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ドラゴンだって弱いんです  作者: 留坂豪
マイマザー 前編
19/72

たのしそうだね


「アヴリル?おーい!どこ?」


「イア!こっちこっち!」


 あ、いた。

 人混みの中、大きく手を振っているアヴリルを見つけた。


 良かった、一人だと道がわからないし、危なかった。

 このまま会えなかったらどうなった事だろう。


 まぁ、そんな仮定は置いといて。


 アヴリルのほうへ僕は向かう。

 そして着くやいなや怒られた。


「離れちゃダメでしょ、道わかんないんだから!」


「……ごめん」


「次からは気をつけてね」


「うっす」


 なんとも優しい怒り方。

 まぁでも、次はないんだろうなぁ。


 僕らが今いるのは、街の中。

 今までまともに外を見たことのない僕には、初めて見るものばかりで目があちこちに移ってしまう。

 アヴリルを見失ってはぐれたのもそのせいだ。

 僕は悪くない。

 ……いや、悪いか。


 とは言ったって、この世界の科学はすごい。

 魔法もあるというのに何故地球よりも発達してんだよ。

 店員もロボット、売られているのも興味の引かれるものばかり、そしてそれを当然として平然と歩いていく通行人。


 目が移るのは仕方ないだろう。


「ほら、行くよ?」


 アヴリルが歩き出す。

 僕もそれについて行くが、ある程度成長したとはいえまだ体の小さい僕では人混みをかき分けながら付いていくのは難しい。

 それなのにどんどん進んで行くアヴリルも悪くない訳では無いのだが、それよりも僕の目の離す頻度が多すぎたのはある。


「ってあれ?」


 やべぇ、また見失った。

 なんだあのドローン、カッコイイとか思ってんじゃねぇよ、僕。


 どうしよう、また見つかるかな。

 今度こそこっぴどく叱られる。


 うだーっと思っていると、視線を感じた。

 アヴリルかな、と思ってそちらを見ると、そこに居たのは知らない青年だった。


 ……?

 知らない?

 いや、どこかで見たことがあるような……?


 気のせいだろうか。

 いや、でも……?


 ん?とふと目を離しそしてまたそちらを見ようとして。


「え、うわっ」


 その青年はいつの間にか僕の前に立っていて、静かに僕を見下ろしていた。


 誰、だ?


 こうして近づいてくるということは、おそらく知り合いなのだろうが……。

 本当に分からない。


 どこで会ったんだろう。


 誰?


 いや、それよりも。


 何故。


 こんなにもこの青年に、恐怖を覚えるんだ。


 分からない。

 どこで?

 誰?


 怖い。


 じっとりとした嫌な汗が出る。

 喉がひりつく。


 恐怖。


 ただ、怖い。


 誰。

 本当に誰なんだ。


 やめろ、口を開くな、何を言う気だ。


 その青年は言う。

 ただ一言。


「たのしそうだね」


 瞬間、ぞわっと。


 僕は逃げるように駆け出そうとして、気づいた。


 通行人が全員足を止めて、こちらを見ていることに。

 そして全員、この青年と同じ顔、同じ服であることに。


「ーーーーーッ!」


 今度こそ僕はたまらず駆け出した。

 人のいない方へ。ただひたすら。


 大きな通りを抜け、路地裏へ。


 体が思うように動かない。


 走っているはずなのに、全然進まない。


「なんで……なんで!」


 怖い。


 何なんだあいつらは。

 誰なんだあいつらは。


 “たのしそうだね”って何なんだ。

 どうしてその一言にそんなに恐れるんだ。


 僕が楽しくいて何が悪い?


 どうして?

 何故?

 誰?


 その質問に答えてくれる人はいない。


 いや、いるとすれば。


 十字路の先の青年か。


「!?」


 素早く右に曲がり、駆ける。


 走る、走る、走る。


 うまく進まない。


 ふと顔をあげれば、道の先に青年がいる。


 慌てて戻ろうと後ろを見ても、そちらにも青年がいる。


 すぐ後ろに気配を感じた気がして振り向けば。


 やはりというかなんというか、そこに青年がいて。


「“アップドラフト”ッッッ!!!」


 上へ!

 道が塞がれたのなら、上だ!


 空へ。

 飛べ!


 飛行にも慣れてきていた僕は、ものすごい勢いで建物の屋上を抜け、飛び上がっていく。


 これで逃げられる。

 さすがに青年も空までは飛べまい。


 そう思って、建物の群れからさらに二十メートル飛んで、ようやく僕は止まった。


 ぱっと周りを見渡しても、青年の姿はない。


 逃げ切った。

 あぁ、逃げきれた……!


 なんだよ、くそ。

 びびって損した。

 最初から空を飛べばよかったな。


「ハァ……ハァ……なんだよ……ハハ……あ?」


 安心した。

 その時に気づいた。


 全ての建物の屋上に、青年が所狭しと立ち並び、僕を見つめていることに。


「ーーーーーーーーーーーーーーっ」


 僕は息を吸いこんで。


「ああああああああああああああああああああああぁぁぁーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!」


 魔法の制御を手放し、落下した。


 落ちる。

 怖い。


 死ぬ。

 怖い。


 青年。

 怖い。


 嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!


 何なんだほんとに!


 落ちるっ!


 とりあえず魔法を、と思うも上手く発動しない。


 なんで……なんでだよっ!


 嫌だ。


 あぁ。


 駄目だ。


 もう。


 目の前に、地面が迫って。


「ああああああああああああああぁぁぁーーーーー」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ーーーーーッ!?」


 はっと、目が覚めた。


 布団の中。

 アヴリルの家だ。


 窓の外は暗い。

 夜だ。


 ……夢、か。

 なんだよ、夢か。


 嫌な汗で、布団が少し湿っている。


 ふと顔をあげれば、そこにいるのは青年ではなく寝息を立てるアヴリルで、ほっと息をつく。


 あぁ、なんだ、良かった……。


 怖かった。

 本当に怖かった。


 体を丸めて震えたあと、ようやく僕は落ち着いた。


 そして考えるのは、夢のこと。


 あの青年のこと。


 誰だったのだろう、と。


 もう顔も思い出せないけれど、なんとなくのその雰囲気を思い出して、記憶と照らし合わせる。


 が、いくら探しても見つからない。


 顔を見るだけで恐怖を覚えるなんて、記憶にないわけないと思うんだけど。


 誰だったんだ……?


 そんなことをずっと考えているうちに、僕は再び眠りに落ちた。


 そして数日立つ頃には。


 青年が誰かはわからないまま、僕はこの夢のことを忘れていく。




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