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ドラゴンだって弱いんです  作者: 留坂豪
マイマザー 前編
20/72

普通逆じゃね?


 “アップドラフト”が自由に使えるようになって一ヶ月が経つ。

 あれから少しずつの練習を重ね、ほぼ自由自在に空を飛べるようになっていた。


 まだまだ改良の余地はあるんだろうけど、それは一旦やめている。

 今はそれよりも他の属性の魔法の練習が優先。


 いろんな属性を使えたほうが便利っぽいし。

 風属性もいいけど、やっぱ火属性とかザ・魔法っていうの使いたいじゃん?


 今では風以外の七属性それぞれの魔素を無詠唱で出せるようになった。


 そこまでにも時間はそれなりにかかったのでなんとなくわかってはいたけど。


 中級魔法である“アップドラフト”で魔素の扱いに慣れたおかげで他の属性も余裕だろ、とか思っていました。

 そんな時期もありました。


「相変わらずだね」


「超初級からまともにできないとは思ってなかったよ……」


 アヴリルの呆れ笑いに落胆して返す。


 思えば風の超初級魔法だって使えるようになるまで一ヶ月はかかった。

 他の属性だって難易度はさほど変わらない。

 使い勝手だって変わるしそんなほいほい使えるようになるわけがなかった。


 全くもって僕らしい。


「もっと魔法っぽいの使いたい……」


「空飛べるって結構な魔法だけど」


「だってほら、ドラゴンじゃん?飛べて当然じゃないですか」


 魔法のない世界から来た身としては、切実な思いですよ。


 ほら、ドラゴンの口から放たれる強烈な火のブレスとか!

 翼から巻き上がる風の刃とか!

 咆哮だけで相手の魔法打ち消すとか!


 ロマンだよね。

 ドラゴンになったからにはやりたいじゃないですか。


 風の刃は出来るかもしれないな……。

 いやでも刃の作り方とか知らねぇや。


「はいはい、休んでないでどんどんやる!愚直に繰り返すのが最終的には早道なんだからね」


 そんな訳で今日もアヴリルのスパルタは続く。


 ここ最近は魔素の消費の少ない超初級魔法の練習だから休憩時間も少ない。

 休む暇なく繰り返し繰り返し。


 今のところやりやすいのは風を除けば水魔法だ。


 というのも、いつかに倒したスライムの記憶が流れ込んだのが原因だろう。

 あれから水魔法の感覚がなんとなくだけど分かるのだ。


 まぁ申し訳程度なんだけど。


 それでも実感できる程度にはあるのだ。

 同じようなことを繰り返せば上達は早くなることだろう。


 魔石を持たない人間と違って、魔物であるドラゴンなら他の魔物を倒せばいいのは分かる。

 分かるんだけどね……。


 どうしたって思い出すのは初めて殺したスライムの記憶。


 死んで、さらに死にかけた僕だからこそ、あのスライムの死ぬ間際の“生きたい”という感情が分かる。


 それが何よりも辛かった。


 だからさらに魔物を殺す、ということを躊躇っている。


 怖い。


 まぁ、かと言って。


 それ以外で強くなる方法はと言えば。


「やらなきゃいけないのは分かってるんだけどね……」


 愚直に練習を重ねる事だけだ。


 分かってはいるんだ。

 分かってるんだけどね。


 繰り返しとかつまらないじゃないですか。

 もっとほらこう……新鮮味溢れる楽しいことをしたくないですか?


 ダメですかそうですか。


 あ、待ってやめて、心を読んでそんな冷たい目で見ないで!


 やります、やりますから!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 今日の練習が終わった……。


 夕焼けをバックに街を歩く。


 魔物から街を守るための外壁を抜け、メインストリートから一本外れた人の少ない道を歩いていく。


 魔物である僕がいることによる混乱を避けるためにこうしていたけれど、もう僕がこの世界に来て半年が経つ。

 街の人たちも僕の存在に慣れ、メインストリートを通っても問題はなさそうなんだけど。


 どうにもアヴリルは人混みが苦手っぽい。

 人混みというか人間関係が。

 結局アヴリルの友達って時々家に来る数人しか知らないし、正直心配ではある。


 両親とも戦争で死んだそうだし……。


 本人もあまり気にしてなさそうだから触れないようにしてるけど……。


 いつか自分から話してくれないかな。


 でもせめてメインストリートは歩きたい。

 この一本外れた道でもいいけど、やっぱりメインストリートのほうがこの世界の発達した科学とか魔法とかが溢れてて、見てて楽しい。


 例えばほら、向かいからこちらへ来るトラック。


 タイヤがなく宙に浮き、音がほとんどしないとかどーなってんだってのをもっと見たい。


 アヴリルの半歩後ろを歩きながらぽけーっとそのトラックを見つめる。


 すると、やはりというかなんというか音も立てずにトラックが止まった。


 うむ、素晴らしい。


 後ろの扉が開く。


 中に見えたのは、アーム。


 所謂、マジックアームといえばいいか。


 それが迷うことなく素早く動き、僕の胴をつかんで。


“え?”


 声を出したつもりが、鼓膜が震えない。


 音が消されてる。


 あ、やばい。


 音も無いのにどうやって気づいたのか、アヴリルがぱっと振り返るも、僕は既にトラックの荷台に吸い込まれていて。


 アヴリルがパクパクと口を動かす。


 が、音は届かない。


 あれ?

 これやばくね?


 拉致ってやつですよね。


 こうなった魔物の運命って大体実験体とか虐殺とか、ろくな展開になりそうにないんだけど。


 血の気の失せた顔の前で、無情にもドアは閉まる。


 すぐにふっと体に負荷がかかる。

 トラックが動き出した。


 嘘だろ、マジかよやばい。


 どうしよう。


 は?


 こーゆーのって女の子がさらわれて主人公が助けに行くもんだろ、普通!


 逆!


 アヴリルと絶対立場逆!


 いやいやそんな現実逃避してる場合じゃない。


 と、そこへ。


 唐突にドアに穴が開く。


 物が過ぎていく気配。


 背後を見やれば、壁に突き刺さった銃弾が一つ。


 アヴリルの銃か。


 弾は、一発だけ。

 トラックへの抵抗らしい抵抗は、それだけだった。


 それから弾が来ることもなく時間は過ぎ、絶望したドラゴンを載せたトラックは止まる。


 あぁ。


 やばい。

 嘘だろ。

 マジで?


 はは、は。


 流石に今回は終わったかなぁ。






実は投稿始めて一年が経ってます。

そのうちペース上げます。

頑張ります。

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