魔法の力ってスゲー!
「飛んでる!飛べてんじゃん!ははっ!」
そう。僕は今、念願の”アップドラフト”を無詠唱で使って、宙に浮いている!
「イア!そんな注意力散漫だと……」
「あっ」
「あっ」
地面にたたきつけられた。
「ぐへっ」
「あー、やっぱり……」
ですよねー。
無詠唱で”アップドラフト”が使えるようになった。
ここまでどれだけ長かったことか。
三か月。ここまで本当に長かった。
詠唱付きで使えるようになったのは一か月前。
実は初めて使えたのは二か月前だ。
その時の喜びは大きかったが、直後にもう一度やろうとして盛大に失敗したのを覚えている。
安定して成功するようになったのが一か月前のことだ。
それでも時々ミスるんだけど。
そして始まった無詠唱での練習。
詠唱の補助がなくなったために、気を回さなきゃいけないことが増えた。
これできたんじゃねと試しにボールを投げ入れた途端、ボールが十メートル先の木にたたきつけられたのを見てぞっとしたのは記憶に新しい。
そんなこんなだったけど、ようやく無詠唱でも安定し始めて、今日。
実際に飛行訓練と相成ったわけだ。
以前にアヴリルの”アップドラフト”に乗ったことがあったから案外行けんじゃねって思ってました。
そんな時期もありました。
「あれっすね。魔法の維持と体勢の維持の両立とかきついっす」
「それはドラゴンじゃない私に言われても」
さいですか。
あいも変わらず問題は山積みだ。
今のだってたった一メートルの高さを維持しようとしただけなのにこれだ。
この状態から自由な方向に飛んだり、別のこと考えながら飛んだり、ほかの魔法使いながら飛んだりしたいのだ。
というかできるようにならなくちゃならないのだ。
どうしたもんだか。
練習あるのみか。
……知ってた。
「前に私がイアを飛ばした時は魔素の流れに乗ってって言ったけどさ、今回は逆に、体勢に合わせて魔法を使えばいいんじゃないかな。無詠唱の強みってそこじゃない?自由に魔法を調節できるってことなんだから」
「あー、なるほど」
それはそうかも。
それはそれで今までと”アップドラフト”の使い方が違いそうで難しそうだ。
少しは楽になるかな。
とりあえずやるか。
風の魔素を作り出す。
自分の体を囲むように道を整える。
そしてがっと魔素を流し込む。
周りを風が吹き荒れる。
ごうっと唸る風音。
足で地を蹴り、浮く。
ここか。
翼に合わせて道を修正してやる。
上へ。体勢に添わせて。
体から遠のいた部分はこちらに移動。
これもっとコンパクトにできるな。
使う魔素もまだ減らせる。
あれ?ここも削れるな。
ここも……。
……。
めっちゃ削れた。
あれっ?
こんなに制御楽なの?
おおっ、すげぇ。
いける、これならいける!
飛べ、飛べ!
高く、速く!
「おぉ、すっげ、はははっ!」
やべぇ、完全に飛べてる!
なんだ簡単じゃん!
元々“エアアシスト”の上位版だもんな、その感じで使えば良かったんだ!
ははっ!
笑いが止まんない。
今まで難しく考えすぎてたのかもな。
いつか、アヴリルに飛ばしてもらった時よりも高く飛べる。
そう言えば僕も成長したな。
結構大きくなったし重くなった。
それでも、飛べる!
街の綺麗な円型が見渡せる。
奥に農地が広がるのが見える。
街と街を繋ぐ道路が伸びている。
森が広がっているのが分かる。
道路を大きな檻を載せた車が走って行く。
森の中に割と立派な家が建っている。
あそこに見えるのは僕が産まれた山だ。
風の唸る音もいつしか打ち消せていた。
特に気にしなくても、浮いていられる。
方向転換も自在だ。
やった……やった!
「イア!?大丈夫なの!?」
「もう大丈夫!すごい、すごいよ、これ!」
もう最高の気分だ!
何しよう?
宙返り?
急降下、急上昇?
螺旋?
全部やってしまえ!
やっほーい!
うおおおおぉ!
ははははっ!
「イア!また落ちるよ!」
「大丈夫大丈夫!……う?」
あ、やべ。
くるくる回りすぎて頭が……。
お、あ、ミスった。
やばい。
落ちる!
うわあああ!?
「やっぱりね……。魔法用意しといて良かったよ“エアネット”」
すっと減速。
ふわっと地に降り立てた。
「ありがとうございます」
「はいはい、もう調子に乗らないの」
おっしゃる通りです。
何も言えねぇ。
「あれだね。唐突に制御失った時に自分で対応できるようにしたいよね」
それはあるな。
今だってテンパってまともに考えられてなかったし。
いやなんかミスる度にテンパってる気がするな。
これは直したほうが良いよなぁ。
でも性格だしどうしようもないか。
まぁ、このまま練習していこう。
なんとかやっていくさ。
僕はこの日。
ドラゴンに生まれ変わって初めて。
ドラゴンらしいことができるようになったんだ。