これは来たかもしれない
「スキル?」
なんですかそれ?
「えぇ、スキルです。ドラゴンは魔法のイメージはたしかに強い。しかし体内の魔素の量も多いのでいっそスキルを使わせるのがいいでしょう」
「そうなんですか?」
「志望先が軍だからこその提案ですが」
あの……話が読めないんですが?
「スキルってなんです?」
「……そこからですか」
「すいません、スキルは私もあまり使えなくて」
「そうですか、では」
教授がすっと手を挙げて大亀に合図。
すると大亀は欠伸しながら魔法を行使。
黒い魔素……空間魔法“扉”。
離れた空間と空間を繋ぐ超級魔法。
あの大亀やべぇな。
空間に裂け目のようなものが生まれ、その先には一つの部屋が広がっていた。
おそらくはキャンパス内のどこかだろう。
「少しここで待っていてくれ」
そう言って教授は中へ入っていく。
そしてすぐに一本の棒を持って出てきた。
なんだあれ。
スイッチがついているあたりただの棒じゃないんだろうな。
「それは光剣……ですよね?」
「その通りだ」
光剣?
何そのかっこいい響き!
「子竜はよく分かってなさそうだな。これは体内の魔素を刃とする剣だ。このように、な」
そう言って棒を握り、親指あたりにあるスイッチを押すと。
ブンッと音を立てて刃が飛び出る。
まんまライトセ〇バーじゃないですか。
「魔素を意識的に多く流せば刃が伸びたりする。普通の剣よりも切れ味ははるかにいいが」
プッと唐突に刃が消えた。
「人の体内の魔素なぞたかが知れてる」
なるほど、燃費が悪いのね。
「市販品は人でも長く使える代わりに剣と切れ味はほぼ同じ。ただ魔素を食う分欠陥品とも言える。が、まぁその話はいいとして。そこで魔獣に持たせてみようと思って作ったのがこの光剣だ。つまり本来の切れ味が出せる」
「それを、僕に?」
「そういうことだ。剣が人を救うことなんてないから軍志望の奴にしか渡せんし、軍志望のくせに魔法の使えないやつと契約する酔狂なんぞこれまでいないのでな」
皮肉ですか。
それともストレートな悪口ですか。
「それで、スキルの説明か。残念ながら私も専門ではないのでな。簡単な説明になるが」
そう前置きして教授は説明を始める。
曰く。
スキルとは体内の魔素を消費して発動する魔法のようなものである。
自身の身体能力の向上や、持っている武器の切れ味上昇などを起こす。
極めれば剣で遠くを切るとかハンマーで地震を起こすとかできる。
そして何より魔法とは違って詠唱がいらない。
「正直なところ実戦では魔法使いよりも武器を使うやつらのほうが強い。銃に魔素込めて撃てば大体の生物は死ぬ」
なにそれこわい。
待てよ。
アヴリルも銃持ってたな……。
スキル使ってたのか、今までも。
「スキルは大きく分けて六種類。斬、打、衝、撃、爆、護で、それぞれまた超初級、初級ときて極大級までの八段階ある。この八段階というのも根拠があって、それがジョブだが、それも説明するか?」
「お願いします」
アヴリルにはどうも既知の内容なのだろう。
自分の知識と比べてる様子だ。
去年とかにでも説明してくれればよかったのに。
「そうか。これも私の専門ではないので詳しく知りたかったらほかの教授に聞くといい」
また前置き。
保険をかけてるのかな?
まぁいい。
曰く。
一定の条件を満たすと身体能力が格段に上昇する現象がある。
それが就職、ジョブの獲得という。
これまた超初級から極大級まで。
“幼体”から全知全能の“神”。
それぞれの級につき一つずつ就職できる。
一度条件を満たせばその能力向上は永続的に発動する。
また、ジョブスキルというものを本能的に使えるようになるとか。
例えば短剣で斬属性上級を行使できるようになるとジョブ“暗殺者”となり脚力の上昇が見られ、ジョブスキル“隠密”を獲得する、など。
ジョブは多岐に渡り、中級のジョブには生産職もあるとか。
「アヴリルのジョブはなんなの?」
「超初級は“幼体”、初級は“村人”、中級はナシ、上級は“魔法使い”、最上級は“賢者”だよ。それ以上はまだ無理、というか条件が厳しすぎるの」
“幼体”は補正ナシ。
“村人”は人に産まれた瞬間に獲得する。同じく補正ナシ。
“魔法使い”はいずれかの属性で上級魔法を使えるようになると獲得。魔素操作力が上昇する。ジョブスキルは“高速詠唱”。
“賢者”はいずれかの属性二つで超級魔法が使えるようになると獲得。魔素操作力のさらなる上昇と魔素を感じる能力の向上が見られ、ジョブスキルは“並列思考”。
らしいです。
なんか強そう。
人の成長は長くても二十五歳までで、それ以上での就職は絶望的なんだとか。
というか情報量が多すぎてもう何が何だかよくわからん。
なんだか本格的にゲームっぽい世界だな。
「ところで今の僕ってどうなの?」
「“幼体”と“魔獣”の二つだよ」
要するに補正ナシっすね!
「つまりこれからの成長次第ってこと。今ならまだ自由に伸ばす点を変えられるってことだよ」
「つまり?」
「魔法をとるかスキルをとるかってこと」
マジか。
魔法は今中級の“アップドラフト”が使えるからちょっとやればすぐ“魔法使い”になれそうだ。
けど、魔法は才能ナシだろ?
すぐ行き詰まるんだろうな。
「まだスキルが上手く使えるって決まったわけじゃないし、もしかしたらそっちの才能がもっとひどいかもしれないから、まだ決めなくてもいいよ」
笑ってアヴリルは言うけど、これ一回就職したら変えられないんだろ?
軽く決められねぇよ。
ゲーマーの血が騒ぐ。
とりまジョブの一覧を見たい。
ものすごく気になる!
「ジョブの話は一旦いいかな?」
教授が急かしてきた。
時間もそこそこ押してるのかな。
気になるワード、ジョブの“神”とか聞いてみたいけど、またの機会に。
アヴリルは知ってるのかな?
「試しにスキルを使ってみましょう。ここではできないので場所を変えますが」
早速!
できるだろうか。
楽しみだ。
魔法は絶望的な分、期待する。