練習あるのみ!
この世界、初めての雨から一週間が経つ。
あれから練習メニューは過酷になる一方だ。
「休憩はまだっすか……?」
「何言ってるの、二時間前にしたばっかりじゃない」
二時間前はばっかりではないと思う。
初日のような休み休みなペースは今や見る影もない。
もともと初日だって、魔素さえ尽きなければとことんやるつもりだったようだ。
今やっているのは超初級風魔法。
おかげで魔素の一回あたりの消費も少なく、休憩はなかなか来ない。
その上でこのもはや見慣れた広場と街の往復の間も、魔素の塊をクルクル回しながら歩かなきゃいけない。
ちなみに、雨が降っていないとせいぜい操れるのは一個だ。
アヴリルは同時に十個、それも一つ一つが大きく、その上動きも綺麗にやっていたのを見せてもらった。
これが完成形か、と思うと先が遠すぎて涙が出そうだ。
そんなこんなで一週間を過ごし、できるようになったことと言えば。
「風よ、我が元に」
もう何度も繰り返した起句。
よく見れば、あの青い世界は軽く緑がかっているのが分かる。
「ウインド」
静かに、風が流れた。
夏ならば風鈴を鳴らすのに丁度良さそうな風。
「もう、これは形になったかな。大分慣れてきたんじゃない?」
「や、やっと次……?」
「そうだね、そうしよっか」
よっし、一週間の努力は報われた……!
そもそもこの風魔法、対象限定も無く、必要な魔素量も少ない、今どき誰でも一日で使えるようになる雑魚魔法だ。
それでも僕じゃ本当に小さな範囲から少しずつ大きくして、一週間でようやく普通人間ができるレベルになった。
それでもようやくできるようになったことは嬉しい。
初めてまともに魔法を使えるようになったとも言う。
なんて今更な。
「じゃあ、無詠唱でやってみよう」
えー、新しい魔法をやるんじゃないのか。
そんな不満げな顔はアヴリルに読み取られたみたいだ。
「あのねぇ、このままだと、今はいいけど成長したら図体だけでかくて的の大きい、人間の完全劣化になっちゃうよ?」
うぐっ。
そう言われると何も言えん。
「まぁ、戦争になったらそこそこ活躍できるだけでいいから、せめて無詠唱できるようにならないと」
だよなぁ。
やらなきゃいけないのは分かるんだけどね。
こう、なんと言うか面倒くささが勝ってしまう。
いやいや待て待て。
この世界では真面目に生きる、そう決めたんだし頑張らなきゃ。
「使えないレッテル貼られてどこにも居場所がなくなったらヤバイもんなぁ」
「はいはい、休んでないで!やるよ?」
「了解っす!」
さて無詠唱だが。
薄く見える青い視界に集中して意識を向ければやりやすい。
超初級風魔法“ウインド”に限らず、風魔法は魔素と空気をリンクさせるところから始まる。
詠唱の起句に当たる部分だ。
これに伴い、魔素は軽く緑がかる。
まずはそこから。
詠唱の補助なしで構成しないといけない。
これさえ慣れれば風魔法全般の無詠唱は大分楽になる。
無理に広い範囲をやろうとしても許容量オーバーで失敗するのは目に見えている。
だから小さな塊を作ってから始める。
大きさは半径十センチほどにして、と。
空気とのリンクは、魔素に小さな空間を作ってそこに空気を馴染ませるイメージ。
魔素の球形の塊を一気に加工する!
しかしうまく決まらなかった!
魔素の塊は霧散した!
「あっ」
「あー、それくらいいけるかと思ったのに」
むむ。
これでも許容量オーバーか。
詠唱付きなら結構広い範囲に風を吹かせられたのに。
無詠唱はやっぱりむずいなぁ。
また小さいのからやり直さないと……。
それでも詠唱有りの感覚があるから無詠唱もやりやすいほうなのは成長したと言えるかな。
魔素と空気のリンクは、塊まとめてやらないと端から崩れていく。
しかしまとめて大きくやろうとするとやっぱり崩れる。
自分に調節できる限界を見極めて、その限界を少しずつ大きくしていく練習の繰り返しだ。
完成系は果てしなく遠い。
上昇気流魔法は中位魔法に位置するし、アヴリルなら“ウインド”だって僕より広範囲で強い風を吹かせられる。
この体にも慣れた。
飛ばなくても翼を使えるから、それなりの速さで走れるようにもなった。
この一週間で伸びた部分も多い。
練習は無駄にはなってない。
「よし、もう一回!」