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ドラゴンだって弱いんです  作者: 留坂豪
マイマザー 後編
26/72

檻と書いてトラウマと読む

 


 全ての檻に魔獣が入り、その飼い主が出ていって少し経つ。


 時計を見ればそろそろ入学式が始まる時間だ。


 そして僕は檻の中。


 現在隣の狼に熱視線を向けられています。


 狼からなるべく距離をとるようにして目をそらす。


 ついでに魔法の練習も兼ねて魔素の塊を回す。


 なに?

 魔素の軌道がまるで狼を牽制するようだって?


 当たり前だろ怖いんだから!


 練習重ねて同時に操れる数とスピードも大きさも上がったよ、あはは。


 ついでに言うなら他の人が操る魔素なんてほとんどのやつが見えないけどね!


 ……早く檻から出たい。


 チラッと時計を見ても、先程から二分も変わっていない。


 視線を移すと狼と目が合った。


 ジュルリ。


 ひいいいぃぃぃーーー!!!


 今ジュルリって言った!?

 唾液飲み込んだ!?


 もう嫌だ!

 早くここから出たい!


 もう一方の隣の三毛猫は思いっきりリラックスして寝ちゃってるよ!

 羨ましいなちくしょう!


 ……?


 な、なんか他にも視線を感じるような……?


 怖々と猫のさらに奥を見やると。


 シュルシュルと長い舌を出す横長な顔。

 長い体躯。


 ……ラージスネーク。


 この世界に来た直後に襲ってきたあいつと同じ種だな。


 なんで目を怪しく光らせてるんですか?

 そんなに僕が美味しそうですか?

 そうなんですかそうなんですね。


 ジリッと後ろへ下がろうとすれば。

 羽に水が一滴。


 狼の唾液だ。


 びゃあああぁぁぁーーー!!!


 もうなんなんだよここ!


 リラックスするな猫おおおぉぉぉ!!!

 お前が一番ムカつく!


 最悪だよここ!

 大学なんて来るんじゃなかった!


 ちなみに魔素は未だかつて無いほど高速に回転してる。

 そのせいだろう。

 そいつが話しかけてきたのは。


「うるさいぞ、子竜」


「はいすいません!……は?誰?」


 声がしたけど、どこの誰?


 周りに人いないよな。


「我はこっちだド阿呆」


 声がしたのは向かいの檻からだった。


 そこにいたのは、狐。


 ただし尻尾が、六本ある。

 日本の動物園で見たものよりも大きい気がするのは気のせいではないだろう。


「ダメで元々と口を開いだが、貴様その歳で喋れるのか。ドラゴンと言うのはなるほど興味深い」


 なんだよこいつ!

 絶対変なやつに絡まれた!


 ん?

 でもうるさいって何が?


 声は出してなかったような……?


「それでいつになったら止まるのだ、その魔素は」


 あ、これ?


「すいません、嫌です」


 だって今も二匹とも爛々と目を輝かせてんだぞ?


 他に縋れる物がないんだ。

 精神安定剤的な?


 まぁ魔素なんて普通見えないからホントは意味無いけど、て、あれ?


「魔素見えるんですか?」


「貴様、我に喧嘩を売っているのか?その程度できなくて、九尾になれるわけなかろう!」


 いや知らねぇよ。

 九尾ってなんだよ、そもそも訓練すればなれるものなの?


 ファッサファッサと六本の尻尾をアピールしてる辺り、それなりの苦労と自信がありそうだ。


 育つとこれから尻尾が九本になるってことか?


 よう分からん。


 まぁとにかくこの狐は九尾になりたくて色々修行を重ねた感じなのかな?


 でも。


「正直どうでもいい……」


「貴様、食うぞ?」


 うわー、なんか増えたー。


 でもね?

 僕は生まれつきで見えてたし苦労とか知らないし。


 んなことよりも狼と蛇どうにかしたい。


「とにかく精神安定目的なアレで、魔素止められませんので」


「ふむ……。そこな狼と蛇のせいか」


 そうそれ。

 誰かなんとかして?


 躾がよくされているのだろう、騒ぐことなく静かにしている魔獣たち。

 二十数個ある檻の中の目はほとんどが声を響かせる僕らのほうを向いていた。


 そんな中。


「ふん」


 狐が白い魔素を放ち。


 ドサドサ、と二匹倒れる音。


「え?」


 倒れたのは、例の狼と蛇。


「これで安心か?」


「今……白い魔素?何したんです?」


「ほう?貴様も魔素が見えるのか」


 白い魔素は……光属性の魔法か。

 いや、光は発生してないな。

 てことは精神魔法か。


 えーっと狼の様態を見るに、息はある。

 てことは。


「精神魔法の“気絶”?」


 いつかの誘拐の時にアヴリルも使ってたやつだな。

 魔素の流れにも見覚えがある。


「ふぅん?知っていたのか。これはこれは」


 ……なんか目が鋭くなってません?

 嫌な予感が……。


「貴様、魔石を食らったことはあるな?」


 魔石を食らう?

 あぁ、いつかのスライムを殺した時のアレか?


 ……いい思い出じゃないけど。


「えぇ、まぁ一応」


 唐突に何の話だ?


「ならば話は早いな。魔石は魔獣にとっての核であり、経験の詰まった物である。それを砕けばその物の記憶が流れ込むのは知ってるな?」


 あぁ、あのスライムのアレな。

 嫌な記憶を割増させた原因か。


「……それが何か?」


「つまり相手の経験を自分のモノにできるわけだ。例えば光属性魔法が得意な魔獣を殺せば光属性魔法が少し使いやすくなるとかな」


 それは覚えがある。


 あのスライムのおかげで水魔法が使いやすくなった。

 けど、それがなんだって言うんだ?


 まるで殺し合うことが強くなることの最先端だけみたいなあの現象が、僕は嫌いだ。


「とりわけドラゴンというのは幼子であろうが魔法の力は圧倒的で、非常に美味い」


 ……あの狼と蛇が僕を食おうとする原因か。


「ただし貴様は今もやってるそれがせいぜいといったところ。体が白いせいか気になるが、ドラゴンにしては貴様はとてつもなく雑魚、つまり不味い」


 おう?

 やっぱ僕雑魚いんすね?


「ちなみに普通の子竜ってどれくらいなものですかね?」


「そうだな、ふむ」


 瞬間、ブワッッッと。


 先程僕が作った魔素の塊と同じものを十個、超高速で生み出し回転させた。


 僕はせいぜい四個、速さも段違い。


「これくらいか?」


 何の気なしに平然と狐は言う。


 こいつの全力も底が見えない。


 それにしても、なるほど。

 僕は不味いという事がよくわかった。


 ちくしょうドラゴン強すぎんだろ。


 いやでも待て。

 僕も頑張ればアレくらいできるようになるってことか。


 アヴリルにも操るのが下手なだけで操れる量は多いって言われてるし、希望が見えますね!


 ……なのになんでこいつの目は僕を獲物のように見据えてるんだ?


「まぁそんなわけで貴様は雑魚、つまり美味くないと思っていたのだが」


「……だが?」


 嫌な予感しかしない。


「貴様、なぜまだ子竜なのに話せる?なぜ精神魔法“気絶”を知っている?一体どんな経験をしてきたと言うのだ?」


 ……やばい。


 話せなくとも言葉は理解できるのだろう、多くの魔獣の目が僕の方だけを向く。


 冷や汗が出ていることに気づいた。


「まぁ簡単に言うとだ」


 狐が締めくくろうとしてる。


 嫌な予感というかもう確信だが。


 どう見てもほとんどの魔獣が僕を獲物として見ている。


 空を飛んで逃げる?

 何匹が翼持ってると思ってんだよ。


 魔法?

 狐に勝てるわけないじゃん。


 なるほど。


 檻に入るとろくなことが起こらないことがよく分かった。


 ちくしょう。


 いや、今は檻の中だから安心なのか。


 くそ、大学なんて来るんじゃなかった。


 狐が口を開く。


「貴様、美味そうだな」


 僕がストレスとかなんとかで気を失っていく中。


 隣の猫は退屈そうに大きく欠伸をした。





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