外に出れないって辛すぎやしませんか
部屋にこもっているだけでも、割とストレスはたまるものである。
その上、この期間にできる魔法の練習と言えば魔素の塊を延々と回し続けるしかないのだ。
体力のあまり消費しないそれは、アヴリルに休憩させてくれ、という言い訳になりえないわけで。
結果。
ぐったりとした子供のドラゴンが一匹転がる今の状況につながるわけである。
決意?
そんなのもあったね……。
よく三日も保ったねってほめてほしいぐらいだ。
「もう。これくらいでへばるような根性なら戦争なんてやっていけないよ?」
うぐ。
それを言われるとつらいな。
「まあ、外に出れないのがつらいのも、この練習が地味なのもわかるけどね」
なんだ、アヴリルだってわかってんじゃん。
「と、言うわけで外に出してください」
「うーん……でも約束だからなぁ」
「少し外に出るぐらい大丈夫だって!」
アヴリルも迷ったような顔だ。
うん、もうひと押しだな。
「それに、この時間は立食パーティーって町長言ってたじゃん。もう夜だし見つかることないって!」
「そう、かなぁ。まぁ、少しぐらいなら大丈夫かな?」
よし、勝った。
所詮は十六歳。精一杯頼めばどうとでもなる。
……こんなこと続けてたらいつか取り返しのつかないことになりそうだ。
今後気を付けよう。
まぁ、今はそんなことを気にしてなんかいられない。
やっと外出許可が出たんだ!
「じゃあ行ってきまーす!」
「待って、私もついていくから!」
バタバタとアヴリルが準備し始める。
あー、ついてくるのか。
ついてきてもらったほうが安全だしいいか。
そしてアヴリルは部屋に戻って。
「っとと。お待たせ、じゃあ行こうか」
例のバックとともに軽く服をまとめたアヴリルが出てくるまで、軽く十分は経ったか。
いつもよりは早いけど、にしても長かった……。
どうしてこうも女性の準備は長いんだ。
まあいいや。
今の僕は機嫌がいい。
”ウィンド”を固めてドアのカギとドアノブを回す。
これにも慣れたもんだ。
できるようになるまで少し時間がかかったけれど、使えるようになってからは色々便利だ。
特にカギを開けるなんて難易度高すぎだ。
そしてドアを開けて、外へ。
出迎えるのは夜の街。
出てすぐは暗めの通りだけれど、少し曲がれば明るい通りに出れる。
きっと空から見れば円形に輝く街と、隣町に続く道が煌々と照らされて見えるはずだ。
こんな時間でも配達のドローンが空を飛んでいるのが見える。
音は全くしないけどね。
「どこ行く?」
「……イア、決めてなかったの?」
「うん。外に出たかっただけだし、あんまりこの町歩いたことないから何があるかわかんない」
分かるのは街門までの道と、アヴリルについていって知ったスーパーマーケットだけだ。
「じゃあ、近くの公園に行こっか」
「そうだねそうしよう」
夜の公園か。
いいね。見てみたい。
「こっちこっち。行くよ」
アヴリルが先導して歩いていく。
明るいメインストリートから離れていく。
とは言っても、公園はすぐ近くだった。
広さは外周一キロメートルほどだろうか。
まあまあ広めだ。
公園の中は明るすぎず暗すぎず。
公園を一周するように道ができている。
自然の多めなきれいな公園だ。
「ここ一周していけばちょうどいいかな?」
「うん、いい感じだね」
僕らは公園に入っていく。
そして早速、近くのベンチでイチャイチャしているカップルを発見した。
してしまった。
……まあ、いい雰囲気の公園だし、別にいいと思うよ?
アヴリルは軽く頬を赤くして目をそらした。
かわいい。
にしてもアヴリルには彼氏とかいないけど、どう思っているんだろう。
友達と会っているところもあんまり見ないし。
時々友達が遊びに来たりするけど、その数は少なすぎやしないだろうか。
家庭環境とかその他もろもろあったのか。
あんまり首は突っ込んじゃいけないかな。
じーっとアヴリルを見ていると、慌てたように言う。
「ほ、ほら!ただ歩いてるんじゃなくて、魔素固めて回しなさい」
「えぇ……。今ぐらいいいじゃん」
「ダメダメ。早く強くなって、処分なんてされないようにしないと。それに、強くなきゃ、何にもできないし」
最後にふとアヴリルの顔に陰りがさす。
時々見せる顔だ。
見ていてあんまり気分のいいもんじゃない。
十六で親がいなければそんなものだろうか。
「とにかく!強くなれば戦争に出される前に逃げられるかもしれないよ?戦争しなくてもよくなるって」
お。
それは魅力的な案だ。
「でも、今日ぐらいは良……?」
チリっと、首筋が焦げ付くような感覚がした。
驚いて首筋を触って振り返る。
しかし、何もなければ誰もいない。
……気のせいか。
視線を感じたと思ったけど。
そんな超感覚が僕にあるわけないか。
だいぶ歩いて例のカップルは遥か後ろだ。
「どうしたの?何かあった?」
急に言葉を区切った僕に違和感を覚えたのだろう。アヴリルが聞いてきた。
「いや、何でもない」
「そう?はいはい、いいから魔素固めて!」
「いやいやいや」
「いやいやいや、じゃない」
そんなこんなで問答を繰り返して公園を回りきった。
結局練習はしなかった。
ふふ、僕の勝ちだ。
僕らは帰路へついていく。
そして今日は程よい充足感とともにぐっすり眠り、そのまま日は流れ。
約束の一週間も過ぎ、例の国王もこの町から出たと町長からのお達しが来た。