強い!やばい!怖い!
「……オーガ」
「なかなかの大物だな」
のんきだなくそ、やべぇよ嫌な予感しかしねぇよ!
「慌てるな、オーガの危険度はせいぜいBといったところ。対して六尾の妖狐はAだ」
危険度?
何それかっこいい。
しかも妖狐さんなんか強そう。
いや待て。
「危険度って何です?」
「……そこからか。危険度というのは冒険者ギルドが決めた魔獣の強さの指標だ。ちなみにドラゴンはSである」
マジで!?
僕ってば実は超強い?
「阿呆。もちろん個体差はある。貴様は……そうだな、良くてEと言ったところではないか?」
ですよねー!
と、オーガを見てみると。
確かに空間魔法“空間断絶”を使えば怖くないかも……?
「なんだよ、余裕じゃん」
「ただし……」
オーガが殴り続けるのを止め、大きく息を吸い……。
「オォォォァァァアアアアア!!!!!」
「……っ!?」
オーガが吼えた。
それは周囲の魔素を乱し、魔法を霧散させ……。
僕らは絶賛無防備である。
「……なんすか、今の」
「ふむ、やはりか」
一人で納得すんなよ!
なんかほんと嫌な予感しかしねぇよ、危険度的に余裕なんじゃなかったのか?
「もちろん、危険度は人間にとっての指標。当然魔獣毎に相性というものは存在する」
……何その言い方。
やばそうな雰囲気感じるんだが。
「あれは“咆哮”ってやつだ。体内の魔素を周囲に派手にかまして、体外の魔素を乱す技術。いわゆる魔術師殺しってやつだな」
あっはい。
……マジ?
すっと自分のパーティーを見渡す。
アヴリル、賢者(魔術師)。
妖狐、魔王(魔術師)。
その契約者、魔法使い(魔術師)。
猫、賢者(魔術師)。
その契約者、魔法使い(魔術師)。
……僕、剣士(魔術師でない)。
なんだこのくそバランス悪いパーティー!
オーガが襲いかかってきた!
応じるように僕が前へ。
光剣の刃を伸ばし、牽制。
刃のエネルギーを感じるのだろう、オーガもこちらをうかがう様子だ。
「イア、少し時間を稼いで!助けを呼ぶから!」
「……善処します」
いいよね、善処って言葉。
ちなみに実は生物を剣で斬るの初めてなんだ。
いやいやそれは今はいい。
心臓の音がうるさい。
けど、落ち着け、現実逃避するな。
シンシアさんに習ったことを思い出せ。
まず気にするべきは間合い。
あちらのほうが体が大きく一見有利そうだけど、こちらには武器がある。
よって五分。
……いいのかな、こんな考えで。
次は目線。
素人と理性の乏しい魔獣は、目を追えば狙う位置が分かる。
そんなに目線なんて追えないけどな!
そして……来る!
大地を踏みしめオーガが振り上げるのは右手、打ち下ろし。
落ち着け、右手で来るなら僕は左へ飛べ!
ギリギリでそれを避け、今度はこちらから!
斬属性極初級スキル“一閃”!
「ーーっ!」
光剣は狙い通りオーガの右腕手首に刃を入れ。
表面を撫でた。
……あれ?
今まで切れなかったものは無かったのに!?
オーガの手首には、火傷のあとが付いただけだ。
あ、やばい。
オーガが体を捻り、左腕を……。
そう言えば、ドラゴンの骨ってスカスカなんだっけ。
オーガの左腕には中級レベルの魔素が集まっているのが見える。
振り切った体勢のままの僕は、かわせない。
直撃する。
直撃したら、僕は。
僕は……。
パッと、乱れていた周囲の魔素が黒く染まった。
はっと気づけばオーガから二メートル離れた位置に僕はいた。
オーガの左腕は、大きく空ぶった。
「……はっ、はっ、はぁ……はぁ……」
あ、っぶな!
死ぬとこだった!
「イア、大丈夫!?」
「……まぁ、なんとか」
今のは……“転移”か?
使ったのは、妖狐か。
「ありがと、助かった。っていうか、魔法使えないんじゃなかったの?」
「使えないわけではない。ただ、発動まで時間はかかるわ効果は弱くなるわ、と言ったところだ」
なるほど。
「気を抜くな、まだ終わってない」
そうだ。
オーガは腕に傷をつけた僕をロックオンしてる。
他の五人に狙いが向かってないだけまだいいか、でも正直辛い。
落ち着け、落ち着け。
いい加減、決心しろ。
僕はオーガを……殺す。
いや、殺さなきゃいけない。
さもなくば、僕だけじゃない、後ろの五人まで死ぬ。
それは、ダメだ。
殺すなら、魔石。
この距離なら僕でも分かる。
右胸下部に、魔石がある。
そこを狙え。
やれ。
やるんだ。
オーガが全身に魔素を纏い始めた。
特に下半身。
突進系か。
ならばこちらも、と魔素を体全体に。
あちらは超大級レベル、こちらは初級程度。
やばい、と思ったところで、魔法が飛ぶ。
妖狐はオーガへ、堕天魔法“筋力低下”。
猫は僕へ、覚醒魔法“筋力上昇”。
アヴリルは僕へ、時間魔法“加速”。
さらに僕は光剣の刃のリミッターを解除。
大丈夫だ、やれる。
一拍。
オーガが動き出した。
突進系は案外対処は単純。
魔素は体を通常ありえない動きをさせる。
つまり突進系スキルを使う場合、目とかは自分の動きにも追いつけない。
そして直進しかできない。
ならば。
なんとか反応できた、迫り来る拳をすっと避け、剣を。
相手の勢いも利用して。
斬属性中級スキル“豪剣”!
安定して使えるのは初級レベルまで?
大して成功したことがない?
上手くいくかわからない?
知ったことか。
限界を……超えろ!
「らぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
ドッと、確かな手応え。
切り飛ばしたのは。
……肩口から、右腕。
ギリギリでかわされた……!
貯めていた魔素を使い切ったこちらに対して、あちらはまだ高速機動中。
さらに。
「オオオォォォァァァアアアアア!!!!!」
再びの“咆哮”。
備えていた魔法がすべて消し飛ぶ。
……あ。
死ぬのか、僕はここで。
くそ、最悪だ。
こんなところで?
……嫌だ、死にたくない。
決めたはずだ。
僕は、生きるって……!
スキルの反動で動けない僕に、容赦なくオーガは拳を振り上げ。
……その左腕が、切り飛ばされた。
……え?
バランスを失い、倒れるオーガ。
そして。
「及第点ですね、イアスエル」
「シンシア、さん」
いつの間にか、僕とオーガの間にシンシアさんが立っていた。
今、何が?
スキル、か?
全く見えなかった。
さすが先生。
「トドメを刺しなさい」
「……僕がですか?」
「いいから早く!」
「は、はい!」
再び僕がオーガの前へ。
両腕を失いながらも足に魔素を回し、まだ攻撃しようとしてくるオーガに。
「ーーっ!」
斬属性初級スキル“閃剣”!
肋骨の隙間を狙って。
パキン、と魔石の砕ける音。
オーガは力を失い、倒れた。
「うっ、ぷ、くっ」
同時にオーガの記憶が流れてくる。
慣れやしない、不快な感覚。
でも、この場はなんとかなった。
僕は、生きている。
「お疲れ様でした、イアスエル」
「……ありがとう、ございました……!」
緊張が解けて、どっと疲れが体にくる。
なんとかプライドが支えて倒れ込みはしないが。
「イア!良かった……!」
アヴリルが寄って、抱きしめてくれる。
ほっと、なんか安心できる。
本当に、何とかなって良かった。
「ふん、情けないやつめ」
「……妖狐さん、今回大したことしてないじゃないですか」
「ほう、そうか。あの時の“転移”はいらなかったか」
「すいませんありがとうございました」
にしても終始余裕そうだったのがイラつく!
「別に魔法が使えない訳では無いし、避けられないレベルの魔法を使えば殺せないわけではなかった。ただ、貴様がすぐに前に出たせいでな」
なんだよ僕は頑張んなくてもよかったのかよ!
先に言え!
「まぁ此度の成長でさらに貴様が美味くなるならそれも良しと見てみたが、なかなかどうしてこれがいい」
こいつひどい。
「それで、レイナーさん」
「なんでしょう、先生」
あ、アヴリル立ち上がっちゃった。
温もりが逃げてく……。
物欲しそうな目に気づいたのか、アヴリルが頭を撫でてくれる。
優しい……。
妖狐も見習え。
「ノルマは、三匹ですね?終わっていますか?」
「はい。あ、えと……このオーガを含めていいのでしたら」
「なら、良いでしょう。トドメはイアスエルでしたので」
うん?
僕にトドメを刺させたのってそれが理由?
そんなことですか。
僕、前から生物を殺したくないと訴えてたのに。
「では帰還ですね。気を付けて戻ってください」
お?
終わり?
帰り?
やった、やっと帰れる……!
良かったぁ、なんとかなった……。
しばらく何もしないでゴロゴロしたい……。