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ドラゴンだって弱いんです  作者: 留坂豪
マイマザー 前編
2/72

逃げないと、死ぬっ!

 

 蛇。

 蛇だ。


 自分を丸呑みにできそうなほどの、大きな口。


 いやぁ。

 やばい?

 やばくない?


 待って?

 食べないで?

 僕多分美味しくないよ?

 ウロコとか案外硬いよ?


 冷や汗をかきながら、周りを見渡す。


 身の回りにあるのは、自分が割ったであろう卵の殻、洞穴の水たまり。

 行き止まり。

 入り口から見える、外の光。


 というか、広いなこの洞穴。

 ドラゴンってここまで大きくなれるんだ。


 いや、そんなこと今考えてる場合じゃない!


 どうすればいい?

 どうやって生きればいい?

 何をすれば生き残れる?


 この暗い洞穴の中で、白い鱗は目立つ。

 反対側の明かりになら紛れられるか?

 とにかくあの蛇には、今勝てる気がしない。


 なら、今は逃げることを考えよう。

 どうやら蛇は絶対の余裕で僕のことを見ている。

 出し抜けるチャンスはあるはずだ。


 蛇の黄色い目は、僕を睥睨して……。


 自分の体が震えていることに、ようやく気付いた。


 怖い?


 あぁ、怖いんだ。


 その、威圧する目が。

 その迸る殺気が。


 震える。

 体が、震える。

 震えが、止まらない……!


 滑り這ってにじり寄って僕に近づく、蛇。


 どうすればいい……?


 何を、すればいい!?

 どうすればいい!?


 体、体が動かないっ!


 逃げる、逃げる、逃げっ……!


 蛇は、ゆっくり確実に近付き、口を大きく広げ……。


 動けっ!

 何でもいいから動くものから動けよっ!


 蛇は唐突に加速して僕に向かってきた!

 それにようやく反応して、動くようになった体にすがり付くように逃げる!


 ズンッと、すぐそばの壁から音が響いた。


 はぁっ!?

 やばい、やばいやばい!


 なんでこの蛇、突進の勢いで壁に突き刺されるんだよ!

 危なっ!?

 躱せなかったらどうなってたんだよ、あれは!?


 やばくないか?

 なんだよこの世界の蛇?


 しかも、壁にぶち当たっても支障なく動いてるし!?


 逃げられない?

 いや、逃げるしかないのに……!


 どうすればいい?

 どうすれば……!


 無意識のうちに、少しずつ後ろに下がっていた体は、ふと、止まってしまった。


 トン……。


 か、壁……?


 こんなに狭かったのか、この洞穴?

 もう後ろに下がれない……?


 いや、違う。

 これ、壁じゃない。


 蛇の、尻尾だ。


 いつの間に回り込まれてたんだ?

 尻尾がもう、体の周りを囲っている!


 ……あ、ぁ。


 終わった……?

 もう、逃げられない……?


 死ぬ?


 巻き付かれて?

 絞め殺されて?


 嫌だ。

 それは嫌だ。


 死にたくない。


 戦う?


 でも、それは無理だ。


 何が出来る?

 爪か?

 尻尾か?

 魔法か?


 蛇は、容赦なく動き出す。


 くそ。


 生きるって決めたばかりじゃんか。


 でも、死ぬ?


 嫌だ。

 怖い。

 今度こそ終わりだ。


 嫌だ。


 死にたくない。

 死にたくない!


 嫌だ!


 僕は!


 僕は!

 生きたいんだ!


 生きるんだ!


 それでも、蛇の尻尾は僕の体に巻き付いて。


 ーーーーーァァァアアア!!!


 何かの生物の悲鳴が聞こえる。

 いや、あぁ、その音は僕が出してる。


 汗が止まらない。

 涙が止まらない。

 唾液が、鼻水が溢れ出る。


 死ぬのか?

 こんな簡単に?


 僕は?

 本当に?

 今度こそ?


 これは夢だったのだろうか。

 死んだ後に必ず見る、夢なのだろうか。

 来世なんかじゃなかったのだろうか。


 体は恐怖で動かない。


 依然、叫び声だけは虚しく響く。


 嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ!


 嫌だっ!


 その時。


 タァァァーーーン……。


 乾いた、発砲音だった。


 急速に力の抜ける、蛇の尻尾。


 かすかに香る、硝煙の匂い。

 人間らしき生き物の足音。

 抱き上げられる感覚。


 尻尾からの解放を感じて。

 緊張が抜けていくのを思って。

 再び襲う空腹に耐えられなくて。

 何かの、温もりを信じて。


 僕は、意識を手放したーーー。




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