速い速い!
と、いう訳で出発の準備も終わった。
いや速いわ。
まぁ外に出られず他にすることもないせいだが。
大学に入る事が決定して一ヶ月。
九月に入りとうとう寮へと移ることとなった。
一年と少ししか過ごしてないこの家だが、まぁ思い入れがない訳でもないので寂しさはある。
大学卒業するころには大学がこの世界で一番慣れ親しんだ場所になってるだろうけど。
アヴリルはもっと寂しいんじゃないかな。
今はパタパタ家を駆け回り最後のチェックをしていて忙しそうだけど、昨日とかちょっとしんみりしてたし。
にしてもこの一ヶ月は忙しかった。
写真を撮らされたりアヴリルが書類書いてたり電話が鳴りまくってたり。
……?
僕、特に何もしてないな。
気にするのはやめよう、うん。
しょうがないね、僕は一歳。
一歳。
一歳……?
ドラゴンだから、で許されてたけど一歳らしからぬ行動ばっかとってた気がするな。
もうちょっとバカっぽく振る舞うか?
「ねぇ、イア?」
「あぁん?」
「……悩みがあるんなら聞くよ?」
「ごめんなさいなんでもないです」
だからそんな悲しそうな顔しないで?
罪悪感で傷つくから。
なんかちょっと、ほんのちょっと方向間違った気がするな。
まぁいい。
「で、何かあったの?」
「いや、もう行く時間だよ?」
……ほんとだ。
馬鹿な事考えてる場合じゃないな。
改めて一年過ごした家を見る。
大きな家具などは残していくが、小物は既に運ばれ、静かな印象を受ける。
次来るのは四年後か。
それとも退学か留年で年が変わるか。
なんにせよ、一旦お別れだ。
「行ってきます」
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「飛行機?これが?」
「うん、そうだよ。写真見せなかったっけ?」
見てないです。
今いるのは空港、そしてガラス張りの壁から飛行機が見える訳だが。
三角形の形、中央に球体、上下に離着陸時する機体。
一言で言うならば。
UFO。
僕の常識とかなり違う。
いや、僕だって飛行機に乗ったのなんて家族で北海道行った時の二回とかだし、そんなマジマジと見たことないけどさ。
けどテレビ見てりゃ露骨に違うのわかるよね。
これはないわー。
「この飛行機は割と最近出来たものらしいよ」
「そうなの?」
「なんでも超古代文明の乗り物解析した結果だって。車とかは軽いから小さい出力で飛ぶんだけど飛行機の上下離着陸は難しかったんだって」
へー?
あれ、でも地球じゃ小型化できないから飛行機のほうが上下離着陸できたんじゃなかったっけ。
魔法があるからかな?
最悪空間魔法で巨大エンジン使ってゴリ押しとかできそうだ。
魔素消費ヤバそうだけど。
それに車一台なのに地球と比べて相当な値段しそうだ。
というか超古代文明……?
この様子じゃ他の星から来た宇宙人かなんかか。
地球よりも高レベルに宇宙進出してそう。
「何より下手に遅いとドラゴンが縄張り主張してきて襲ってきたりするから、今までかなり飛行機って無駄が多かったのよね」
ふーん、そうなのか。
……おい、同族。
何やってんだ。
まぁつまりドラゴンより速く飛べないと遠回りした航路をくまなくちゃいけないってことか。
「ドラゴンも全員イアみたいに聞き分けが良ければいいんだけどね。頭が堅いとか、そもそも話せないのがほとんどだからどうしようもないんだって」
なるほど、すぐに話せた僕は驚かれるわけだ。
やっぱその辺りから一歳に疑問を覚えるな。
「その上でドラゴンって強いから強行突破もしにくいのか」
「そういうこと。だから里からはぐれた混血竜が縄張り作ると討伐の対象になるの」
「えっと……じゃあ母さんは飛行機落としたりしたの?」
「してないよ。でも卵を産んだら攻撃的になるからって理由で」
なるほどね。
まぁ理解出来なくはないけど。
理解したくないな。
混血竜は居場所がない。
故郷となるはずの各属性竜の里では基本混血は好まれず、追い出される。
そして外に出たら出たで、こうして討伐されるとか。
まるで世界にどこにも居場所がないかのような。
言ってもしょうがないか。
僕じゃ、どうしようもない。
まぁそんなこと考えながら時は進み。
さっきから人間ひどいだなんだ言ったけど。
文明とは素晴らしい。
「飛行機ってもっとこう窮屈なイメージだったんだけど」
何このふかふかなイスにシートベルト無しとか。
「どこでそんなイメージ持ったの?」
隣に座るアヴリルは笑いながら言う。
「えぇっと……見た目?」
前世のせいですとか怖くて言えない。
ちなみに僕は窓際をもらった。
ドラゴンよりも速いって聞いたら気になるじゃん?
アヴリルには苦笑されながらも譲ってもらえた。
……なんか普通にガキっぽいな。
でもしょうがないよね!
男子だったらこういうメカニックなあれこれとか気になってしまうだろう。
分かるよね?
分かれ。
『皆様これより当機は離陸致します』
アナウンスが流れ始めた。
揺れがどうの、立つと危ないよどうのという注意が流れ、地球のものとシートベルト関連がないこと以外同じことを言われ離陸し始める。
滑走路いらないとか便利だな。
操縦もほぼオートだとか。
そのうち一家に一台とか?
いや無駄にでかいだけか。
こんな大人数乗せるの一家に一台もいらねぇ。
「おおっ、浮き上がった」
窓から外を見ると離れていく地面が見える。
が、あまり揺れもなく安定した動き。
窓を見なければ離陸したかどうかも分からないレベル。
なるほど、シートベルトいらないわ。
動くとこによる重圧を全く感じない。
つまりは急停止しようが急加速しようがおそらく体に負担がかからないような仕組みになってるんだろうな。
魔法かな。
科学じゃ無理だろ、さすがにこれは。
しばらくして、上空で飛行機はその動きを変化させていく。
ただ上へ上昇するのではなく、横方向へ加速していく。
その加速はとんでもなく。
「え、うわ、速っ!」
「すごいでしょ?」
「めっちゃ速い!」
眼下の景色がものすごい勢いで流れていく。
遠くのものほどゆっくり動くはずなのに、それでもその速さは際立つ。
そのくせものすごく快適、まるでまだ地についているような安定感。
これが科学と魔法の力か……。
やりおる。