なんか来ました
それにしたって”アップドラフト”は難易度が高すぎる。
練習を始めて一か月。しかしまだまともに魔素の道を作れないでいた。
中級と初級じゃほんとに全然違うんだな。
「対象に風を授けん。上へ駆ける助けとなりて渦を巻け。”アップドラフト”」
無詠唱のことを考えて、詠唱による助けを意識する。
にしても詠唱ってどういう仕組みなのだろう。
言霊的な何かか。
文献を探してみてもいいかもしれない。
魔素の道は全体に均一に。
魔素の動きも安定させて。
「あ」
一部の魔素が操作からはづれた。
そこから魔素が乱れ道に負担をかけ、魔法が失敗に終わる。
「まただめか……」
「でもだいぶできるようになったんじゃない?今回は道も割とできてたし。ただやっぱり下のほうがバランス悪いかな」
絵心もないやつにバランスがどうのと言われてすぐにできるわけないじゃないか。
いや、できない俺が悪いんだけど。
魔法は難しい。
気にしなきゃいけないことが多すぎて必ずどこかでぼろが出る。
いったいいつになったら平然と使えるようになるんだか。
そんなこと言ってる場合じゃないか。
「よし、じゃあもう一回」
「あ、待って」
アヴリルの制止の声。
「ん?どうかした?」
まだ周囲に魔素は十分にあるし、体力もまだあるけど……。
なんかしたかな。
「うん、森のほうからなんか来てる。多分、早さと大きさからしてフォレストボアじゃないかな」
げ。
生き物ですか。
殺さなくちゃいけないやつですか。
ちょっとまだスライムの時のトラウマがあるんだけど。
ちなみに例の記憶が入ってくる現象は、魔物が魔物の魔石を砕いたときにおこる現象らしい。
フォレストボアは魔物じゃないから別にそれを恐れることはないんだけど。
あの生き物に止めを指す感触がどうもだめだ。
「ちょうどいいか。イア。属性魔法の、その先を見せてあげる」
なんすかそれ。
属性魔法の、その先?
属性ってわざわざつけるってことは、属性が関係ない魔法ってことか?
アヴリルが杖を構え銃を出し、戦闘準備に入る。
そういえば銃って片手で撃てるものなんだっけ?
両手で構えないとまともに当たらないって聞いたことがあったような。
右手に銃、左手に杖っていうスタイルで大丈夫なのかな。
いや、大丈夫じゃなきゃやってないか。
「装填」
銃についた魔石が光り、少し魔素が減ったのが感じられる。
短文詠唱。魔鉱石か。
「消滅の意思持ち、我が元に来たれ」
初句が、二句?
あと、消滅って何だ。
魔素の変異は、火属性に似ている、かな?
「存在を否定せよ」
と、そこで森の木々からそれが顔を出した。
高さ一メートル、上から見て縦に二メートルほどか。
大人のサイズ。
茶色の体毛に大きい牙。
フォレストボアだ。
実物を見るのは初めてだけど、この森に生息する動物の一覧は前に見せてもらった。
フォレストボアは、魔法を準備しているアヴリルを認めるや否や、アヴリルに向かって突進する。
「あ、アヴリル!」
声を出して警告する。
それにアヴリルは余裕の笑顔で返す。
パァン!
銃声。
弾はフォレストボアの牙にあたり、強引にその進路を変える。
「その流れを断ち切れ」
それと同時に魔法も完成したようだ。
銃を下げ杖を前へ突き出す。
「”ディスサーキュレイション”」
フォレストボアの、血の気が失せた。
文字通り。
そのまま足を引っかけ突進の勢いで地を滑る。
ザザザとアヴリルの横で止まった。
……かっけぇ。
っていうか待て、何が起こった?
「よし、じゃあこれは冒険者ギルドに持っていこう。空間の意思持ち、我が元に来たれ。四次元を開け。隔離せよ。”ディメンション”」
フォレストボアの死体が消えた。
いやいや待て待て。
前から不思議ではあったのだ。
アヴリルの持っているポーチ。ありえない量が入る、四次元ポケットといっていたか。
仕組みが科学でどうにかなるとは思っていなかったけど、どんな魔法だよと思っていたのだが。
ドラ〇もんのは科学だしあり得んのかなと思ったけど、やっぱ魔法か。
「あの、アヴリル先生。今の魔法は何でしょう」
「属性魔法のその先、属性外魔法の消滅魔法と空間魔法よ」
なんすかそれ。