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ドラゴンだって弱いんです  作者: 留坂豪
マイマザー 前編
21/72

珍獣ってやつですね



 ……やばい。


 どうすりゃいいんだこれ。


 トラックから連れられ、どこか知らない建物の中。


 部屋の手の届かないところにある窓を見る限り、もう朝になっているようで。


 ちなみに一睡もできていない。


 そんな余裕ある神経してないんだよ……。


 これからどうなってしまうんだろうか。


 誘拐されたわけだし、売買か実験に使われるか。

 それともただの殺処分?


 ……うわぁ。


 檻から見ればいかにもなスキンヘッドさん。

 檻は抜けられないし、抜けても嫌な予感しかしない。


 これはあれだ。

 誰かが助けに来るのを待つしかないやつだ。


 ……うわぁ。


 どうしろと?

 ちょこっと空飛べる程度の俺にどうしろと?


 ついでに首輪が檻に繋がれている。

 要するに大して空を飛ぶことすらできないのだ。


 ……うわぁ。


 助けかぁ……。


 無理じゃね?


 そもそもどこだよここ……。


 き、聞いてみるか?

 あのスキンヘッドさんに。


 いや聞いても街のことが全然分かんないし意味ないか。


 べ、別に聞くのが怖いわけじゃないし?

 聞いても答えてくれないだろうし?


 ……アヴリルは今どうしているんだろう。


 警察には届けたんだろうなぁ。


 この現代、辺りに監視カメラなんていくらでもあるしすぐ見つかると思うんだけど。


 いや、でも待てよ。


 走ってる途中に黒い魔素に包まれたよな……。


 と、すると。


 空間魔法、転移とかですかねなるほど終わりましたはいありがとうございます。


 ……。


 …………。


 いやだ、ふざけんな。


 何してるんだ、早く誰か来てくれよ。


 もしこのまま……。


 いや、考えちゃダメだ。


 怖い。


 あぁ、そうだ怖いとも。


 この恐怖を乗り越えるために今までやってきたはずなのに。

 蓋を開けてみればこの様か。


 だよなぁ。


 そんな簡単に人って変われないよな。


 もう人じゃないけど。


 まぁそんなことは置いといて。


 どうすればいいんだ。


 僕はどうすれば……。


「なぁ、あんた話せんだろ」


 唐突に口を開いたのは、スキンヘッドさんだった。


「……」


 僕は何も答えない。

 いや、答えに窮するというか、答えられないというか。


「だんまりか。まぁそうだろうな。ピーピー喚く他の獣よりはそれがいいか」


 うわぁ。

 やっぱりこれさらうの慣れてんだろうなぁ。


 ほんとに助けとか来るんだろうか。


「状況はわかってそうだな。運が悪かったとでも思っておけ、お前はコレクター魂をくすぐるんだそうだ」


 失笑しながらスキンヘッドさんは言う。


「お前みたいな白いのばっか集めてる奴がいるんだよ、しかも話せるとくればな」


 あとは言わなくてもわかるだろ、とつぶやいた。


 なるほど珍獣ってやつか。


「あの、なんで話を……?」


「お、なんだ、話す気になったのか。意外と知能高そうだな、将来有望だ」


 一拍置いて再び口を開く。


「この年まで来ると何かとお節介を焼きたくなるんだ。次はないぞってことだな」


「次?え、それ今回は大丈夫ってことですか?」


「お?お前ちょっと察し良すぎないか?……まぁそういうことだ。ここのヤツら全然気付いちゃいないが、今回は分が悪すぎる。お前の飼い主、あれはやばいぞ」


「まるで他人事みたいな言い方ですね」


「残念ながら他人事だからな」


 タタタタタ……という軽い音が響いたのはその時だった。


 アヴリルに見せてもらった動画で聞いたことのある音。


 アサルトライフルだ。


「……そら見ろ、助けが来たみたいだな」


 緊張感のまるでない様子だった。


「派手に音立ててるな、陽動か?」


 銃声を聞き流しながら言う。


「双子座の杖。レイナー家に代々伝わる家宝だったか。そいつの様子とアヴリル・レイナーの強さが如何程かってのが分かれば俺はいいんだ」


「あ、あなたは一体……?」


「そのうち分かるさ、どうせまた会うことになりそうだからな」


 はっと笑いながらスキンヘッドさんは言う。


「さて、この部隊は壊滅、生き残りは俺だけでした、と。いつもの事か」


 哀愁を漂わせる後ろ姿を見せながら、魔法の詠唱を。


「空間の意思持ち、我が元へ来たれ。狭間を貫け。我をその先へ導け。開け、世界の扉」


 空間魔法。

 転移か。


「じゃあな、白竜。もっと気を付けて生きろよ?あ、そうそう、鍵ならそこにあるから」


 最後に指をすっと部屋の壁に向ける。


 黒い魔素の魔法が完成した。


「“転移”」


 ……ほんとに行っちゃったよ。


 何だったんだあのおっさん。


 間もなく、再び周りに黒い魔素が集まり始めた。


 今度はなんだよ、おっさんが戻ってくんのか?と思いながら見ていると、そこに現れたのは。


「イア?いる?」


「アヴリル!」


 マジか、ほんとに来た!


 良かった、助かる!


 けど、あれ?


「アヴリルって転移できたんだっけ?」


「私も日々進歩してるってことだよ。それにしても良かった、まだ無事みたいだね。上で今警察の人達が陽動してるから、今のうちに行こう」


「あ、鍵ならそこの壁に」


「ん?あ、ほんとだ」


 パタパタと壁のほうへ駆け、鍵を回収しながら言う。


「見張りとかいないのね、拍子抜けしちゃった」


「さっきまでスキンヘッドのおっさんがいたよ」


「そうなの?じゃあ陽動のおかげかな」


「いや、なんか双子座の杖がどうの、とか言って転移しちゃったけど……?」


 というかそもそもなんで地球じゃない異世界で双子座とかあるんだよ、と思ったけど気にしちゃいけないのかな。


「そう、その人、これを双子座の杖って知っていたのね」


 アヴリルが険しい顔をしながら呟く。


「詳しいことはまた今度ね」


 そう言ってアヴリルは檻の鍵を開けた。


「よし、行くよ」


 鎖の鍵も開け、アヴリルは立ち上がる。


 それについて僕も動き、飛行魔法でふわりと浮く。


 と、そこでバタバタと複数人の足音。


「……ちょっと人が多いかな」


 アヴリルは杖と一枚の紙を取り出した。


 紙には、魔法陣が描かれている。


「おい、やっぱりいたぞ!」


 人がこの部屋にも入ってきた。


 さぁ、どうする、アヴリル。

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