を感じた。


 五体……いや六体。

 ゴブリンより魔素を持つ魔獣が三体、動物が三体。

 そいつらはまっすぐこちらに向かっている。


 適当にこちらへ向かってきたのか、それとも自分より早くこちらを見つけられたのか。


 ……前者だな、ここに自分よりも強いやつなんかいない。

 ならばたまたま何かの群れがこちらへ来ているのだろう。


 愚か者め、殺して食ってやる。


 彼は駆け出す。


 ゴブリンよりも魔素を持つのなら、その魔石もいいものに違いない。

 自分はまだまだ強くなれると思うと、心が沸き立つ。


 元々の本能に加え、産まれてからの環境がその心情を激化させる。


 あちらの動きが止まった。

 どうやら気づかれたみたいだ。


 ゴブリンよりも勘がいいな。


 チリっと首筋がはねた感覚。

 オーガの本能が、危険を訴える。


 何か魔法が来ることを察したのだ。


 すぐさまそばの木に足をかけ跳躍。

 後ろ目で見れば舞った木の葉が綺麗に切断されていた。


 魔法使い……それもそこそこの腕。


 しかし今のは連発できるものではない。


 着地したら再び突進。


 姿を捉えると同時、殴りかかる。


 が、見えない壁に阻まれた。


 殴っても殴っても変化がない。

 魔法か。


 敵は白いゴブリンのような動物が三体、あとは猫とトカゲと尻尾の多い狐。


 妙な群れだ。


 何より、自分を前に慌てる様子を見せていないのがいるのが苛立つ。


 また首筋がはねた感覚。

 今度の魔法はスキルで相殺。


 このままではいつか疲弊するだろう。

 ならば。


「オォォォァァァアアアアア!!!!!」


 体内の魔素で周りを叩く。


 これで魔法は使えなくなる。

 透明な壁も消えた。


 慌ててトカゲが前に出てきた。


 軽く捻り潰すか、と思ったがトカゲの手から光が伸びた。

 しかも、やたらエネルギーを感じる。


 不用意に近づくのは危険かもしれない。


 が、このままではまたいつか魔法が飛んでくるだろう。

 トカゲも大した力を持っていないようだ。

 攻め時。


 トカゲに殴りかかる。

 が、躱された。


 そのまま光を腕に当ててくる。


 っ!?


 熱い!


 腕に火傷ができた。


 が、振り抜いた体勢のトカゲは隙だらけ。


 そのまま左腕で殺す!


 が、手応えは無かった。


 見れば少し離れたところに移動していた。


 ありえない動きだ。

 スキルか?

 いや魔法を使ったのか。


 腕に傷をつけたことといい、“咆哮”したのに魔法を使ってくるといい、彼のプライドは傷つけられた。


 あのトカゲだけは絶対に殺す!


 彼は久々の全力を出す。

 魔石から魔素をどんどん取り出し、体全体へ行き渡らせる。


 どうやらあちらも同じようにしているが、大した魔素の量じゃない。


 と、そこへ魔法が飛んでくる。

 弱体化……だが、これも大したことじゃない。

 差は歴然だ。


 あのトカゲの目も彼を苛立たせる。


 先程まで慌てて必死だったくせに、今はこちらを傲慢にも殺してやるという目だ。


 愚か者め。


 足に力を入れ、一気に飛び出す!


 トカゲがすっと横にずれた。

 動きを見切られたか!


 狙いは……魔石?


 体が今までで一番の警鐘を鳴らす。


 強引に体を捻じ曲げ、光から身を引いて……。


 避けられなかった。


 右腕が、飛んだ。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


 トカゲだ、トカゲがやったのか!


 さっきよりも魔素をこめたというのか!


 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!


 魔法の気配。


 邪魔はさせない。


「オオオォォォァァァアアアアア!!!!!」


 残りの五体の慌てる気配。


 勝ちだ。


 全員殺す。


 まずは貴様だ、トカゲ!


 反動で動けないトカゲをぶち殺……。


 力を入れていた左半身が、唐突に軽くなった。


 バランスを失い、後に倒れ込む。


 貯めていた魔素が抜けていく。


 ……何、が?


 ドサッと、後にモノの落ちた気配。


 自分の左腕だった。


 いつの間にか、彼とトカゲの間に白いゴブリンが立っていた。


 手に、トカゲの持っている光に似た鋼を持っていた。


 アレだ。

 アレが自分の左腕を斬ったのだ。


 許さない。

 お前も……殺す!


 右腕も左腕も斬られ、逆にバランスの良くなった身体を持ち上げ、足に魔素をこめる。


 立ち上がって、突進を……。


 目の前に、トカゲ。


 振りかぶられた、光。


 もう何も、できなかった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 気分は最悪だ。


 全ての生き物にその一生はある。


 それを踏みにじったんだと見せつけるかのような、魔石破壊に伴う現象。


 妖狐なんかは経験値と呼び、美味しいとかなんとか言っているけど、僕には不快な感情しかあとに残さない。


 何がひどいって、魔獣が強くなるにはこれが一番効率いいことだ。


 “咆哮”が使えるようになった。

 打属性スキルが使いやすくなった。


 オーガの力を譲り受けて。

 いや、奪い取って。


 オーガだってゴブリンを殺し回ったようだし、僕らを殺そうとしたんだし、こうなって当然なのかもしれない。


 けれど、それは。


 僕には、不快だ。


 でも、この先やらなくちゃ行けない場面はどんどん増えていくだろう。


 せめて、この感覚に慣れて命を軽んじることがないようにしよう。




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